第29話 魔王城起動しちゃいました??
「──よーし、てめぇら。これより遺跡の探検を開始する!」
無人島の中央部、黒ずんだ岩肌にぽっかり口を開けた古代の門。その前で、アルマード・ナナガミは胸を張って宣言した。
彼の前に並ぶのは、時代も世界も超えた奇妙な顔ぶれだ。
アーサー王。剣豪武蔵。破壊王信長。占星卑弥呼。方舟ノア。聖女ジャンヌ。そして──存在理由も正体も不明な「不滅の女神」。
これだけの英雄が集まれば、誕生の女神やら破滅の神やら、もう何でも来いだとアルマードは内心思っていた。
だが全員の表情は、揃ってふてくされていた。
理由は簡単だ。昨日までの“冒険”とやらが、あまりにも茶番だったからだ。
「おい、本当に行くのかよ」
信長が面倒くさそうに呟く。
「行くに決まってんだろ。俺たちは“異世界の救世主”だぜ?」
アルマードは無視して門へ向かう。
8名は順番に門をくぐり、軋む階段を下っていった。壁は苔に覆われ、空気は湿っている。
しかし、どれだけ降りてもモンスターの一匹も現れない。緊張感は霧散し、代わりに退屈だけが積み重なっていく。
やがて、最後の扉の前に辿り着く。
そこに立ちはだかるのは──高さ五メートルはあろうかという巨大な銅像だった。全身は緑青に覆われ、目だけが宝石のように赤く光っている。
だが、微動だにしない。ただ、こちらを凝視している。
「……動かねぇな」
アーサー王がぼそりと呟く。
「なら、進もう」
ジャンヌが淡々と言い、8人はあっさりと銅像をスルーして扉を開いた。
中には、場違いなほど巨大なスイッチが一つ。
「なんだこれ……」
アルマードが首をかしげた、その瞬間。
「おい、武蔵。押すなよ、絶対に押すなよ」
「……あ」
──ゴンッ。
宮本武蔵が、まるで反射的に押してしまった。
次の瞬間、地下全体が震えた。地鳴りのような低音が響く。
【──魔王城が起動しました】
どこからともなく、女とも男ともつかぬ声が響き渡る。
そして、背後の扉が轟音とともに粉砕された。あの銅像が、血走った目で咆哮を上げ、巨大なハンマーを振りかざして突進してくる。
「……あー、そういう事ね」
アルマードが額を押さえた瞬間。
「下がってろ!」
アーサー王がエクスカリバーを構え、武蔵が二刀を翻す。二人の剣閃が閃き、銅像は一瞬で細切れとなった。
しかし、振動は止まらない。
地下の暗闇から、無数の影が這い上がってくる。
足音。唸り声。湿った空気に混じる血と鉄の匂い。
「撤退だ!」
アルマードの号令で全員が階段を駆け上がる。だが、暗闇から迫ってくるのはモンスターの群れだけではなかった。
地下深くの闇の奥、巨大な炎のように赤い瞳が二つ、じっとこちらを見つめている。
次いで、島の地面を揺らすような巨体が姿を現した。蜥蜴にも竜にも見える、黄金の鱗を纏った巨獣。
「──ぎゃああああ!」
さすがのアルマードも、反射的に叫んだ。
「おお……繋がったようじゃのう」
低く響く声。巨獣は悠然と首をもたげる。
「わしはヨルムンガンド。興味があって来てしもうたわ。お主ら、逃げるがよいぞ。異世界人と魔王が来れば……お主らは確実に死ぬ」
その前脚だけで遺跡を覆い尽くす規模。島一つ沈めるなど容易いだろう。
アルマードは本能的に背を向け、外へ飛び出した。
そこにあったのは、信じがたい光景だった。
沖合に、都市のような巨大構造物が漂着している。金属の尖塔、禍々しい塔、そして海を割るように広がる城壁。
それは“都市”でありながら、“魔王城”そのものだった。
「……うそだろ」
呆然と呟くアルマードの前に、二つの影が降り立った。
一人は見覚えのある顔。かつて共に旅した十人の異世界人の一人──タリスマン・ガルフォード。
もう一人は、灰色の肌を持つ異形の男。その存在感だけで、誰もが理解した。魔王だ。
「ようやく人間に会えたと思ったら……これは困ったな」
タリスマンが芝居がかった口調で笑う。
その横で、ノアが小声で呟く。
「船なら……用意できますけど」
「……まじか!?」
アルマードの叫びに、ノアは頷き、掌に載せた小さな玩具をそっと撫でた。
次の瞬間、それは光に包まれ、海を覆う巨大な方舟へと変貌する。
「全員、乗れ!」
ノアの歌声とともに、彼らは一瞬で船上に転移した。
甲板の上で、誰もが無言のまま荒波を見つめる。
やがて方舟は、大陸へ向けて静かに滑り出した。
──その頃、魔王城の尖塔にて。
「あー……良いのか?」
魔王が尋ねる。
タリスマンは口の端を歪め、頷いた。
「どうせ大陸に行こうが、もうどうにもならない。魔王城が起動した今、この島は拠点だ。あとは……世界をいただくだけだ」
「お前の目的は?」
「決まってる。元の世界に帰るため、残りの異世界人9人を殺す」
「ほぅ……俺様は勇者の転生体をぶちのめす。それぞれの役割だな」
「同じだよ。──この世界を滅ぼすという意味では」
二人は笑い合う。
魔王城は唸りを上げ、海底から無数のモンスターを呼び寄せる。
その中には、ヨルムンガンドの巨大な影もあった。
こうして、すべての駒は揃った。
タリスマン・ガルフォードは、地球への帰還と世界破滅をかけた“王手”を打とうとしていた。




