第6話 異世界通販
光の柱に包まれ、クラリッサ・メイルが飛ばされた先は、異世界「オルバース」の商業都市バラガルドだった。
目を覚ましたのは、雑多な路地裏。薄暗い石畳の上から立ち上がったクラリッサは、目に飛び込んできた景色で一瞬にして悟った。
「……ここ、ゲームとか映画で見た異世界じゃん……」
エルフ、ドワーフ、獣人族、さらには機械のような種族まで、行き交う姿はまさにファンタジーそのもの。そして、差別的な空気が薄いことも、観察からすぐに分かった。
「まずは、この世界でどうやって生き延びるかを考えないとね」
元リサイクルショップ店員。その前は家出を繰り返し、行く先々でサバイバルしてきたクラリッサ。その経験が、今まさに活かされる時だ。
「よし、スキル発動。異世界通販!」
クラリッサの目の前に、黒いタブレットのような四角い板が現れる。
【ようこそ、GAGAZONNへ】
無機質な文字が浮かび上がる。恐る恐るタップしてみると、商品カテゴリがズラリと並んだ画面に切り替わった。
【現在の資金:1,200万円】
現実世界での銀行残高と一致していた。どうやら所持金ごと異世界に来たらしい。
興味を引いた【両替】の項目を開いてみると、ヘルプにはこう書かれていた。
【両替:異世界の通貨とリアルマネーの相互交換が可能です】
「すご……この世界でも通用するお金になるんだ……!」
とはいえ、今すぐ必要なのは資金運用ではない。まずは――装備だ。
「うわっ、武器カテゴリすご……これって日本じゃアウトなやつじゃん」
拳銃、マシンガン、バズーカまで、実在する兵器がずらり。しかも、細かい型番やスペック付き。クラリッサは圧倒されつつも、近接武器のタブを開く。
そこにはチェーンソー、日本刀、レイピア、サーベルなどが並び、どれも数百万単位。
「異世界だし、魔法剣とか欲しいんだけど……あ、ファンタジーってアイコンがある」
タップしてみると――何も表示されない。ヘルプを確認。
【このGAGAZONNでは、使用者の知識と経験が反映され、見聞きした物品に限り表示されます】
「つまり……私が知らない異世界アイテムは通販に出てこないってことね」
がっかりしつつも、現実的な装備を整えることに。
=購入したアイテム一覧=
• 軽量マシンガン(400万円)
• 拳銃(100万円)
• 防弾チョッキ(100万円)
• 応急セット:消毒液・傷薬など(100万円)
• オルバース専用スマホ(500万円)
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「残金ゼロ……でも装備は整った。スマホは……まあ、投資ってことで」
オルバース専用スマホは見た目こそ普通だが、中には無数のアプリが入っていた。使い方が独特で、路地裏で3時間ほど悪戦苦闘しながら学習。
「地図アプリ……これがこの世界のマップ? ……なにこれ、北海道くらいの森が危険区域って……」
その中に点在する人物アイコンが1つ、近くの森に「ダン」と表示されていた。
「みんなバラバラに飛ばされたのね……」
地図を確認しながら、クラリッサは呟いた。
「元の世界に戻るには……覇王になるしかない。手段は一つじゃないってあの光も言ってたし、まずは情報収集ね」
とはいえ、まず必要なのは現地通貨。そのためには――
「モンスターを倒して素材を売る、ってのが定番よね。問題は、そのモンスターがどれくらいヤバいかだけど……」
武装完了、地図も把握。準備は万端。
だが――
彼女が想像していたよりも、この世界のモンスターは――はるかに弱かったのだった。




