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第31話 最強チーム誕生?

「それに、アタシなら病の進行を遅らせることができる」

「何だって?」


 カルマのことばに、サリーは食いつくように身を乗り出した。


「それは本当のことか!」

「妹さんを見てみないと確かなことはいえない。もし、アタシの付与魔術に耐えられるようなら免疫力向上の属性付与をしてあげられるわ」

「そんな手があるのか……」


 回復魔術でも回復力向上でもなく、免疫力を向上させるところに意味がある。人間の体がもつ免疫機能を高めて、異物であるしこりに対抗させるのだ。


「頼むっ! 妹を、ミリーを助けてくれ!」

「アタシにできることなら何でも。そうと決まれば冒険者ギルドにいって、手っ取り早く依頼達成の報告を済まそう」

「う、うん。わかった!」


 サリーはそれ以上何もいわず、冒険者ギルドへの道を急いだ。ついつい気が急いて小走りになる。


「武術訓練指導の依頼、達成の承認を確認しました。こちらが報酬です。サリーさんの分がこちら。カルマさんの分がこちらです」


 サリーはカウンターに置かれた金袋を掴み取り、急いで去ろうとした。

 その肩をカルマの手が押さえた。

 

「ねえ。なりゆきでオーガを討伐したんだけど、これって討伐報酬は出るかしら?」


 ごとりと硬いものをカウンターに載せた。


「これは……オーガの角ですね?」

「そうよ。街道の近くで遭遇したの。あのままなら通行人に犠牲が出たんじゃないかしら」

「わかりました。しばらくお待ちください」


 受付嬢はオーガの角を手に、奥に向かった。


「おい! 討伐報酬は衛兵隊から受け取ったんじゃないのか?」

「何いってるの? あれは単なるボーナスでしょう? それはそれ、これはこれよ」


 小声で問いただすサリーに、カルマは黒い笑顔でいい返した。


『うわぁ。純情な青年が中年女の手練手管に汚されていく……』

(誰が中年女だ! ぴちぴちの二十代だっちゅうねん!)

『ぴちぴちの人は、自分のことをぴちぴちっていわないと思う』


 展開についていけないサリーが目を白黒させている間に、受付嬢が戻ってきた。

 その手には重たげな金袋がある。


「お待たせしました。こちらは金貨百枚。オーガ一頭の討伐報酬です」

「なっ! 金貨百枚⁈」

「ありがとう。いただいていくわ」


 受取証にさらさらとサインすると、カルマは金袋を持ち上げ、サリーにポンと渡した。


「こいつはアンタが取っておいて」

「えっ! どうして?」

「オーガを倒せたのはほとんどアンタの魔術のおかげよ。アタシはとどめを刺しただけ」


 確かにサリーの火力があれば、いずれオーガは燃え尽きていたはずだ。

 もっとも、それはカルマ一人で戦った場合でも同じではあったが。


「何よりアタシはお金がなくてもやっていけるけど、アンタの方はそうはいかない。お金はいくらあっても足りないはずでしょ?」

「それは……。すまん! 金はいつか返す!」

「いいって。それより栄養のあるものでも買って妹さんのところにいきましょう」


 二人は急いで冒険者ギルドを離れ、途中で肉や野菜を買い込みながらサリーの家へと向かっていった。


 ◆


 サリーの妹ミリーは八歳の少女だった。寝たきりではなかったが、ほぼ家の中で一日を過ごしている。

 食事と排泄以外は動き回ることもほとんどなかった。


(小さい。まるで五歳の幼女みたい)


 サリーに似てかわいらしい顔立ちをしていたが、ミリーの顔色は青白く、手足は棒のように細かった。


「こんにちは。アタシはカルマ。サリーのマブダチよ」

「こいつは仕事仲間だ」

「こんにちは。ミリーだよ。はじめまして」


 ミリーはこけた頬にえくぼを浮かべて、サリーに挨拶を返した。


(どう、朝霧? この子は付与枠を持ってる?)

