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第3話 ちがーう! わしゃ盗賊かい!

「おい、あの女!」

「ああん? 何だ、ありゃ? ふざけてるのか? 勇者ごっごのつもりなら老け過ぎてるだろう?」

「頭の具合がおかしいんじゃねえのか? あの顔を見てみろ」


 カルマの姿を見とがめた冒険者たちが、困惑顔で噂していた。


(ちょっとおっさんたち、聞こえてるわよ……。まあ、気持ちはわかるけど)


 棒きれと板切れを手に、普段着のままダンジョンに潜る奴がいたら頭の中身を疑うのが当然だった。


 だが、カルマは大まじめだった。不思議なことに、初めてダンジョンに潜ったのに緊張もしていなかった。


(別にね……。旅の途中で狩りをしていた時と変わらないっていうか……)


 大自然の中でもクマやオオカミに出会えば命が危ないのだ。それでもカルマは生き延びた。

 それどころか、気配に敏感な動物たちを糧にして命をつないでいたのだ。


 カルマはダンジョンの中をくまなく歩きまわり、隠し部屋や宝箱を探した。

 途中で遭遇したモンスターは恐ろしかったが、気配を消して後ろから忍び寄り、聖剣ボウで斬りつけると一撃で倒すことができた。


 日々の狩猟生活で、カルマは<気配遮断>と<気配感知>のスキルを身につけていたのだ。

 敵の気配をとらえ、察知されずに忍び寄り、一撃で命を奪う――。


「わしゃ、どこの暗殺者(アサシン)じゃっちゅうねん! 闇に生きるのはごめんでござるよ?」


 ダンジョンの最深部まで踏破しても宝珠は出なかった。その代わり<罠看破>のスキルが身についた。


「ちがーう! わしゃ盗賊かい!」


 カルマは冒険者ギルドでモンスターの素材を売りさばき、その金を元手に酒場に繰り出した。


「うう~。ダンジョンぎら~い。暗くてジメジメじでる~」

 

 ダンジョンに見切りをつけたカルマはエルフの里を求めて、森林地帯を歩き回った。

 聖剣ボウで下ばえを切り開きながら、道なき道をひたすら進む。


 ここでもカルマのサバイバル能力が役に立った。森は豊かで食べ物が豊富にあったのだ。


 一月の間歩き続け、カルマは森林地帯を突き抜けてしまった。

 エルフは一人も見つからなかったが、カルマはアウトドアで生き抜けるクマ並みの体力を身につけた。


「ちがーう! アタシがほしいのは鑑定魔術よ!」

 

 カルマは木の洞で見つけた猿酒に頭を突っ込んでやさぐれた。


「森はぎら~い! 虫とか、虫とかいるがらいやぁあ~!」


 森の住人であるエルフとはたぶん性格が合わない。

 エルフの里探しに見切りをつけて、カルマは古代都市遺跡を目指すことにした。

 

 古い石碑や伝承を手掛かりに、カルマは八百キロの道のりを旅して、古代都市ナーラの遺跡にたどりついた。

 <気配感知>スキルをフル活用して、カルマはがれきの下に秘密の通路を発見した。


「ぬふふふ。アタシの眼はごまかせないわ。とうとう鑑定の魔道具をわが手にする時が来た!」

 

 カルマは古代都市遺跡を最深部まで踏破した。古代の遺物(アーティファクト)は出なかったが、大量の人骨を発見した。


「骨はいらーん! わしゃトゥームレイダーかっ? 骨折り損だったねって、うまいこといえってか?」


 頼みの綱の古代都市遺跡にも裏切られて、カルマは本格的にやさぐれた。


 「探し回るのはムダよ! そう、答えは自分の心の中にこそあるものよ!」


 当てにしていた古代都市遺跡にも裏切られ、カルマは名言めいた言葉を叫んで自分をごまかした。

 何をいっているのか、自分でもよくわかっていない。


 古代遺跡ナーラを後にしたカルマは、とある小さな町にやってきた。


「うえーん。ごれだけ探したのに手ががりもないらんて……」


 森林地帯で手に入れた貴重な木の実や薬草を売り払った金で、カルマは酒を浴びるように飲んだ。

 スクロールもダンジョンもエルフも古代遺跡も空振りだった。


 もはや鑑定魔術を身に着けるための手がかりは何もない。カルマは追い詰められていた。


「と、とにかく武器を手に入れて鑑定しまくるのよ。そのうちきっと鑑定魔術のスキルが身につくはず! たぶん。もしかしたら。ひょっとすると……」

 

 酒場で路銀を使い果たしたカルマは、裏通りの道具屋を訪れた。

 カルマは、店先の樽に差してあるガラクタ武器に目を留めた。


「おっちゃん! この樽のガラクタ、これナンボ?」

「あん? そいつはどれでも銅貨一枚だ! 好きなの選んで持っていきな」


 ごみとして捨てるよりは銅貨一枚で売り払った方が得なのだろう。店の親父は座った椅子から立ち上がりもせず、投げやりに言葉を飛ばした。


(ふっふっふっ。おっちゃん、相手が悪かったようね。このアタシは武器を愛し、武器に愛された女――)


