第18話 無限倉庫の使い方を知れ
「俺は無限倉庫そのものだ。だが、同時にダンでもあり、スキルそのものの概念でもある」
「なるほどな」
「お前に俺のことを理解してもらいたい。だから、無限倉庫の真の使い方を教えよう」
「頼む」
「やることは簡単だ。ダンジョンを見つけたら、そのまま丸ごと格納する」
「……は?」
「そうすれば、ダンジョンに存在するモンスター、素材、地形、構造、さらには概念までも取り込むことができる。そして、分解・解析を経て、特殊な特技を得ることができるんだ」
「特技?」
「そう。炎の体、水の体といった属性そのものを宿す力。スキルを超えた、状態そのものの変化だ」
「それは面白いな」
「先ほどシャドウウルフから得た記憶を頼りに、まず一つダンジョンを吸収してみるといい。俺はしばらくこの倉庫でスローライフを楽しませてもらう。お前の冒険を中から見守ってるよ」
「……それはそれで気恥ずかしいけどな」
ダンは無限倉庫から外に出た。
「まずは……シャドウウルフの棲家だった獣ダンジョンか」
それは、ナラフリードから渡された地図によると、商業都市バラガルドの近くにあるという。
「ここだな」
ダンは地を蹴り、風のように走り出す。 超人的な肉体とスキル《鍛錬》《肉体強化》により、既に彼の速度は車並みだ。
★ 獣ダンジョン
森の中にひっそりと開いた小さな洞穴。 鬱蒼と茂る森の中で、その存在は異様だった。
「この森もいずれは倉庫に格納したいが……生態系を壊すのは避けたいな」
慎重に洞穴へと近づき、無限倉庫のボールを巨大化させ、放り込む。
次の瞬間——ダンジョンそのものが吸い込まれるように消えた。
「成功……か」
脳裏に《獣ダンジョン》が格納された感覚が走る。 次いで、その中身を《トータル解体》する。
無数の素材、アイテム、モンスター情報……それらが脳内に流れ込んでくる。
そして——《特技:獣人化》を取得した。
「ほう……」
試しに発動。
耳、尻尾、黒い体毛。狼のような姿へと変貌する。 人型、半獣人、完全獣人の三形態に切り替え可能なようだ。
「これはいい……スローライフがさらに捗るな」
その時だった。
大地が轟き、振動する。 驚いたダンが森の外れへと移動すると——そこには、突如として出現した“王国”があった。
「ここに……王国なんてなかったはずだが」
驚くべきは、建設に従事しているのが全てモンスターだということ。
「……まさか、本物の魔王が現れたのか?」
だがそれは誤解。
この王国を築いていたのは、魔獣契約を交わした男——オウガ・ダダーだった。
★ オウガ・ダダー
「おい、休憩だ!」
人型モンスターは建築、獣型は狩猟、スライム型は糞を肥料に、植物型は畑作り。 モンスターの特性を活かし、オウガは効率的な指示を飛ばす。
契約したモンスターの数は1万5000体。 全てと精神リンクしており、その願いや欲求が常時オウガに伝わってくる。
「魔王様ってのが海の滝の下で眠ってる? ……悪い奴には思えねぇな」
彼にとって、モンスターは仲間。 彼らが崇める魔王も、きっと優しい存在だと信じていた。
「ふわぁ、暇だな〜」
空を見上げ、草原で寝転ぶオウガ。
——そこへ、突如として現れる騎馬の軍団。
「おっと、あれは……3万騎か」
ジェラルド王国の正規軍。
「ここは俺が行く。お前らは隠れてろ、園長はモンスターを守るもんだ」
オウガが跳躍し、地に立つ。 その姿は、赤きドラゴンを思わせるトカゲの王。 モンスターの能力をその身に宿し、完全な“モンスター化”を遂げていた。
「……じゃあ、暴れてやるか」
こうして、森のハズレから見ているダンがいるところで、もう一つの戦いが幕を開けた。 すべては、無限倉庫というスキルが導いた、運命の交差点で——。