『カルマ、安心して。付与枠が一つ空いてるよ』


「よかった……」

「カルマ、ということは?」


 安心した表情のカルマに、サリーは期待を込めて尋ねた。


「ミリーちゃんに魔術付与ができる」

「本当か⁈」


 サリーの顔に喜色が広がった。


「どうしたの、お兄ちゃん?」

「ミリー、この人がお前の病気を和らげてくれるんだ」

「えっ、あたしの病気って治らないんでしょ?」


 ミリーは当惑した顔でサリーとカルマの顔を見比べた。八歳の少女はとっくに希望を捨てていたのだった。


「あのね。アタシは病気を治せないけど、悪くなるのを遅らせることならできる。たぶん痛みも軽くなるはず」

「そんなこと……信じられない」


 ミリーは我知らず後ずさった。苦しい闘病生活の中で、希望を抱くことが怖くなってしまったのだ。

 希望を描いて裏切られるときの悲しさは、八歳の少女にとってつらすぎる経験だった。


「嘘だと思うかもしれないけど……お姉ちゃんに任せてくれる? ちょっとだけ体に触らせて」

「お兄ちゃん……」

「ミリー、俺たちを信じてくれ!」


 泣きそうな兄の顔を見て、ミリーは口を引き結んでこっくりと頷いた。

 サリーは両手を差し伸べ、ミリーを床に横たえた。


「ありがとう、ミリーちゃん。我、魔術師カルマの名において命ず。ミリーの中の異物と戦う力よ、汝の爪を研ぎ澄ませ。免疫力向上!」


 ミリーの腹部に当てたカルマの掌が白い光に包まれた。光はミリーの体内に浸透し、じわじわと全身に広がっていった。


『うん。免疫力向上の付与は成功したよ!』

「うまくいったわ、サリー」

「本当か!」


 症状が軽くなり、苦痛から解放されたのだろう。ミリーは穏やかな表情で眠りに落ちていた。


「ありがとう……。こんなに安らかな顔で眠るミリーを見るのは久しぶりだ」


 サリーは左手で膝頭を握り締めながら、右手で両目を覆った。小刻みに両肩が震えている。


「アタシの本職は付与魔術だからね。この程度は何でもないわ。でも、生き物に付与した属性は一日で消えてしまう。明日になればまた病気が再発する」

「それでも……ありがたい。一晩でもミリーが静かに眠れるなら、こんなにありがたいことはない」


 毎日ミリーにつきっきりでいることはできない。根本的に治療するには、聖教会で聖治癒術を施してもらうしかなかった。

 それには莫大な金が必要となる。


「後どれだけ稼がなくちゃならないの?」

「金貨二千枚」


 絞り出すようなサリーのことばだった。

 オーガ討伐報酬の二十回分。そう考えると調達できそうに思えるが、そう簡単なものではない。


 半年以内にオーガクラスのモンスターと二十回遭遇し、それを倒さねばならない。

 サリーならそれができるだけの腕はある。しかし、機会に巡り合うにはよほどの強運が必要だ。


「ダンジョンね」

「えっ?」


 暗い顔色のサリーとは裏腹に、カルマはさばさばとした表情でいった。


「それだけの質と量のモンスターを討伐したいなら、ヒメイジのダンジョンに潜るしかない。それも低層階を攻略しなくちゃ」


 ヒメイジのダンジョンは地下迷宮型だ。下へ下へと潜るほどに、出てくるモンスターの強さが上昇する。

 サリーほど優秀な魔術師でも低層階の攻略には大きな危険が伴う。退路を断たれたり、モンスターの群れに囲まれたら脱出は難しいのだ。


「二人ならやれるか?」

「魔術と弓矢でモンスターの体力を削り、アタシの接近戦でとどめを刺す。コンビとしては最適じゃない?」


 いざとなればサリーも盾役を務められる。二人の組み合わせは応用力に富んでいた。

 これ以上ないチームが作れそうだった。


「いや、無理だ。……ミリーを一人にしておけない」


 ヒメイジへの遠征ともなれば移動も含めて一か月以上かかるかもしれない。知り合いに金を託すとしても、それほどの長期間ミリーに付き添ってもらうのは無理だった。


「置いていけないんだったら、連れていけばいいんじゃない?」

「バカな! ミリーをダンジョンまで連れていくだと? 危険すぎる!」

「そうかしら。アタシとアンタがいればあの子を守れるんじゃない?」


 二人でミリーを守りながら戦い、チャンスと見れば前衛のカルマが猛スピードで斬り込む。

 どうしようもない時はミリーを担いで逃げ出すだけのスピードがカルマの脚にはあった。


「それに一緒に旅すれば、毎日免疫力向上の付与をかけ直してあげられるわよ?」

「そうか! 旅に連れていった方がミリーは苦しまなくてすむ……?」

「でしょ? じゃあ、決まりね!」


 サリーとカルマが手を握り合った瞬間、カルマが横に置いた妖刀朝霧が真っ白な光を発した。


「むっ? この光は……!」

「ああ、チームを組んだんだからいっておくべきね。実はこの刀、呪われてるの」


 十日で一年寿命を削られること。百人の悩みを断ち切らないと朝霧の呪いが解けないことをカルマはサリーに説明した。


『どうやら武術訓練指導の依頼達成で、衛兵隊の悩み事を解決できたらしいよ』

「なるほど。依頼達成で呪いが一つ解けたのか」


 ふうんとカルマが納得した時、今度はサリーの体が真っ白に輝いた。


「えっ? 何?」

「うっ!」


 サリーは自分の体を抱きしめて震えに耐えていた。

 光が消えると、ようやく腕をほどき、頭を振ってめまいを追いやった。


「サリー、今の光は何? もしかして、アンタも……」

「そうだ。俺も呪われている」


 そういうとサリーはローブの下の服を広げて見せた。


「俺の秘密も明かしておくべきだろう。この通りだ」

「えぇえーーっ!」


 見ればサリーの体には肉も皮もなかった。内蔵さえもない骨だけの体だった。


『これは驚いたね』

 

「何これ? スケルトン?」

「リッチにかけられた呪いだ。百体のモンスターを倒すまで、生身の体には戻れない」

「何と! それでアンタ、そんなに顔色が悪いのね!」


 二十一歳の滑らかな肌を見られると期待していたカルマは、灰色の骨を目撃して吐きそうな顔色になった。


「呪われた者同士が出会ったのも、何かの縁だろう。よろしく頼む、カルマ」

「何よー! せっかくのイケメンなのに骨ぇーー? あんなことも、こんなこともできないじゃない―!」

『うーん。カルマ自身は呪われていないのに、これだけ呪いを引きつけるとはねぇ。カルマの運の悪さって筋金入りだねっ!』


「チッキショーッ! やってらんないわ。酒だ、酒だ。酒持ってこ――い!」


 カルマが酒におぼれる日々は、まだまだ続くのだった。(了)

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