第5話 この森は非常に危険地帯だという事が判明!?
「この国には俺しかいないからさ、何を使っても自由だよ。欲しい物があったら遠慮なく言ってね。俺のスキル【無限倉庫】は、倉庫の中で錬成みたいなこともできるんだ」
「そ、そんなことが……!」
「す、すごすぎますわ……!」
驚きの声をあげたのは、昨日救った獣人の姉妹──ナナリーとチャナリー。
ナナリーが姉、チャナリーが妹で、どちらも犬耳と尻尾を持つ獣人族の女性だった。
「でも、ここがどこの森なのか、よく分からないって言ってたよね?」
「はい……ですが、一つだけ確かなのは──この森、とんでもなく危険なのです」
「え? そうなの?」
ダンは首を傾げる。
彼にとっては、モンスター=無限倉庫で捕獲&解体対象でしかなかった。
「私達、A級冒険者クラスの実力を持っていますが、それでもこの森では常に命の危険がありました」
「先程の山賊たち、戦闘力で言えばSランク級に達していましたのに……100人が、20人まで減ったのです」
「マジか……」
「はい、ダン様がこれまで普通に歩き回っていたのが信じられません。普通のE級の人なら、即死ですわ」
「俺ってE級なの?」
「はい、私の【超級鑑定】によると、肉体的な強さはE級相当でした。ですが──」
「ですが?」
「取得しているスキルが……10個以上ありました。山賊たちが持っていたものが多く……無限倉庫に格納しただけで、習得されているようですわね」
「あー、そうなんだよね。さっき気づいた。人間だけだけど、無限倉庫でスキルが取れるみたい」
「モンスターからは……?」
「取得できなかったな。どれだけ捕まえても」
「どれくらいの数、格納されたのですか?」
「この辺一帯のモンスターが、全部逃げるくらいかな」
「…………!」
2人は一瞬言葉を失う。
モンスターたちは、ダンの存在を見ただけで怯え、泣き声を上げて逃げるようになっていた。
捕まえて、格納され、解体されるという一方的な結末を見ていたのだろう。
「もしかしたら、スタンピードが起きているかもしれませんわ……」
「スタンピード?」
「モンスターたちが一斉にこの森を離れ、他の地域へと移動し始める現象です。もし起きていたら……周囲の国や村にとっては、大災害になりかねません」
「それって、俺……やばいことした?」
「……はい。でも、ダン様が生き残ってくださったのは本当に奇跡です」
チャナリーの茶色い耳がぴくっと動き、ナナリーの白黒の尾がふさりと揺れる。
危険な森を歩き、生き残り、しかも笑顔ですごしているダンに、2人は心から感謝していた。
「ダン様。この2人、ずっとダン様についていきます」
「えっ? いや、川を下って旅をしてたんじゃないの?」
2人は、これまでの経緯を静かに語ってくれた。
ジェラルド王国のバトルコロシアムに出場し、将として迎え入れてもらう予定だったこと。
そのために旅をしていた途中で、山賊に捕まってしまったこと。
「でも、もう考えが変わりました。私達……ダン様の作る国の将になりたいのです」
「……チャナリー?」
「はい、姉さん。私も同じ気持ちです」
「そうか。ジェラルド王国か……もしかしたら、他の9人の異世界人の誰かが行ってるかもしれないな」
「他の9人……?」
「ああ、俺を含めて異世界から来た奴らが10人いてさ。元の世界に戻るには“覇王”にならなきゃいけないんだって」
「覇王、ですか……」
「でもなー、正直、もう戻りたいとも思ってなくてさ。この世界、けっこう好きなんだよね。特に……」
そう言って、2人の尻尾をチラッと見る。
「獣人族、最高だよな……! あのもふもふ、神の造形だろ……!」
真顔で言い切るダンに、姉妹は顔を真っ赤にして目を伏せた。
「……あ、そうだ。2人とも、服とか必要だよね? 俺が作るよ、倉庫の中に素材もいっぱいあるから!」
「えっ、ほんとうですか?」
「やったー!」
ダンは無限倉庫の中で素材を選び、即座に“錬成”を開始。
元山賊の装備をベースにしつつ、動きやすく、かつ可愛らしいスカート付きの軽装備を作り出す。
黒の装備はナナリーに、茶色の装備はチャナリーに。
尻尾が邪魔にならないよう、穴もしっかり空けてある。まさに完璧なカスタムメイドだった。
「すごい……すごいですわ、姉さん!」
「可愛らしいし、動きやすいですわね……!」
喜ぶ2人を見て、ダンはふと思い立つ。
「なあ……ナナリー、チャナリー。俺に戦い方、教えてくれないか?」
「えっ?」
「まだまだ俺、弱いしさ。これから強くならなきゃ。だから、頼める?」
その願いに、2人は嬉しそうにうなずいた。
「もちろんですわ、ダン様」
「では今日から、ダン様の修行が始まりますわね!」
こうして、元・薬剤師の異世界人ダンの鍛錬の日々が始まった。
最強(自称)国家の礎が、静かに築かれ始めていた。




