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ポンコツ付与魔術師カルマは今日もどこかでやさぐれる  作者: 藍染 迅


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第19話 ギルドとの手打ち

「わざわざつき合わせてすまなかったな。依頼の件は正式に達成と認める」


 ギルドに戻り、三人は応接室で一息入れることになった。そこでスタンからカルマにかけた第一声がこれだった。


「最後はぐちゃぐちゃだったけど、無事に依頼達成が認められて安心したわ」

「これが達成報酬です」


 モンドが用意してきた金貨二百枚をコーヒーテーブルの上に並べて見せた。


「おおう。一日で稼ぐには大した金額ね」

「それだけ困難な依頼だったということだ」


 ヤルギスとのいざこざが決着し、スタンの怒りも去ったのだろう。さっぱりとした顔でスタンはコーヒーを啜っている。


「月末にもう一度顔を出しなさい。ヤルギスからの賠償金を分配します」

「へっ? 賠償金ってギルドのものじゃないの?」


 ギルド対ヤルギス家の戦争決着について後者から賠償金が支払われる。カルマはそのように解釈していた。


「そもそも殺されかけたのはお前です。お前には賠償金を受け取る、当然の権利があります」

『モンド氏のいうとおりだね。キミが武闘派だったらギルドに頼らず、切りかかってきたトローヤを返り討ちにした上でヤルギス家に殴りこんでもよかったくらいだ』


 モンド氏と朝霧が口をそろえてカルマには賠償金を受け取る権利があるという。

 イケメン二人がそういうなら、そういうことなのだろうなとカルマは納得した。


「ギルド長が乗り出して決着をつけていますので、ギルドとしての取り分を差し引かせてもらいます」

「それはもう」


 賠償金の取り立てはスタンがすべて取り仕切って行っていた。カルマとしてはギルドと分配することに何の意義もない。


「ギルドの取り分は二分の一――といいたいところですが」


 モンド氏は歯切れの悪いいい方をした。


(半分では労力の割に見合わないというのかしら?)


「今回は賠償金である金貨五百枚に対して二割を差し引かせてもらいます。ギルド長、それでいいですね?」

「うむ」

「え? どうして?」


 ギルドが取り分を増やすというならわかるが、なぜ全体の二割である金貨百枚で納得するのか?

 カルマには理由が思いつかなかった。


「カルマよ、迷惑をかけてすまなかった」


 がっしりと膝に手を置き、スタンが頭を下げた。


「な、な、何ですか急に?」

「これは裏のある依頼だったにもかかわらずそのことを見落とし、お前を危険な目にあわせてしまったことに対する当ギルドとしての謝罪です」


 驚くカルマに対して、モンドも頭を下げて謝罪の意を表した。


「うちに来る依頼には荒事もある。命の危険が伴うことも珍しくねぇ。だがなぁ、それならそれと依頼を受けるメンバーにはきちんと事情を知らせるってぇ務めがギルド側にはある」

