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第3話 類は友を呼ぶ。面倒な友を呼ぶ。⑥

 梛は呆れたように吐息すると、慣れた手つきでスマートフォンを操作し、二人に買い物リストを送った。


 すると、送信完了を知らせるかのように再びインターホンの音が鳴り響き、本命と思われる人物たちの来訪を告げた。


「あ、やっと来たみたい」


「……本当か? 陽葵と桔梗を装った綾芽さんだったりしないよな?」


「それはないでしょ……とは言い切れないのが、またね……」


 美卯は苦笑しながら玄関へと向かう。


 意外なことに、陽葵(と思われる人物)は綾芽と違ってインターホンを連打することはなく、一度鳴らすと美卯が出るまで大人しく待っていた。

 ……が、扉が開いた途端、その配慮はどこへ行ったのか、騒がし――賑やかな声が聞こえてくる。


「こんちはーっす!」


「お、お邪魔します!」


「おう、いらっしゃい。お茶淹れるから、ゆっくりしててくれ」


 梛は陽葵と桔梗にくつろぐよう促すと、キッチンへ足を向けた。

 お湯を沸かし直し、ティーバッグを入れたポットに熱湯を注いでいく。


 珈琲は九十度くらいがちょうど良いと言うが、紅茶は沸騰直後の百度で淹れるといいらしい。

 理屈はよくわからないが、これで美味しい紅茶に仕上がるというわけだ。


 あとは紅茶に合うような茶菓子を……うん、クッキーだけじゃ足りないだろうし、ポテトチップスとかも出しておこう。


「あ、あの……お兄さん、これどうぞ!」


 と、梛が戸棚を漁っていると、いつの間にか背後に立っていた陽葵と桔梗が、紙袋を差し出してきた。

 どうやら彩峰家に泊まるにあたって、お土産を用意してきたらしい。しかし、まさか昨日の今日で用意してくるとは……。


「わざわざありがとな。そんな気にしなくてもいいのに……」


「いやいや、お世話になるんすからそういうわけにはいかないっすよ」


 陽葵が言うと、桔梗も賛同するようにこくこくと頷く。なんとも礼儀正しい子たちだった。


「そうだな……せっかく買ってきてくれたんだし、みんなで食べるか」


 梛はもらったお土産の包みを開けて一部を平皿に移すと、紅茶や他のお菓子と一緒にテーブルへ運んだ。

 買い物に行ってくれた二人には申し訳ないが、先にいただくとしよう。


「そういえば、ここに来るとき、凜桜先輩が副会長の手を引いて、ものすごい勢いで走ってったんすけど、何かあったんすか?」


「……いいか、陽葵。世の中には知らなくていいこともあるんだぞ?」


「ひっ……!」


 梛が神妙な面持ちでそう言うと、桔梗は短く悲鳴を上げて身をすくめた。

 冗談のつもりだったのだが、どうやら怖がらせてしまったらしい。


「お兄ちゃん……」


「悪い悪い。二人は足りない食材の買い出しに行ってくれただけだよ」


「『行かせた』の間違いでしょ?」


「お前は何を見てたんだよ……」


 と、梛と美卯がいつものように言葉を交わしていると、そのやり取りを聞いていた桔梗が、くすりと笑った。


「どうかしたか?」


「い、いえ! その……いつもの美卯ちゃんと、ちょっと違うなーって思って……」


「そうなのか?」


 梛が問いかけると、桔梗の代わりに陽葵が答える。


「そうっすねー、いつもはもっと……」


「もっと?」


「……すみません、梛先輩。命が惜しいんでこれ以上は言えないっす」


「美卯、お前普段何してんだ……?」


 今度は梛が恐怖した。


 友人が「命が惜しい」などと言い出すほどなのだから、余程のことがあったのだろう。しかもこの様子だと、美卯に口止めでもされているように思えた。

 まさか、クラスメイトにも兄にするのと同じような仕打ちを……。


「……俺はともかく、友達には優しくするんだぞ?」


「なにか勘違いしてるみたいだけど、陽葵が大袈裟なだけだからね? ……余計なこと言わないように」


 美卯は半眼を作って梛を見やったのち、隣に座る陽葵と桔梗にしか聞こえないであろう小さな声で呟く。


 二人もまた、梛に気づかれないよう、美卯にだけわかるほど小さく頷いた。


「そ、そういえば、梛先輩に頼みたいことがあるんすよ」


 と、陽葵が話題をすり替えるように話を切り出した。


「また、自分とゲームで勝負してくれないっすか?」


「昨日、散々やっただろ……」


「リベンジっすよ! 負けたまんまじゃいられないっす!」


 言って陽葵は、自信ありげに腕組みをする。


 昨日、梛にこてんぱんにされて泣きそうになっていたというのに、なんとも立ち直りの早いことだ。

 これが美卯なら、まだ拗ねているだろう。


「わかったわかった。じゃあ、飯のあとで――」


「ご飯の前にお願いするっす! 美味しいものを食べてから負けるより、負けてから美味しいものを食べたいんで!」


「負ける前提かよ……。まあ、いいけどさ」


 梛は苦笑しながら席を立ち、テレビ台の下からケースを取り出した。


「色々あるけど、どれにする?」


「好きなのでいいっすよ! 本気の梛先輩に勝たないと意味ないんで!」


「……そんなこと言ってると後悔するよ? お兄ちゃん、格闘ゲームとかだと卑劣な手しか使わないし」


 梛のゲームの腕前を嫌というほど知っている美卯は、からかうように言いながら、紅茶を口に運ぶ。


 正々堂々戦っていたつもりなのだが、まさかそんなふうに思われていたとは……かなりショックだ。

 一体、遠距離からチクチク攻撃したり、相手の復帰をひたすら阻止することの、何が卑劣だというのか。立派な戦術のひとつだというのに。


「上等っすよ! むしろ、どんなふうに戦うか楽しみっす!」


 美卯の脅しを気にすることなく、陽葵は梛の隣に座り、準備万端といった様子でコントローラーを手に取る。


 梛も同じようにコントローラーを手に取って始めようとすると、美卯、桔梗、楓の三人が、後ろのソファに移動し、まるで映画を観るかのようにくつろぎ始めた。

 しかもローテーブルの上には、先程梛が出したお菓子や紅茶まで用意されている。立派な鑑賞会だった。


「お兄ちゃん、頑張れー。あまりいじめすぎないようにねー」


「人聞きの悪いこと言うなよ……」


「お、お兄さん。頑張ってください!」


「ちょっと! 自分への応援はないんすか!?」


 陽葵は不貞腐れたように頬を膨らませる。見かねた楓は、励ますように声をかけた。


「ひ、陽葵ちゃんも頑張って!」


「ふっ……楓先輩は自分の味方みたいっすね……。楓先輩の思いを胸に、打倒梛先輩っす!」


「いや、誰からも応援されない陽葵を哀れに思っただけでしょ。楓ちゃんは優しいから」


「そこ、うるさいっすよ! ……梛先輩、いざ尋常に勝負っす!」


 声援を背に受けながら、二人はコントローラーを握りしめた。

 賑やなか雰囲気の中、梛と陽葵の真剣勝負が今、幕を開ける。

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