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第2話 安寧短し、苦労は多め⑥

「……さて、そろそろ帰る……か?」


 二人に連れ回されてすっかり疲れ切った梛は、何気なしに言ってみる。


 ランジェリーショップを出てファミレスで昼食を済ませたあとも、色んな店を回って服を買ったり買わなかったりの繰り返し。その上、梛は凜桜と美卯に着せ替え人形のように扱われたりもしていた。

 ……一瞬、昔のあまり思い出したくない記憶が脳裏をよぎったが、今回着せられたのはメンズだったのでセーフと言えるだろう。


 試着するたび「買わないの?」としつこく聞いてくるものだから、買う予定もなかったのに、シャツを二着も購入する羽目になってしまった。


 まあ、せっかくセンスある二人が選んでくれたのだからありがたく着させていただこう。

 この際、値段なんて気にしてはいけないというものだ。


「帰らない。外も全然明るいじゃん」


「そーだよー! まだまだこれからだよ!」


 美卯は呆れたように、凜桜は梛と繋いだ手をぶんぶんと振りながら言ってくる。

 梛と違って、二人はまだ元気いっぱいなようだった。


「帰らないのはいいとしても、このあと何するんだ? 服屋も散々見て回っただろうし……まさか、もう一周とか言わないよな?」


「んー……どうしよっかなー」


「何も考えてなかったのかよ……」


「梛と一緒に遊べれば、それでいいもーん!」


 凜桜は屈託のない満面の笑みを向けながら、梛に身を寄せる。

 その直視できないくらい眩しい瞳と押しつけられる豊満な身体、鼻腔をくすぐるどこか甘い香りに、梛は頬を赤くしながら視線を逸らした。


 と、その様子を半眼で見ていた美卯が、軽く梛の脇腹を小突いてくる。


「で、お兄ちゃんは何かやりたいこととかないの?」


「そ、そうだな……カフェやベンチでゆっくり……なんでどうだ? かなり歩き回っただろ?」


 梛が提案すると、美卯は呆れたように吐息した。


「お兄ちゃん、もう疲れたの? 運動不足なんじゃない?」


「運動不足なのは否めないけどさ、こんだけ歩き回れば誰でも疲れ――」


 言いかけるも、梛は二人の様子を見て言葉を濁す。


「……てなさそうだよな。二人は何かしたいことないのか? 本屋見て回ったり、カフェやフードコートでのんびりしたり、あとは……ゲーセンで遊んだりとか」


「あー、たしかにゲームセンターはありかも。でも、お兄ちゃんは疲れてるみたいだし、少し休んでからにしよ。お姉ちゃんも今か今かと待ち構えてるっぽいし」


「それ聞いて素直に『はい、休ませていただきます』とはならないだろ……」


「なーんーでーよー!」


 梛が露骨に嫌そうな顔を作ると、凜桜は繋いだ手をぶんぶんと振りながら不満そうな声を上げる。


「梛はもっとおねーちゃんに甘えてよー! 膝枕してあげるからー!」


「そんなこと、人前でされてたまるか!」


「あ、人前じゃなかったらいいんだ」


 揚げ足を取るように言ってくる美卯に、梛は小さく肩をすくめた。


「……あくまで人前でされるよりかは、ってだけだよ。普通に、昼休みのたびに膝枕されるのも嫌だし」

「えー……梛はお昼寝できて、おねーちゃんは膝枕できる――完璧でしょー?」


 言って、凜桜は「褒めて褒めて」と言わんばかりの、自信満々そうな顔を梛に向ける。

 もしも凜桜に尻尾が付いていたら、絶対に荒ぶっていることだろう。


 梛は嘆息すると、頭を撫でる代わりに手刀を食らわした。もちろん優しめに。


「えーん、痛いよぉ……なんで撫でてくれないのー?」


「完璧どころか欠陥だらけだからだよ。……うん、なんか疲れたのは気のせいだったみたいだ。ゲーセン行こうぜ」


「膝枕が嫌なだけでしょ」


「そりゃあ、もちろん」


「むー……少しだけでいいから、おねーちゃんの膝枕で休んでよー!」


「せめて家に帰ってからにしてくれ……」


 梛を休ませようと(と言うよりも膝枕をしようと)ベンチの方へ引っ張る凜桜に反抗しながら、梛はゲームセンターへと足を向ける。

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