第21話 異世界通販&リサイクルショップ
港の倉庫街にある、クラリッサの臨時店舗。
昼間の喧騒が嘘のように、夕方には客足が落ち着き始めていた。
クラリッサはカウンターの奥で、持ち込まれた品を次々と査定していく。
といっても、査定といってもやることはシンプルだ。
異世界通販《GAGAZONN》で売値を検索——それだけ。
たとえば、珍しい鉱石。
検索すれば、日本円で一千万の値がつくことがわかる。
それを持ち込んできた奴隷に渡すのは、食料と薬。
「はい、オニギリ十個ねー」
にこやかに差し出すが、その実オニギリ一個は一万円。
十個で十万円、原価なんて知れたもの。
しかもこちらの支出はそれだけ。
差額はまるごと儲けだ。
薬だってそうだ。
消毒薬、解熱薬、頭痛薬——百人分の薬セットを渡したとしても、仕入れは数十万円。
それが千人分でも三百万円程度。
売却益に比べれば端金だ。
今日一日での支出は四百万円。
だが、売り上げは——十億円。
「ふー、今日だけで十億かぁ。やめられないねぇ、この商売」
彼女が持つのは、どこからでも商品を購入し、即座に取り出せる《異世界通販》スキル。
仕入れ先は、元いた地球の巨大通販サイト——もちろんこの世界に競合など存在しない。
「さて……お金持ち相手の商品開発もしなきゃね。この世界の通貨も稼がないと」
夕方、買い取り業務を打ち切り、クラリッサは街をぶらつく。
奴隷たちは薬と食料を手に元気を取り戻し、通りは活気にあふれている。
屋台からは香ばしい肉の匂い。
鍛冶屋の店先では火花が散り、金属音が響く。
「へぇ、この世界じゃ武器、防具、アクセサリー……宝石類が高く売れるのね。しかもスキル付与品は別格……でも私じゃ付与はできないか。どっかに腕のいいドワーフでも——」
考えていたその時、彼女の視界に一軒の古びた鍛冶屋が入った。
煤けた看板、歪んだ扉。
中からは金槌と叫び声が聞こえてくる。
「くぅぅぅ! せっかくスキル付与できるのに、武器の形にならないぃぃ! 師匠が寝込んでるせいで、もう何も売れないぃぃ!」
覗くと、ドワーフの少女が額に汗を浮かべ、必死に剣を打っていた。
金属を水に浸け——そして取り出す。
だが次の瞬間、ぱきり、と鈍い音。
「ああああああぁぁぁぁ……」
絶望の声が響いた。
クラリッサは「この子だ」と直感し、開け放たれた扉を軽く叩いた。
「ちょっとお話、いいかしら?」
「すみません、師匠が寝込んでて……武器も防具も売れません。アクセサリーならあるけど、スキル付与品は高いですよ?」
鉄と汗の匂いが充満する店内で、ドワーフ少女は髪を高くまとめ、額の汗をぬぐった。
長い髪が鍛冶作業の邪魔になるのだろう。
「いえ、私はあなたを雇いに来たの」
「……え?」
「鍛冶は苦手みたいだけど、スキル付与は得意なんでしょ?」
「……その通りです。面目ない」
「私、武器も防具もアクセサリーも大量に仕入れられる商人なの」
「えっ……でも素材を買う金が……それに師匠のお得意様だった武具店も、奴隷商人追放の影響で国を出てしまって……」
「問題ないわ。あなたが付与した武具を私の店で売るの。売れたら利益を折半」
「……五分五分なら受けます。師匠もお金が必要で……でも最近は部屋にこもって『影の支配者様〜』とか叫んでるし、たまに夜中に消えるし……もう末期かと」
「え、何それ怖い……カルト?」
「さぁ……頭打ったのかも」
会話は妙な方向へ転がったが、クラリッサは笑って受け流す。
今は目の前の商機が大事だ。
「じゃあ今すぐ始めましょ」
「は、はい!」
クラリッサは《異世界通販》を開き、頭の中で思い描いた品々を次々と注文する。
日本刀、サーベル、レイピア、ブロードソード、弓矢、鎧。
武者鎧、中世騎士鎧、中国風の甲冑——
さらに宝石店で見かけた高級石、ダイヤ、ルビー、サファイア、エメラルド、オパール、琥珀まで。
一億円分を購入したが、実際は半額以下の出費。
目の前に並ぶ豪華な武具と宝石に、ドワーフ少女は目を丸くした。
「お姉さん……何者? アイテムボックス持ち? 勇者クラスしか持ってないはず……」
「いや、ちょっと違うわ。どこでも買えるお店を持ってるだけ」
「……もしかして異世界人!?」
「そうよ」
「うっはー! 本物だー!」
少女は何度も握手を求めてくる。
「私はチャナーリ。師匠はガルフド。よろしく!」
「クラリッサ・メイルよ。よろしくね」
その夜、豪華な武具と宝石が次々とチャナーリの手でスキル付与されていった。
翌日、それらは店頭に並び、瞬く間に売れ、莫大な金が動く——
こうしてジェラルド王国に、商売の覇王が誕生しようとしていた。
そしてその陰で、異世界オルバースの歯車が静かに回り始める——。




