第7話 マシンガンをぶっ放せ
クラリッサ・メイルは、ふと気がついた。
異世界に転移した直後、自分の服がファンタジー風の冒険者スタイルに変わっていたことに。
リサイクルショップの制服は消えていた。あれはあれで気に入っていたのに、と小さくため息をつく。
だが、誰も彼女をじろじろと見るわけでもない。マシンガンを背負ったポニーテールの女が歩いていても、周囲の人々は気にも留めない。――どうやらこの世界、外見にあまり干渉しないらしい。
街の名はバラガルド。商業都市らしく、行き交う人々は様々な種族だ。人間語(=日本語)を話す者もいれば、エルフ語やドワーフ語を使う者もいる。機械種族に至っては、顔のディスプレイに漢字で文字が浮かぶ始末だ。
「なんていうか、ゲームの世界ね」
露店を覗きながら、クラリッサは街の門を抜けて草原へ出る。そこでは、馬車が行き交い、交易が盛んに行われていた。
近くに森が見えたので、試しに足を踏み入れてみる。スマホの地図アプリには、あちこちにモンスターのアイコンが表示されていた。冒険者らしきエルフやドワーフが次々とモンスターを狩っている。
その中で、オオカミ型のモンスターを見かけたが――弱そうだった。さらに奥へと進むと、トカゲのようなモンスターを発見。その後を追っていくと、洞窟を発見する。
「へぇ……住処かしら」
洞窟の奥には、地下湖とリザードマンらしきモンスターたちがうごめいていた。ざっと見て百体以上。クラリッサは眉をひそめる。
「これ、いける……?」
背中からマシンガンを下ろす。銃を撃つのはゲームセンターでしかやったことがない。
「まぁ、やるしかないか」
深呼吸。そして――引き金を引いた。
銃口から閃光が走り、弾丸がリザードマンの頭部を貫いた。まるで豆腐のように、頭が吹き飛んだ。
「うわ、マジでやば……でも、撃てるもんね!」
迫りくる敵に、引き金を引き続ける。マシンガンが火を噴き、次々とリザードマンを屠っていく。叫び声、血飛沫、肉の破裂音。だが、クラリッサは止まらない。
弾が尽きる頃には、洞窟の中はバラバラになった死体で埋め尽くされていた。
「ふー……回収が問題ね。鱗が高く売れるって話だけど、百体もいたら運べないじゃない……」
その時だった。洞窟の外から、地響きのような轟音が響いた。
クラリッサはすぐにスマホを開いた。地図には、バラガルドに向かって移動する巨大な魔物の群れ――スタンピードが表示されていた。
「うわ、ドラゴンにオーガにゴブリン、トロールまで……しかもボス級の王冠マークつきじゃない」
焦っている暇はない。まずは手元の死体処理だ。通販スキルを再度起動し、アイコンを確認していくと、ある項目を発見した。
【買取】
ヘルプを開くと、こうあった。
【異世界の物を売却し、通販用の資金に変換できます】
「きたこれ!」
クラリッサは声を上げ、死体の山に向かって叫ぶ。
「ここにある全ての死体、売ります!」
すると、死体の山が光に包まれ、すべて消え去った。そして、通知が表示された。
【3000万円を獲得しました】
「マジか、めっちゃ高い!」
クラリッサはにんまりと笑う。だが、スマホの地図には、炎に包まれる商業都市の姿が映っていた。
「……バラガルド、終了のお知らせってやつね。まぁ、商売の場を変えるだけだし?」
手に入れた素材は異世界では販売不可だが、通販での転売は可能だ。スマホを操作して、次なる目的地――ジェラルド王国を選ぶ。
「ただ、川を渡らないといけないのよね。……あ、船、通販で売ってるわ」
クラリッサは2000万円でAI操縦の船を購入。残りの資金は1000万円。念のため、弾丸を100万円分購入し、残高は900万円となった。
川辺に出て、船に乗り込む。スマホで目的地を設定すると、静かに船が動き出す。
「これなら楽ちん。後は、モンスターが来ないように見張っておけばいいのね」
クラリッサ・メイルは、マシンガンを構えながら鼻歌まじりに旅を続ける。かつて滅びた街のことなど気にも留めず、次なるビジネスチャンスへと、ゆるく、軽やかに。




