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無限倉庫と10人の異世界転移者~倉庫、通販、ガチャ、魔獣、癒し、影支配、武装、召喚、情報、翻訳の力で異世界を支配しろ!  作者: AKISIRO
第1部 10人の覇王候補

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第2話 無限倉庫のスキル持ち、ダン・ミデル

 ダン・ミデルは、うっすらと目を開けた。


 肌寒い風が頬を撫で、森の匂いが鼻をついた。土と湿気、そしてほんのりと血のような鉄臭さ。

 彼は地面に仰向けに倒れており、頭の下には苔むした石がごつごつと当たっていた。


(……ここは……)


 意識が混濁していたが、徐々に記憶が戻ってくる。

 突然の光。

 異世界オルバースと名乗った世界。

 そして──謎の声に与えられたスキル《無限倉庫》。


 体を起こすと、周囲は深い森。

 空はどんよりと曇っており、太陽の光は地表にほとんど届いていない。木々は高く、鬱蒼としたその雰囲気は、まるで迷い込んだら出られない死の森そのものだった。


「最悪のスタートだな……」


 ダンは立ち上がり、周囲を見渡した。誰もいない。

 他の9人とはバラバラに転移されたようだ。

 自分の服装は、スーツではなく見慣れない革の旅人風の服に変わっていた。腰には革のポーチとベルト、そして左肩には小さなバッジのようなものがついている。


「これが……スキルか?」


 ダンは思い出すように呟いた。

 《無限倉庫》──名前だけは壮大だが、どうやって使うのかは知らされていない。

 試しに、心の中で“無限倉庫”と念じてみる。

 その瞬間──視界に小さな四角いウィンドウが浮かび上がった。


==============

《INVENTORY:無限倉庫》

【所持アイテム】

・寿司(消費期限:昨日)

・スマホ(圏外)

・名刺入れ

・折りたたみ傘

・ビニール袋(3枚)

・水入りペットボトル(500ml)

・鎮痛剤(12錠)

・鍵類(自宅、職場)

・財布(現金とカード)

・家の倉庫内(多種多様)

=============


「マジか……!」


 思わず声を上げてしまった。

 どうやら、召喚前に所持していた物品が全て倉庫に格納されているらしい。

 さらには家にあった倉庫にあるものも無限倉庫に色々と突っ込まれている。


(……これ、冷静に考えるとめちゃくちゃ便利だな)


 容量制限はないようで、さらに「腐敗防止」「重量無視」などの機能もあるとウィンドウに書かれていた。

 つまり、保存も運搬も無制限。


 薬剤師として働いていた彼にとって、保存・管理の概念は馴染み深い。

 だがこの倉庫は、それらを遥かに凌駕していた。

「……にしても、まずは水と食料の確保だな」


 そう思い、無限倉庫から水のペットボトルを取り出す。手の中に、ひょいっと現れるように物が出現するのも面白い。

 ついでに、昨日買った寿司を取り出す。さすがに食べるには勇気が要るが……腐っていないかもと期待してみる。

 ふわりと酢の香り。

 恐る恐る口に運ぶと、意外にも普通に食べられた。


「保存効果、ちゃんとあるのか。これはありがたい……」


 腹を満たし、のどを潤したところで、ようやく冷静に状況を分析できるようになってきた。


「まずは、身を守る手段を確保しなきゃな」


 とはいえ、武器も魔法も使えない薬剤師の一般人だ。

 このままモンスターに襲われたらひとたまりもない。

 その時だった。


 ──ガサッ……。


 藪の向こうで、小枝を踏みしめる音がした。

 ダンは咄嗟に身を低くする。

 音の方角をじっと見つめると、そこには──一匹の狼。

 全身を黒い毛皮に包まれた、明らかに異世界の生物。目が赤く、牙は異様に長い。


(やばい、これ本物のモンスターだ……)


 生存本能が警鐘を鳴らす。

 その狼はじりじりとダンに近づいてきていた。


「……逃げるしかないか」


 無限倉庫から傘を取り出し、両手で構える。即席の武器だ。

 逃げるにしても、少しの時間を稼がねば。

 しかし狼の方も察していたのか、突如、低く唸ると──跳んだ。


「くっ!」


 ダンは傘で咄嗟に防御。だが狼の体重を受けきれず、バランスを崩して転倒する。


「ぐっ……!」


 倒れた拍子に、腰のポーチが外れ、中のビニール袋と鎮痛剤が飛び出した。

 狼が再び飛びかかろうとした、その時──


 ゴンッ!


 乾いた音と共に、何かが狼の頭に命中した。

 ……ビニール袋の中に入っていたペットボトルが、転がって当たったのだ。

 狼がバランスを崩した、その隙にダンは再び倉庫を開き、反射的に「何か、重いもの!」と念じる。

 ──すると、職場から家に持ち帰った空の鉄薬缶(約4kg)が手元に出現した。


「これだっ!」


 振りかぶり、狼の頭に渾身の力で叩きつける。

 ガンッ!

 悲鳴を上げて、狼がよろめいた。

 さらに追い打ちで、薬缶を何度も叩きつける。


「っ……死んでくれよ……!」


 ──五度目の一撃で、狼はピクリとも動かなくなった。


 しばらく息を荒げたまま、その場に座り込むダン。


「……初めて、命をかけたな」


 だが、不思議と恐怖よりも、興奮していた。

 自分の機転と倉庫の応用で、生き延びた。勝てたのだ。


(《無限倉庫》……やりようによっては、これ……チートスキルだな)

 そう実感しながら、ダンは狼の死体を前に、ある実験をしてみる。

 ──“無限倉庫に収納”。


 すると、目の前の狼の死体が、ふっと煙のように消え、倉庫内に表示された。


============

【新規アイテム】

・シャドウウルフの死体(解体可能)

・獣毛(Cランク素材)

・黒牙(Bランク素材)

・魔石(Fランク)

============


「なるほど……モンスター素材も収納できるんだな」

 倉庫は、戦利品保管庫としても機能するらしい。

 それだけで、冒険者の収入源としての価値が跳ね上がる。


(……とにかく、今は生き延びて、スキルを使いこなすこと。それが第一歩だ)


 ダンは立ち上がり、あらためて森の奥を見据えた。

 “覇王”という言葉はまだ遠く感じる。だが──


「……やってみるか。俺なりに」


 森の中へ、一歩を踏み出した。

 倉庫と知恵だけを武器に、彼の覇王譚がいま、始まろうとしていた。

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