第3話 素材集めから始めてみました
ダン・ミデルは途方に暮れていた。
目の前にあるのは、どこまでも広がる木々、木々、木々。地面には名前も知らない草や実、時折見かけるモンスターの死体。
――いや、死体って言っても、こっちが倒したわけじゃない。たまたま弱ってたやつが、向こうから転がり込んできただけだ。
そんな状況の中で、ダンは《無限倉庫》のスキルだけを頼りに、ひたすらモノを詰め込んでいた。
枝、葉、石ころ、木の実、モンスターの死体……。わけも分からず、片っ端から倉庫に放り込んでいく。
「鑑定スキルなんて便利なもんは、俺にはねえ。でも……」
――収納したモノの名前や詳細が、自動で脳内に表示される。
つまり、無限倉庫に入れれば、それが何か分かるのだ。
「これ……実質、鑑定だよな?」
枝を入れれば【バルバルの枝】。
石を入れれば【重石岩】。
モンスターの死骸なら【シャドウウルフの肉体(解体可能)】……と表示される。
とりあえず、試しに最近出くわした狼っぽい魔物に、倉庫を具現化して投げてみた。
「……あ、ボール型になるのか、これ」
軽く投げてみた。無限倉庫ボールはモンスターの顔面に直撃し、ポンッという音と共に、モンスターの姿が一瞬で掻き消える。
次の瞬間――
頭の中に浮かぶウィンドウ。
=============
【新規アイテム】
・シャドウウルフの肉体(解体可能)
・獣毛(Cランク素材)
・黒牙(Bランク素材)
・魔石(Fランク)
=============
「……うわ。これ、生き物でも容赦なく収納できるのか」
そして、素材単位で分解できる。解体が自動。こいつはもう、もはや武器だ。
次に、目の前の木に投げてみる。
ボールが命中し、木が一瞬で消滅。
============
【新規アイテム】
・バルバルの木(解体可能)
・木材(100本)
============
「これ……無敵なんじゃね?」
ダンの脳内で、ひとつの計画が立ち上がる。
森の中で、ただ一人の開拓者
情報はない。地図もない。周囲に人の気配もない。
だが、モンスターも木も岩も、倉庫に投げ入れるだけで消えていく。そして、素材として得られる。
「だったらもう、全部片っ端から収納して、空っぽにしてやろうじゃねえか!」
こうして、謎の森一掃計画が始まった。
木を投げて消す。岩を投げて消す。
モンスターは見つけ次第ボールを投げて消す。
倉庫の中には、どんどん素材がたまっていく。
数日もすると、見渡す限り木も魔物もなくなった。ただの広大な“更地”が広がっていた。
――だが、ここで終わりではない。
錬成開始。そして、建国へ。
「これって……素材を組み合わせて、倉庫内で加工できる?」
ダンは倉庫内に意識を向ける。素材を自由に配置、組み合わせ、形を変えられる――まるで3Dモデリングのように。
そして完成した木造一軒家。
「おー、出せた!」
現実世界にそのままポンッと吐き出すように設置できた。しっかりした屋根、窓、扉。完全に住めるクオリティ。
「これ……街作れるな」
そこからダンの《建国》が始まった。
木材、石材、金属素材。
錬成、配置、再構築。
そして一ヶ月後。
そこには――
ファンタジー風の街並みが完成していた。
城。
市場。
武器屋、防具屋、宿屋(自作)、魔法研究所。
ついでに王城の天守閣も。
すべてに住人はゼロ。だれーもいない都市国家が完成した。
静寂の城壁に、足音が鳴る
ダンはバルコニーから空を眺めていた。
「さすがに……一人は、寂しいな」
森を片っ端から削り、モンスターをすべて消し去り、建物を作りまくった結果。やることが、ない。
ふと、遠くに人の気配。
誰か来た? まさか……!
希望を抱いて城門まで走る。だが、そこにいたのは――
「うわ、山賊っぽいのが二十人くらい……女の子連れてるし……首輪? え、奴隷?」
ダンは城壁の上から、眉をひそめる。
「……めんどくさいのが来たなぁ」




