第3話 類は友を呼ぶ。面倒な友を呼ぶ。③
その日の夕食後、梛は食器を洗いながら、いつものようにだらだらと美卯との会話を楽しんでいた。
ちなみに凜桜は一人で入浴中。
一緒に入ってくれない梛を惜しむようにして、何度も振り返りながら浴室へと向かっていった。
まるで「ハウス」と言われたときの犬のようで、なにも悪いことをしていないのに、なぜか申し訳ない気持ちになってしまった。
おそらく今も湯船に浸かりながら、梛が来るのを今か今かと待っているのだろう。まるで忠犬のように。
「そういや明日、陽葵と桔梗が泊まりに来ることになったんだけどさ、二人って何か好き嫌いあるか?」
「んー、多分ないと思――……今なんて?」
と、美卯がスマートフォンから顔を上げて言ってくる。
「二人に好き嫌いがあるか」
「違う、その前」
「明日、陽葵と桔梗が泊まりに来る」
「……なんで?」
「……成り行きで?」
梛が疑問形で返すと、急な展開についていけないといった様子で、美卯は額を押さえた。
「……ごめん、ちょっと待って。え、陽葵と桔梗が泊まりに? なんで? そもそも、お兄ちゃんって二人と顔見知り……じゃないよね。ナンパでもしたの? ……もしかして、お兄ちゃんって年下が好み……なの?」
美卯は侮蔑や嫌悪感など、さまざまな感情が詰まった視線を向けてくる。
まあ、仮に兄がロリコンだとしたら、そういう目を向けたくもなるはずだ。
言うまでもないが、もちろん言いがかり。勘違いも甚だしい。
「初対面だったし、むしろ逆だな。帰りに捕まって、そのままゲーセン連れてかれた。あと、俺はロリコンじゃない」
「ゲームセンター……? あー……多分、私のせいだ……」
思い当たる節があるようで、美卯は目を逸らして気まずそうに頬をかいた。
「だろうな……。陽葵も『美卯から強いって聞いて、いつか勝負したいと思ってたんすよねえ』って言ってたし」
「……だとしても、なんでその流れで泊まりに来ることになるわけ?」
「『負けたら勝った方の言うことをなんでもひとつ聞く』って罰ゲーム設けた上で勝負することになって、手加減したら美卯みたいに怒るだろうなーって思ったから、完膚なきまでに叩き潰……蹂躙して」
「大して意味変わってないし。というか、やっぱりお兄ちゃんが勝ったんだ」
「最後の方、涙目になってて、すごく申し訳ない気持ちになった」
梛は苦笑しながら話を続ける。
「で、陽葵が『勝ったら梛先輩の手料理食べさせてもらうつもりだったのに……』って、あまりに悲しそうにするもんだから、まあそのくらいなら……って言ったら、明日来ることになった」
「そうはならないでしょ」
「なってるんだよなあ……。しかも桔梗まで目を輝かせてたし」
梛が言うと、渋々納得したようで、美卯はソファの背もたれに深く身体を預けた。
「……二人が泊まりに来るのはわかったけど、私の方になんの連絡も来てないのはなんで?」
「それを俺に言われてもな」
「……まあ、そうだよね。にしても明日って早すぎでしょ。こういうのって、少なくとも一週間前とかに決めるものじゃないの?」
「四月は今週以外、土曜にシフト入ってるからな。明日を逃すと来月になるから、やむを得ずって感じだ」
言って、梛は肩をすくめる。
学校のことを考えると、泊まれるのは金曜日の夜から土曜日、もしくは土曜日から日曜日になるのだろう。
しかし、梛の予定を加味すると、明日明後日以外ではゴールデンウィークくらいしか予定が合わない。
連休はただひたすらにゆっくりしたいので、先に予定を消化しておこうというわけだ。梛は苦手な食べ物を先に処理するタイプである。
「というわけで、明日二人と楓が泊まりに来るから、午前中に掃除とか済ませるぞ。あと、来客用の布団……だけじゃなくて、ちょうどいい機会だし、家にあるの全部干すか」
「あ、楓ちゃんも泊まるんだ。久しぶりじゃない? いつぶりだろ」
「多分……小学校の時以来だな。まあ、隣なんだからいつでも来れるし、泊まる意味があるのかって話ではあるけど」
梛は水気を拭き取った食器を棚にしまって、冷蔵庫からアイスキャンディーを二本取り出す。
一本を美卯に手渡し、そのまま隣に腰掛けた。
「そういやさ、二人って結構飯食ったりするか? 好き嫌いないなら、それによって何をどのくらい作るか決めようと思ってるんだが」
「んー……陽葵は給食のとき、積極的におかわりしに行ってたけど、桔梗はそんなにだった……はず。お弁当は、お兄ちゃんが作るのと同じくらいの量だったと思う」
「やっぱ陽葵は食うよなあ。となると、量は多い方がいいか。あと、食いごたえがあるもの……か」
梛はアイスを口に咥えながら、スマートフォンに指を滑らせる。
「『育ち盛りの小学生におすすめ! 美味しい肉そぼろ丼の作り方』……『男三人兄弟の母ちゃんが教える秘蔵レシピ』……『野菜嫌いな子供も一撃で! 美味しく野菜を食べられる料理三選』……どれもあんま参考にならないな……」
「それ、男子小学生向けのじゃない? いやまあ、たしかに陽葵なら……って思うけど」
「んー……どうすっかなあ……」
「夕飯前にポテチでも食べさせておけば、それである程度お腹膨れるんじゃないの?」
「それだと、なんでうちに来るんだってなるだろ」
などという失礼な会話を、凜桜が風呂から上がってくるまで延々と繰り返し、明日の夕食は唐揚げに決定した。
これなら誰が作っても失敗しないし、大量生産も可能なので、陽葵と桔梗もきっと満足してくれることだろう。