「それなのに今回の依頼では、ただの付与魔術の依頼としてお前に下ろしてしまいました。これは当ギルドの失態です」


 ギルドに寄せられる依頼に関しては、調査部門が事前に裏を取る。隠された事実や、悪意が存在しないかをきちんと調べてからギルドメンバーに受注を募るのがルールであった。


「今回の調査を担当した人間には半年の減俸処分を科します」

「そういうことだ。お前に対するギルドとしてのけじめが低い取り分てぇわけさ」


 ギルドからカルマに対する実質的な賠償金支払いという形になっていた。


「わかったわ。そういうことなら受け入れる」

「よし。話はこれでしまいだ。手打ちの一杯とゆこうぜ」


 すっと立ち上がって、モンド氏が酒の手配を命じにいった。()()()()()()にも慣れているのであろう。


「それにしてもよく生き残れたな。相手はプロの剣士だ。背中からの斬撃を無傷でかわすたぁな」

「それは、その、<気配感知>のスキルを持っているので……」

「町中で使っていたってか? ずいぶん用心深ぇことだな」


 町中で<気配感知>をオンにすると、通行人の気配を拾いまくることになる。気が立つばかりで役には立たない。

 スタンもそれを知っていたが、それ以上追及することはしなかった。


「付与魔術師といっても、カルマは特殊な魔術の使い方をするようですよ」

「ほう。どんな風な使い方をするんでぇ?」


 戻ってきたモンド氏のことばに、スタンは身を乗り出した。


「お前……自分の体に付与魔術を使っていますね?」

「どうしてそれを!」


 ずばりと断言したモンド氏にカルマは鳩尾(みぞおち)を殴られたような衝撃を受けた。


「おもしれぇ。俺にもわかるように説明してくれ」

「カルマは、ここのところ立て続けにうちの塩漬け依頼を片づけています。気になってその時間経過を調べてみました」


 早すぎるのだ。エルフの里やヒメイジのダンジョンまで出かけて高難易度依頼を果たしてきたにしては、かかった時間が短すぎた。

 飛行魔法でも使えない限り、説明がつかない移動の速さであった。


「決め手はワイバーンの討伐です。腰の刀がどれほどの名刀だろうと、剣士でもないカルマがワイバーンの首を一太刀で断ち切れるはずがありません」

「なるほど。俺も報告を聞いたが、見事な切り口だったらしいな」

「どうですか、カルマ? わたしの見立ては間違っていますか?」


 ひたと見つめるモンド氏の目から、カルマは自分の目をそらすことができなかった。


「……その通りよ」


 やむなくカルマはモンドの推察が事実であると認めた。


「それで今回も自分の体に付与魔術をかけて、トローヤから逃げ出したってわけか?」

「そうよ」


 自分自身に魔術付与するというタネが割れれば、剣士の攻撃をかわせたことにも納得がいく。

 そこで、スタンはにやりと笑った。


「そいつはまた、ずいぶん大胆なことをしやがったなぁ。手足が砕け散るかもしれねぇじゃねぇか」


 限界を超えて魔術付与を行えば、対象は耐えられずに砕け散る。

 付与魔術につきまとうリスクは周知のことだった。


「お前、鑑定スキルを手に入れましたか?」


 またもモンド氏が核心をつく問いを発した。

 カルマのこめかみを冷たい汗が流れ落ちる。


「おいおい、モンド。スキルだの魔術の決め手は術者にとって秘中の秘だろう? あんまり品のないことを聞くもんじゃねぇぜ」


 用意された酒を口に運びながら、スタンはモンドをたしなめる発言をした。


「そうでした。わたしとしたことがぶしつけなことをいいました。カルマ、忘れてください」


 そういいながら、モンド氏は少しも申しわけなそうな顔をしていない。唇にうっすらと笑みを浮かべているのだった。


『ははぁん。これはカルマ、反応を読まれたね。すっかりお見通しだ』

(そうね。腹の探り合いじゃこの人たちにかなわないわ)


 カルマは心の中で白旗を掲げた。


(相手はギルドのトップ。めったなことで秘密を漏らすようなことはしないでしょ)


 そう自分に言い聞かせるしかなかった。


「まあいいから、お前たちも一杯やれ。打ち上げだ、打ち上げ!」


 カルマの能力を探ることにもある程度満足がいったのだろう。スタンはモンドとカルマにも酒をすすめた。


「それではいただきましょう」

「ゴチになるわ」


 ()()()に引かれてカルマがコップを持ち上げると、椅子の背に立てかけていた妖刀朝霧がふわっと白い光を発した。


『あ、このタイミングで……』


 カルマは死角のことで気づかなかったが、スタンとモンド氏には白い光がはっきり見えた。


「ん? カルマ、その光は何ですか?」

「今光ったな」

「え? 光?」


 モンド氏に指をさされて振り返ったが、その時には朝霧を包む白い光は消え去っていた。


『カルマ、「十日の呪い」が一つ消えたみたい。ワタシが光るところを見られちゃったよ』

(あちゃぁ、ここで? 今日はついてないわね)


「どうした? 俺たちにもいえねぇことか?」


 このままではスタンたちの心に疑念が生まれる。ようやく居心地がよくなってきたこの町のギルドで居場所を無くすようなことは避けたい。それがカルマの偽らざる気持ちだった。


「いいえ。説明するわ。ただ、この三人の秘密ということにしてもらえたらありがたいけど」

「よかろう。いうなといわれりゃ、墓場まで持っていくぜ」

「わたしも同じです」


 考えてみれば知られて困るような事情でもない。カルマは妖刀朝霧の秘密を一部明かすことにした。


「実はこの刀は妖刀なんです――持ち主の命を蝕む」

「ほう。似たような話を聞いたことはあるが、実物を目にするのは初めてだぜ」

「放っておくと十日で一年、持ち主の寿命を縮めるそうです」

「そいつはまた……難儀だな」


 呪いを解くためには百人の悩み事を断ち切らねばならないこと。カルマはそのために高難易度の依頼を受けたいのだと二人に告げた。


「なるほど。お前が塩漬け案件や指名依頼にこだわる理由がわかりました」

「ふーん。珍しい話だな。それでさっきの光は何なんでぇ?」

「それはきっと悩み事が解決した知らせでしょう」


 タイミングを考えれば、ヤルギスの悩みを解決したことになるのだろう。毒無効化付与はそれなりに完結した。

 今後ヤルギスが毒に悩まされることはなくなった。


「そういうことか。それにしても百人の悩み事を解決とは大層な条件だな」

「本当にそう。いつまでこの美しさを保てるか……」

「……。まあ飲め」


 スタンは酒でごまかすことしかできなかった。それはカルマが愛用する方法だったので、カルマの方もひょいひょいと応じた。


「そんな呪いを背負いながら気楽に酒を飲める、お前の心境が理解できませんが……。身の回りの安全にはしばらく注意した方がいいですよ」

「へ? 何でまた?」


 酒におぼれようとするカルマに、常識人のモンド氏は釘を刺した。


「ヤルギス家から逃げ出した、あの二人のことですよ。世の中には逆恨みというものがあります。剣士であるトローヤがお前の命を狙うかもしれません」

『カルマ、この人のいう通りだ。狙われることを用心しなくちゃ。わかるよね?』

「あ、ああ……」


 カルマは空になったコップをコーヒーテーブルに伏せておいた。


「命が惜しいので、お酒はここまでにするわ」


 思わず涙目になっていた。


(くそったれぇー! あいつら見かけたらボッコボコにしてやんぞーっ!)

『いや、その時は逃げた方がいいと思うよ?』


 カルマの酒断ちは逃げ出した二人がつかまるまで、三日の間続くことになった。

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