【第五章 東の洞窟、表と裏の作戦】
【第五章 東の洞窟、表と裏の作戦】
翌朝、パーティー4人は東の洞窟の入り口に立っていた。
洞窟の中は魔物の巣窟。
依頼内容は「魔物掃討とボスの討伐」。
報酬は破格だが、死人が出るのも珍しくない危険クエスト。
アレドが剣を肩に担ぎ、笑う。
「よーし、行くか! 今日は暴れるぜ!」
ゴランは無言で頷き、巨大な盾を構える。
シェリアは冷静に薬草や道具の確認をしている。
登は、軽く頷いて先頭に立った。
「突っ込むな。冷静に、確実に進む」
一歩、洞窟に足を踏み入れた瞬間、ひんやりとした湿気と土の匂いが鼻をつく。
「さて、こっからが本番だ……表のな」
登は先行して進みつつ、誰にも気づかれぬよう袖の中から小瓶を取り出す。
分身の薬——時間は5時間。
小声で呟く。
「裏の商売も、同時に始めるか」
こっそり薬を飲み干せば、背後の暗闇から霧が立ち昇るように分身5体が現れる。
今日は人間男ばかりだが、全員が外見を微妙に違えている。
あえて、冒険者風の姿にしておいた。
「指示は単純だ。街に戻れ。賭博場で昨夜のルートを使って資金を回せ。残り時間は5時間。掛け金は大胆にいけ」
分身たちは無言で頷き、洞窟の入口から音もなく姿を消していった。
その間、アレドたちは全く気付かない。
「こっちも仕事に集中するか……」
登は剣を抜き、前進するパーティーの背中を追いながら、冷静に戦況を見極める。
【洞窟戦闘シーン】
ほどなくして魔物の群れが現れた。
牙の鋭い狼型の魔物が5匹、地を這うように迫る。
「出番だな!」
アレドが吠えるように前に出る。
剣が唸り、魔物の首を一閃。
ゴランは巨盾で突進を止め、シェリアが炎の薬で追撃する。
まるで無駄のない連携。
登は背後から、冷静に急所を刺す役に徹する。
「……速い、正確、そして単純だ。こいつらは戦闘の“駒”として最高だな」
淡々と魔物を倒しながら、頭の中は別のことでいっぱいだった。
——分身たちは今、賭場で動いている。
自分が前線で戦っている間に、裏で資金が増え続けている。
(これが俺の“冒険スタイル”だ。戦いは仲間に任せ、俺は戦果と利益を同時に稼ぐ)
【ボス戦前夜/裏の稼ぎ】
その夜、洞窟の安全地帯で野営。
アレドたちは食事を取りながら笑い合っていた。
「ははっ、いい調子じゃねえか! 明日にはボスまで辿り着けるぜ!」
「……警戒は怠るな」
ゴランが低く釘を刺すが、表情は穏やかだ。
シェリアは焚き火の向こうで登をじっと見つめる。
「……あなた、妙に落ち着いてるわね」
「そうか?」
「ええ。なんというか……戦いの最中でも、妙に“余裕”があるように見える」
登はわざと肩をすくめてみせた。
「商人ってのはな、どんな時でも冷静に損得を考えてるもんだ」
「ふぅん……」
シェリアはそれ以上突っ込まなかった。
その裏で、登は密かに分身の帰還を感じ取る。
分身たちはすでに、街での賭博を終え、稼ぎを済ませて戻ってきている。
成果は——金貨8枚。
(上等だ。洞窟の報酬と合わせれば、もうしばらくは安泰)
登は焚き火の明かりを見つめ、薄く笑った。
「……明日にはボスを倒して、堂々と報酬を得る。
これで表の信頼も、裏の資金も、どっちも手に入る」
戦場で稼ぎ、裏で稼ぐ。これが、俺の冒険のやり方だ。