第17話 無限倉庫の可能性
ダン・ミデルの日課。 ナナリーとチャナリーとの戦闘訓練は、もはや必要ない。 なぜなら、ダンの強さが彼女たちを遥かに凌駕しているからだ。
「無限倉庫の可能性について模索してみよう」
今日、ナナリーとチャナリーは美味しいものを食べに出かけてしまった。 あのモフモフを撫でられないのは寂しいが、それはそれ。ダンにはやるべきことがある。
商業都市バラガルドが滅んだ件については、自分の責任だとダンは自覚していた。
無限倉庫でモンスターを乱獲した結果、生態系が崩れ、モンスターたちがバラガルドに流れ込んだ。結果、都市は滅んだ。
その後、ナラフリードが率いる多種多様な種族が、無限倉庫の領域に移住してきた。 彼らは今、ギルドを作り、森で狩りをしたり、ダンジョンを探して各地を巡っている。
ナラフリードによれば、ダンジョンは地下に埋まっていたり、突然現れたり、時には空から降ってくることもあるという。
さて、ダンは無限倉庫で現状できることを整理してみることにした。
1. 丸いボール状や広範囲に展開して、あらゆる物を無限倉庫に収納可能。
2. 内部で解体することで、素材やスキル(人間の場合)を習得できる。
3. 素材を組み合わせて武器や建物などを生成できる(例:魔石×剣=魔剣)。
大体こんな感じか、とダンはまとめつつ、ふと次の可能性に思い至る。
「俺自身が無限倉庫に入れるのか?」
それは単なる好奇心だった。 ダンは巨大な箱状に形作った無限倉庫を中庭に出現させ、中に入ってみる。
「……入れた、のか?」
生まれて初めて、ダンは自らの無限倉庫の内部へと足を踏み入れた。 そこは、素材やアイテムが宇宙空間のように漂う神秘的な空間だった。 ただただ歩き、意識を集中すると即座に倉庫からはじき出される。
再び入ってみる。
「すげーな……」
ただ入れただけ。だが、それだけでもダンは心から感動した。
「避難所としても使えるな、これは」
次の実験を試みようと外に出たその時。
「あれ……無限倉庫の中に誰かいる?」
確かに、何かの意識のようなものを感じる。 倉庫一覧を表示させると、そこには——。
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《INVENTORY:無限倉庫》
・ダン・ミデルの情報体
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「……俺の情報、格納されてる?」
思わず絶句する。 情報体。それは、解体されたモンスターや人間の「構成情報」のこと。 よく考えてみれば、ダンがモンスターや山賊を解体して得たスキルや知識は、全てこの“情報体”から吸収していた。
自分の情報が格納されているということは、自分自身の情報体が「倉庫の一部」になってしまったということだ。
「……じゃあ、試してみるか」
ダンは、過去に解体したシャドウウルフの情報体を取り出してみた。 すると、空中に浮かぶ透明な光のような存在が現れる。
「おもしろ……」
指先で触れてみると、その瞬間——情報が、流れ込んでくる。 シャドウウルフの生態、生きざま、狩り方、その誕生の理屈まで。
「なるほど……モンスターが発生する仕組みまでわかっちまった」
情報体は、倉庫内に格納されている時は名前と簡単な属性しか分からない。 だが、こうして取り出して触れることで、詳細な知識を得ることができるらしい。
「……これ、他人にも渡せるんじゃね?」
しかししばらく触れていると、情報体は消滅——正確には、ダンに吸収されてしまった。
「今の……ダンジョンの場所だったよな」
シャドウウルフの記憶から得た情報には、かつて奴が巣くっていたダンジョンの所在地まで含まれていた。
続いてダンは、自分自身の情報体を取り出すことにした。
透明な、魂のようなもの。 触れると——自分の過去の記憶が、まるで走馬灯のように駆け巡る。
「……これは面白い」
が、ここで予想外の事態が起きる。
情報体が、独自の思考を持ち始めたのだ。
吸収したはずのそれは、意志を持ち、再び無限倉庫の奥深くへと逃げ込んだ。
「……試しに、もう一度中に入ってみるか」
再び無限倉庫に足を踏み入れる。 その中心部で待ち受けていたのは——
もう一人の、自分。
「やぁ、俺。俺は“無限のダン”だ」
「意味が分からんが……そういうことらしいな」
かくして、 ダンと“無限倉庫に宿ったもう一人のダンとの、奇妙な対話が始まった。




