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無限倉庫と10人の異世界転移者~倉庫、通販、ガチャ、魔獣、癒し、影支配、武装、召喚、情報、翻訳の力で異世界を支配しろ!  作者: AKISIRO
第1部 10人の覇王候補

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第16話 翻訳翻訳

 1人の女が大地に降り立った。  北からはエルフ族の大群が。  南からは人間族の大群が。  奴隷帝国の遥か北に位置する山で起きた小競り合い。  それは──言葉が繋がらなかったせいで起こった。

 その女の名はユリ・グラベル。  彼女は今、二つの軍勢の真ん中に、ぽつんと立っていた。


「えーと、あの……」

「聞け、エルフ族! 俺たちはただ果物が欲しいだけだ! なんでいつも弓を向けてくる!? 武器も持ってきてないんだぞ、敵意はないって言ってんのに!」

「聞け人間ども! 貴様ら、木に登って我らの妻の水浴びを覗いたな!? そんなことしていいのは夫の我々だけだ!」

「ストーーップ!」


 ユリが両手を上げて叫ぶと、二つの軍勢がピタリと彼女に注目した。


「あのー、たぶんですけど、お互い言葉が通じてないみたいなので……わたくしが、通訳しましょうか?」

「できるのか?」


 人間の長が驚いたように尋ねた。


「あ、はい。神語っていうスキルがあるので」

「な、なんだとおおお!」


 エルフの長が叫んだ。

 こうして、ユリを介した会話が始まった。  人間は果物を分けてもらい、エルフは覗き行為を謝罪した。  それだけのことだった。

 問題は──ただ、言葉が通じなかっただけだったのだ。


「よろしいか、ユリ殿」


 エルフの長が一歩前に出た。


「なんでしょう?」

「空から降ってきたその姿、異世界から来たのでしょう?」

「ええ、そうですけど……あ、服がいつの間にか狩人っぽくなってる」


「この世界に適応したのでしょう。我々エルフにお願いがあります。神と対話していただけませんか?」

「神様!? そんな簡単に会えるもんなんですか?」

「はい。エルフの神は、昔からこの世界に存在しています。生きる次元が異なるため、我々には直接話せませんが、耳を傾けてくれる時、世界樹の葉が生まれるのです」

「ふむふむ、つまりその葉っぱが重要ってことですね?」

「はい。それによりエルフは繁栄してきたのですが、最近、神が沈黙してしまっていて……」

「わかりました。手を貸します」


 そう言って、ユリは世界樹へ向かった。


「ふー……ここか」


 目の前にそびえるのは、雲を貫く巨大な大樹。  その葉は枯れ、沈黙しているようだった。


「でっか……」

「この根元に神がおられるといわれています。我々がかつて一度だけ見たのは、精霊のような幼い少女の姿でした」

「じゃあ、ちょっと話しかけてみます」


 ユリは大樹の根に手をそっと触れた。

 ――カチリ。

 何かが噛み合うような感覚。  それは、神語スキルが発動した証だった。

 日本語で話しても、相手にはそのまま意味が伝わる。  それが、神語の力。


「やあ、久しぶりに誰かと話せそうですねぇ」


 突然、幼い少女が現れた。

 ユリは驚いたが、冷静を保った。


「ワタクシはエルフの神、ユグユグでございます」

「ユリ・グラベルです。よろしく」

「来てくださってありがとう。神語を操る者を、ずっと待っていました」

「わたくしを?」

「はい。今から話す内容を、エルフの民に伝えていただけますか?」

「なぜご自分で話さないのですか?」

「神語は、時代と共に忘れられていくもの。我の声は、もう彼らには届かぬのです」

「そういうことなら、手伝います」

「まずは……魔王が蘇ろうとしています」

「魔王……?」

「奈落の世界──それは海の向こう、無人島を越えた崖のさらに先。死者が眠る地。そこに封印された魔王が、今まさに目覚めようとしているのです」

「おおう……」

「そこで、勇者様を探さねばなりません。彼はすでに生まれており、今は6歳。ジェラルド王国にいると考えられます」

「6歳……?」

「ですが、問題がありまして。彼は自分が勇者であることを忘れ、怪しい教団を立ち上げているらしいのです」

「6歳で教団……!? すごいな」

「今は誰かを主とし、信者を増やしているようです。あなたには、彼を導いて元賢者の元に連れて行ってほしいのです」

「そんな大役、わたくしにできるかな……」

「できます」

「わたくし、翻訳は得意ですが、戦闘能力ゼロですけど」

「大丈夫。エルフ図書館には神語でしか読めない書があり、それを読めば魔法剣士としての力が宿ります」

「魔法剣士!? 剣とか使ったことないんだけど……」

「神語が、あなたに知識と動きを教えてくれます。言葉が力になるのです」

「なるほど、それなら……やってみようかな」


 こうして、ユリ・グラベルは立ち上がった。  翻訳の力で種族と種族をつなぎ、  そして、魔法剣士としての力を得て──  間違った道に進む6歳の勇者を目覚めさせるため、  ジェラルド王国へと旅立つのであった。

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