第19話 勇者は勇者にお願いします
「勇者様ー! あのリュードなるベジタリアン勇者を、なんとかしてくださいませー!」
ジェラルド王国の王城、タクト・ラファルの私室。
半ば突撃のように入ってきた姫が、開口一番そう叫んだ。
ちなみに当のタクトは、いま勇者扱いされてはいるものの、
本人はふかふかのベッドの中で毛布にくるまり、完全引きこもりモード。
「……僕は現在、絶賛引きこもり中なので。そういうことは勝手にどうぞ」
「そんな事言わずにー!」
姫はずいずいとベッドに近寄り、布団の端を掴む。
「お前は僕の母親じゃないんだから、布団を引っ張らないでください」
「勇者様は、どこからどう見ても引きこもりのダメ少年ですわ」
「だから、そう言ってるじゃないですかー」
「ええええ、そこは『違う!』とか否定してくださいよ!」
「僕は眠いんです。昨日、あのベジタリアン勇者の叫び声がうるさくて寝られなかったんですから」
「……あの人、少し頭がおかしいです。異論をはさむと次から次へと拳でどこかに吹っ飛ばします。さっきなんて、奴隷商人が全員吹っ飛ばされて、無人島に行ったとか言ってました。おかげで奴隷制度が一夜で消滅し、この国は大混乱です!」
「僕には関係ないでしょ。そもそもあの人は勝手に国を治めてくれるんだし。勇者なんでしょ? 君たちが望んだ存在じゃないですかー」
「いえ、あんなの勇者じゃありませんわ!」
「だから、僕も勇者じゃないって言ってるんですよー」
「あなたが勇者やってください! もはや引きこもりのダメ少年の方がマシです!」
「あーはいはい。で、次は何の問題が?」
「えっと……まず、商業都市バラガルドが滅んだのはご存じです?」
「行ったことないけど、噂ではそうらしいですね」
「その近くの草原に、一夜にして国ができたんです。しかも、そこに住んでるのはモンスター」
「へ、へぇ……」
「魔王が光臨した、という説もありまして……勇者リュードが討伐に向かう!って大騒ぎしてるんです。そのために各地で休養中の三万の騎兵隊を呼び寄せろって。呼べば宝物庫の金貨を給料として払わなきゃいけないので、王様は泣いてます」
「そんなの知りませんよー」
「あなたは勇者でしょうが! ちゃんと働きなさい、誰が呼んだんですかあなたを」
「いえ、僕を呼んだのはあなたたちでしょ?」
「だからあなたが勇者やれって言ってるんです!」
「うっさいなー……わかったよ。僕は寝るから」
「あーはいはい、そうやって逃げるなら、この国から追い出しますよ?」
「そ、それは困ります……」
「なら、働いてください」
「はいはい……勇者リュードに『少し優しくなれ』ってお願いすればいいんでしょ?」
「その通りです!」
かくして、なんとなく勇者タクト・ラファルは立ち上がった。
★
その後タクトは、勇者リュードに少し優しくなってくれとお願いしたのだが。
玉座の雰囲気が逆に可笑しくなり始める。
「ふむ、ならこれはどういうことだ!」
そして、勇者リュードはいつもの調子で領域魔法を発動し、
王の不正や女遊びを暴露。王妃と姫は絶句し、玉座の間は一瞬で修羅場に。
先ほどまで「何とかして!」と頼んでいた姫が、今はリュードの味方について王を責め立てている。
タクトは壁際の陰に隠れながら、(いやー関わりたくない)と心の中でぼやく。
「タクト様、しばらく王をやってください」
「……僕、勇者じゃなかったの?」
こうして、王様は引きこもり、なぜかタクトがジェラルド王国の新たな王に就任してしまった。
【称号『王』を獲得しました。レアガチャ1回使用可能です】
「……何だこれ」
勇者リュードが魔王らしきモンスター王国へ討伐に向かうその間、
タクトはスキル:レアガチャを発動させた。
きらびやかな光とともに、玉座の間に新たな何かが降り注いだ——。




