第26話 武装英雄立つ準備
「スカーレット姫。この銅像……なんか宇宙服っぽく見えるんですけど」
レオ・バルーザは、荒野に立つ奇妙な銅像を見上げながら首を傾げた。
「そのお方はのう、空より船で参った男じゃ。遥か昔、奴隷帝国のために戦ってくれた英雄でな。名前はアルフロード1331というそうじゃ」
「数字……名前なんですか?」
「そういう文化だったらしい。自らを“宇宙人”と名乗っておったそうじゃ。今は《移動知識都市バルルボッサ》の核として生き続けているらしい。海の上を歩く都市じゃ。荒野しかないこの帝国とはまるで違う世界じゃな。いつか行ってみたいものじゃ」
スカーレット姫は、どこか遠くを見つめながら微笑んだ。
「姫……おいらなんかでいいんですか? 婿として。そんなに強くないですよ?」
「良いのじゃ。変な爺の子供を産むより、ずっとマシじゃ。さて、お主には強くなってもらわねばならん。とっつぁんに頼んで、英雄ガルーザの残りの魔剣8本を集めてもらった」
「え、あの魔剣……?」
「レオおおおおおおおおおお! 持ってきたぜええええ!」
叫びながら現れたのは、元牢屋の守衛。名前は知らないが、皆から“とっつぁん”と呼ばれている。魔法戦士で、かなりの実力者らしい。
「お主は今、ヴォルテックスとデャリャクスの2本を吸収しておるが、残りの8本もいけるか?」
「おうよ、やってみる」
レオのスキル《武装支配》は、武器そのものを吸収するという恐ろしい能力だ。今回吸収する魔剣は以下の8本。
• 【雷属性】ムーガ
• 【水属性】スリュクス
• 【土属性】ノーガムリュ
• 【闇属性】ナーガスト
• 【光属性】フォール
• 【無属性】フォルエバ
• 【無属性】ガナージンドス
• 【無属性】ジャガノード
無属性の剣には、属性とは異なる力が宿っているらしい。自然系の属性剣とはまた違う、異質な力だ。
「ふー……少し疲れたな」
剣を吸収するには、刃先を皮膚に突き立てる必要がある。痛みは錯覚だが、八百屋出身の青年にはなかなかハードな儀式だった。
「そうか、休むがよい。午後から求婚者の大群が闘技場でお主と戦うそうじゃ。勝てばわしを手に入れると豪語しておる。そやつらの選んだ闘士を殺せ、レオ・バルーザ」
「それが姫の願いなら、そうしてくれよう」
ゆっくりと立ち上がるレオ。今や彼を武器で殺すことは不可能だった。なぜなら、すべての武器は彼の体に吸収され、傷一つ残らない。
だが、レオ自身は理解していた。自分の弱点は魔法と精神攻撃だ。
「おそらく、おいらはスカーレット姫には殺されるだろう」
「そうじゃな。わしならお主を殺せるじゃろう。だがな、わしはお主を殺そうとは思わぬ。未来の夫じゃからのう」
スカーレット姫は、少女のような外見でありながら、知性と精神力は桁違いだった。レオは、彼女のIQやEQが異常に高いと感じていた。
「さて、とっつぁん。戦闘訓練だ」
「おうよ!」
魔法戦士のとっつぁんとの訓練は、実戦さながらの濃密な時間となった。
★
その日の闘技場には、15人の求婚者が現れた。レオは彼らの武器を次々と吸収し、誰一人として彼に傷を負わせることはできなかった。殺すには至らなかったが、降参させるには十分だった。
「よくやった」
スカーレット姫の強気な言葉に、レオは苦笑する。
その時、空から一羽の鳥が舞い降りてきた。足には手紙が括り付けられている。
「そろそろジェラルド王国への侵略準備が整っておるんじゃが、問題があってのう。エルフ領の奴らが税金を払わぬ。奴隷帝国に国を置いてやってるのに、恩を仇で返しておる。ちと、レオよ、とっつぁんを連れてお仕置きに行ってくれ。数人殺してくるだけで良い」
「はい、任せてくれ」
レオはこの異世界で、人を殺すことに躊躇はなかった。だが、できれば殺したくないとも思っていた。
不思議なことに、地球では絶対に人を殺したくないと思っていたのに、異世界では冷静に対処できる。世界が違うということなのかもしれない。
かくして、レオ・バルーザは魔法戦士のとっつぁんを引き連れ、エルフ領へと向かう。
旅は長くなるかと思われたが、2人の移動速度は常人の10倍。あっという間に目的地へ到着する。
そして、エルフ領の門前に立ったその時――
目の前に現れたのは、一人の女性剣士。魔法剣士の気配を纏い、鋭い視線をレオに向けてくる。
その顔に、レオは見覚えがあった。
「……ユリ・グラベル」
彼女は、同じ日本からこの異世界に転移してきた異世界人だった。
かつての同郷。だが、今は敵か味方か――それは、これからの戦いが決めることになる。




