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第3話 類は友を呼ぶ。面倒な友を呼ぶ。②

「――お、お兄さんに楓さん!?」


 と、梛が首をひねって考え込んでいると、三人の前に新たな人物が現れた。


 陽葵と正反対の長い髪でいて、陽葵と瓜二つのくりんとしたあどけない瞳をした少女。

 走ってきたのか呼吸は乱れ、その表情はどこか慌てふためいているように感じられた。


「こ、こんにちは! お兄さん、楓さん!」


「こんにちは、桔梗(ききょう)ちゃん」


「お、おう……?」


 陽葵同様、楓はこの少女とも知り合いらしく親しげに挨拶している。一方で、梛は相も変わらず困惑していた。

 それを察したのか、桔梗と呼ばれた少女はぺこりと梛に頭を下げる。


「は、はじめまして、お兄さん。いつも美卯ちゃんにお世話になっています、神崎(かんざき)桔梗でしゅ!」


 顔を上げると、桔梗は噛んだのを恥ずかしがるように上目遣いで見てくる。その隣では、陽葵がお腹を抱えて笑うのを堪えていた。


 二人の反応にあえて触れず、梛は納得したように相槌を打つ。


「なるほど、美卯の友達か。どうりで俺のことを知ってたわけだ。こちらこそ、はじめまして。美卯と仲良くしてくれてありが――」


「ちょっと待つっす。『はじめまして』って、どういうことっすか? ……え、もしかして本当に初対面なんすか?」


 陽葵は話を遮ると、その丸い瞳をぱちくりとさせながら、心配そうに恐る恐る訊いてきた。


「ああ、俺の記憶が正しければそのはずだけど……」


「中学校の頃から校内でたびたびお見かけしていましたが、こうして直接お話しするのは今回が初めてです! 陽葵が勝手に勘違いしていただけなので、お兄さんは気にしないでください!」


「……つまり、全部自分の勘違いで、こっちが一方的に梛先輩のことを知っていただけってことすか? ……ただただ恥ずかしいだけじゃないすか……」


 桔梗に現実を突きつけられ、陽葵は顔を隠すようにその場にしゃがみ込んだ。


 まあ、顔見知りだと思っていた人が、実は一方的に知っていただけなんて、大事な場面で噛むのと同じくらい恥ずかしいだろう。

 いやー、その相手が友人の兄で、しかもとてもとても優しい先輩でよかったよかった。


「えーっと……じゃあ、『将来を誓い合った』っていうのも嘘でいいんだよね?」


「全部、陽葵の妄想だな。そういうお年頃なんだろ」


「容赦ないっすね!? 可愛い後輩を慰めようとは思わないんすか! というか、それに関しては冗談で言っただけっすから!」


 陽葵は恥ずかしさを追いやるように声を荒らげながら勢いよく立ち上がると、キッと梛を睨みつける。

 その様はまるで、昔動物園で見たレッサーパンダを彷彿とさせた。


「……いい機会っすね。梛先輩、このあと時間あるっすよね? バイトも休みだし」


「なんで知って――……いや、美卯の友達なら聞いててもおかしくはないか。で、何するんだ?」


 梛が問いかけると、陽葵は不気味に笑ったのち、梛のことをビシッと指さす。


「ゲーセンで勝負っすよ! この屈辱、今晴らさないでいつ晴らすんすか!」


「……それって、ただの逆恨――」


「うるさいっすよ! そ・れ・と・も、年下の女の子に負けるのが怖いんすか?」


 梛の指摘を遮り、陽葵は小馬鹿にするように言ってくる。


 ほんの数秒前までは付き合ってもいいかなと思っていたが、一瞬にして面倒になってしまった。

 相手のやる気を削いで不戦勝を狙うとは、相当な策士だ。


 梛は両手を上げて降参のポーズをとる。


「……負けでいいから帰っていいか?」


「なんでっすか!? ちょっとくらい遊んでくれてもいいじゃないすか! 可愛い可愛い後輩の頼みっすよ!?」


 陽葵は若干涙目になりながら、梛に縋りつくように頼み込んできた。


 傍から見れば、梛が年下の女の子をいじめているように見えるのだろう。

 校内では感じなくなっていた刺すような視線を、久しぶりに浴びてしまった。


 梛は嘆息しながら肩をすくめる。


「……ったく、わかったわかった。どうせ暇だし付き合うよ。楓もそれでいいか?」


「うん、大丈夫だよ。……でも残念だなあ。せっかく梛と二人きりで放課後デートだったのにね」


「ご、ごめんなさい! そうとは知らずに引き止めてしまって……!」


 楓がからかうように言うと、それを真に受けた桔梗が慌てた様子で何度も頭を下げてくる。

 なんともいたたまれない気持ちになってしまった。


「楓……」


「冗談だよ、冗談! 冗談だから……ね?」


「……まあ、そういうわけだから、楓の言ったことは気にしなくて大丈夫だ。ほら、早く行かないと時間なくなるぞ?」


 梛は桔梗の頭をぽんぽんと優しく撫でると、そのまま玄関口へと足を向ける。


「おっ、ついに先輩もやる気になったみたいっすね」


「いや、周りの視線がつらいから、早くこの場から離脱したい」


 梛は乾いた笑みを浮かべながら、淡々と言葉を返した。


 楓の冗談によって桔梗が頭を下げ続けているこの状況を見た周りの生徒は、また梛が年下の女の子をいじめている、と勘違いしているのだろう。

 周囲の視線がより一層強くなった気がした。


「ごめんなさい、私のせいで……」


「大丈夫。居心地が悪いだけで、これに関してはいつものことだからな」


 それに、と梛は、陽葵に視線を移して続ける。


「陽葵が駄々をこねたあたりから感じてたし、仮に犯人探しをするなら陽葵が悪い。だから桔梗が卑下する必要はない」


「さっきから自分に対して当たりが強くないすか!?」


 梛が微笑みながら言ってやると、陽葵はたまらず声を上げた。


「というか、同じ初対面なのに桔梗にだけ甘すぎるんすよ! 自分にももっと優しくしてくださいよ!」


「ごめんごめん。陽葵の反応が面白くて、つい、な。あとで飲み物でも奢ってやるから許してくれ」


「……仕方ないっすね。それで手を打ってあげるっす」


 陽葵は一瞬の葛藤を挟んだのち、こくりと頷く。


 なんというか、単純な性格すぎて将来詐欺に遭わないか心配になってくる。

 ……多分だけど、美卯にも同じようにからかわれている気がした。

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