【第六章 ボス戦、勝利と算盤】
【第六章 ボス戦、勝利と算盤】
東の洞窟、最深部。
冷たい空気の奥で、洞窟の主が唸りを上げた。
——鋼殻グリズラー。
鋼の毛皮に覆われた巨大な熊型魔獣。
鋭い爪と巨体で、下手なCランクパーティーなら瞬殺される相手だ。
アレドが剣を抜き、興奮気味に笑う。
「来たな……よっしゃ、こいつを倒して、ガッツリ稼ぐぜ!」
ゴランは盾を構え、無言で前に出る。
シェリアはすでに攻撃用の薬品を取り出し、準備完了。
登は落ち着き払った声で指示を出した。
「アレド、まずは左から回り込め。ゴランは正面を抑えろ。シェリア、合図するまで攻撃するな。俺は後方支援に回る」
「了解!」
仲間たちは即座に動く。
アレドが斬りかかり、ゴランが正面で耐える。
グリズラーの咆哮が洞窟に響き渡るが、登は一切動じない。
(いいぞ、想定通りの動きだ)
登は冷静に距離を取りつつ、背後で小瓶を握る。
——分身の薬、だが今回は使わない。
ここは表の“冒険者”としての顔で、しっかり実力を示す場だ。
むしろ重要なのは**「どこで力を出すか」**の見極め。
アレドの剣が鋼の毛皮を切り裂き、ゴランの盾が致命傷を防ぐ。
グリズラーは苛立ち、暴れる。
その瞬間、登は叫んだ。
「シェリア、今だ!」
シェリアが一瞬だけニヤリと笑い、爆薬入りの薬瓶を投げつける。
ドォォンッ!!
爆発と共に、グリズラーの片足が吹き飛ぶ。
絶叫する魔獣。
そこに登がすかさず跳び込む。
「……とどめだ」
剣を逆手に持ち、喉元の急所へ一直線。
一刺しで魔獣の心臓を貫いた。
巨体が崩れ落ちる。
一瞬の静寂。
次の瞬間、アレドが歓声を上げた。
「やった……やったぞ! ボス討伐成功だ!!」
ゴランも小さく頷き、シェリアは微笑みながら薬瓶を片付ける。
登は黙って魔獣の心臓から剣を抜き、静かに血を拭った。
「……予定通りだ」
【クエスト完了・報酬獲得】
翌日、ギルドの報告所。
冒険者たちの間で、登たちの討伐成功は瞬く間に噂になった。
「東の洞窟の鋼殻グリズラーを倒したパーティーがいるらしいぜ」
「まさか、あの小山登が……!」
ギルド職員が目を丸くしながら、報酬を手渡す。
「東の洞窟魔物掃討、討伐成功。正式にクエスト完了を認定する。報酬金貨3枚と、討伐品の買い取りでさらに金貨2枚。合計金貨5枚だ」
アレドが満面の笑みで登に言った。
「なあ、分け前はお前が仕切るんだろ? どう分けるんだ?」
登は一瞬だけ周囲を見回し、低く言った。
「今回は特別だ。金貨1枚ずつ、残りの1枚はパーティーの資金として保管。異論は?」
「文句あるわけねえ!」
アレドは快く笑い、ゴランも頷く。
シェリアはじっと登を見つめ、微かに微笑んだ。
「……随分と“律儀”なのね。意外だわ」
登は肩をすくめる。
「商売の基本は、信頼だ。稼ぎの場はまだまだある」
その心の内で、彼はすでに計算していた。
(表の報酬は5枚。だが、裏の分身稼ぎはすでに8枚超え。
今回の冒険、俺の本当の利益は金貨13枚だ)
登は静かに笑った。
——戦場の勝利も、金の勝利も、すべて手のひらの上。