第2話 安寧短し、苦労は多め①
「……遅い」
まるで梛の心境を表したかのような、少し曇りがかった、薄鈍色の空の下。
せっかくの日曜日だというのに。
本来ならば、家でダラダラして過ごすはずだったのに。
大勢の老若男女が行き交う駅前で、梛は人を待っていた。
梛が着いてからもう三十分ほど経つというのに、待ち人はいまだ姿を見せない。
暇つぶしのために、と持ってきた本は、ここに着いてからすでに十ページ以上も進んでいた。
キリのいいところで一旦読むのをやめたいが、待ち人がなかなか来ない。このままだと中途半端な位置に栞を挟むことになってしまいそうだ。
と。梛がその本の第一章を読み終えた頃、待ち人たちが横断歩道の向こう側に姿を現す。
信号が青に変わるなり、一人は梛の元へ駆け寄り、もう一人は特に急ぐ様子もなく、ゆっくりと歩み寄ってきた。
一章と三ページというなんとも中途半端な位置に栞を挟んで、パタン、と本を閉じると、梛は二人に向けて大きく息を吐いた。
「……随分と遅かったな」
「ごめんねー、梛ー。許してー」
「女の子は準備するのに時間がかかるものなの。お兄ちゃんの読んでる本にもそういう描写があるんだし、そのくらいわかるでしょ?」
一人は謝りながら梛に抱きつき、もう一人は謝罪することなく、やれやれ、と首を横に振る。言わずもがな、凜桜と美卯だ。
「いや、同じ家なのに別々に出て駅前集合とか、全くもって訳わからないだろ。それなら、学校行くときも別々で――」
「いーやーだー! 学校は一緒に行くー!」
と、凜桜は梛の言葉を遮るように肩を掴んで、前後にぶんぶんと揺さぶってくる。周囲の視線がこちらに集中しても、凜桜はお構いなしだった。
「今日はデートだから、待ち合わせなのー!」
「……あのな、姉貴。そもそもデートって、基本的には男女が一対一でやるものだぞ? 特殊な例として二対二のダブルデートとかあるけど、今回のこれは一対二。ただの『お出かけ』だ。わかったか?」
凜桜の手を掴んで引き剥がしながら、梛は諭すように言ってやる。
もしこれがデートだと言うのなら、家族で出かけるたびに梛と凜桜がデートしたということになってしまう。もっとも、仮に凜桜と二人きりで出かけたところで、それはデートとは言わないのだが。
「……デートだもん」
「違う。これは、デートじゃ、ない」
――そう。今日梛が一緒に出かけているのは、決してデートだからなどではない。ただ凜桜に『お願い』をされて、仕方なく出かけているだけなのだ。