 カルマは樽に歩み寄り、目を閉じて右手をかざした。


「武器に語りかけ、武器の内なる声を聞く。それこそが鑑定魔術への道なり!」


カルマは手を伸ばし、真っ赤に錆びついた一本の刀を樽から引き抜いた。


「これだ! おっちゃん、これちょうだい!」

「えっ? そいつを選んだの? 悪い、そいつで金は取れねえ。タダでいいから、どっかに持っていって捨ててくれ」

「ふえっ? 何それ? この刀ってゴミ中のゴミ?」

「ゴミっていうか、前の持ち主がねぇ――ゴニョゴニョ」


 店主の歯切れが悪かったのが気になるものの、銅貨一枚がタダになった。


「やったぁ! ラッキー! アタシの勝ちね!」


 カルマは錆びた刀を肩に担ぎ、店主に手を振って別れを告げた。


「ああー、いっちまった。あの女、何事もなけりゃあいいが――」


 店主の独り言はカルマの背中には届かなかった。


 カルマは人気のない路地裏に腰を下ろし、携帯用の砥石で刀の錆を落としてみた。

 するとどうだろう。中から見たこともないほど美しい刀身が現れた。


「なんて美しい刃紋。山上の湖を覆う朝もやのように神秘的な『にえ』。それでいて地金は力強く、形は素直で飽きがこない。これが人間だったら、超絶イケメンね」

『随分とほめてくれるじゃないか。いささか照れ臭いのだが』


 手の中の刀がカルマの頭に直接語りかけてきた。


「うおいっ! び、び、びっくりした! 刀がしゃべった?」

 

 驚いたことに声もイケメンで、カルマの頭の中に青白い細身の顔に切れ長の目、鼻筋の通った超絶美形のイメージまで浮かんでくる。


『わたしの名は朝霧。持ち主の寿命を縮める妖刀だ。短いつき合いだろうが、よろしく頼む』

「おい! いろいろあっぶねぇ情報をさらっと告げるんじゃねぇ!」


 おしゃべりなイケメン妖刀は「朝霧」という銘を持つヤバい奴だった。


 朝霧は元は人間だった。鍛冶師としての頂点を目指して日々研鑽を積んでいたが、技術向上について悩み過ぎて胃潰瘍をこじらせ、ぽっくり死んでしまった。


 ちょうどそのとき打ち上がった名刀に、妄念にとらわれた朝霧の魂が取りついてしまったのだという。

 それ以来、妖刀朝霧は持ち主を転々と変え、そのたびに持ち主を変死させるという凶事を引き起こしてきた。


『君は何日持つかなあ?』

「いやぁああ~! 捨てる! 捨てます!」

『それは無理。わたしは呪われてるからネ』

「何ですとっ?」


 捨てようと手放そうと、いつの間にか妖刀は持ち主の手元に返ってくる。

 しかも、折ったり溶かしたりすれば持ち主の命も失われるという。妖刀はその後、元通りによみがえるのだ。

 

 妖刀朝霧(イケメン)はきわめつきの呪物だった。


『なあに、そう悲観したもんでもない。わたしは鑑定が使えるからね』

「何だとおうっ?!」

『何しろ今のわたしは妖刀だからね。剣や刀の声を聞くことができるのさ』


 何と、探し求めていた鑑定魔術は朝霧(妖刀)が持っていた。付与魔術の許容回数など、その武器を見ただけでわかるという。


『ふふふ。その代わり、わたしを所持していると十日で一年寿命が縮むよ』

「うおいっ! 楽しそうにいうなっ! 呪いを! 呪いを解く方法を教えてくれいっ!」


 朝霧を持つことが得なのか損なのか、よくわからない。カルマは感情の振れ幅に翻弄された。

 ちょっと考えてみれば損に決まっているのだが、カルマはイケメンのイメージに目がくらんでいた。


「待て、待て。そうだ! 妖刀に付与魔術を重ねがけしたら、いずれ砕け散るんじゃね?」

『残念。君の魔術師としての格よりわたしの妖刀としての格の方が上なのでね。君の魔術は効かないよ?』

「くそっ! 肝心の時に破壊属性が働かないとは! これがイケメンの種族補正という奴か?」


 壊れてほしくない時には壊れ、壊したい時には壊れないとは。カルマはままにならない運命を呪った。

 あと、「イケメン十九歳で実体化しろ!」と必死に祈っていた。

  

『呪いを解くには百人の悩みを断ち切らなければならない。――わたしが悩んで死んじゃったのが元なのでね』

「アンタ、イケメンの癖にこじらせ過ぎだろうっ!」

『百人の悩みを解決するのが先か、君の寿命が尽きるのが先か。前の持ち主たちよりは長持ちしてほしいなあ』

「あの道具屋の店主、知っててこいつを押しつけやがったなあ! チキショー!」

 

 その日から、人々の悩みを解決しながら旅をする、不思議な魔術師のうわさが世間に流れるようになった。


「ふぬぬぬ! 何が悲しくて人の悩みに首を突っ込まなきゃいけないのさ。イケメンは実体化しないし。飲まなきゃやってられねぇよ、こんな生活! あと、イケメンは実体化しないし!」

『カルマ、飲み過ぎると路銀がなくなるからほどほどにね』

「うー。飲ませてくれい! あと一杯! あと一杯だけ!」


 カルマがやさぐれる日々は、まだまだ続くのであった。

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