【第三章 薬草採取試験】
【第三章 薬草採取試験】
翌朝、スフン町の東に広がるグラン草原。
冒険者ギルドの試験官たちが集まり、今日のDランク→Cランク昇格試験の開始を告げた。
「試験内容は薬草採取。規定時間内に規定量以上の薬草を集めて帰還できれば合格。
品質も重視するから、適当に抜けばいいってもんじゃないぞ」
参加者は十数人。
だが、その中で小山登はまるで別の空気を纏っていた。
無駄な会話はしない。ただ淡々と、採取用の袋を肩にかける。
「開始。」
試験官の号令と同時に、冒険者たちが散っていく。
登は、草原のはずれの小道に入ると、すぐに足を止めた。
誰の目も届かない場所。
「……さて、仕事の時間だ」
登は懐から分身の薬を取り出し、ぐいと一気に飲み干す。
シュウウ……ッ
身体が霧のように分かれ、次々と5体の分身が現れる。
今日の外見は、黒髪の少年、エルフの女、隻眼のドワーフ、浅黒い獣人、痩せた老兵。
だが、全員の瞳は同じ。
冷静で、計算高く、無駄を嫌う“登の目”だ。
「作戦はいつも通り。効率最優先、5時間以内に必要量の5倍を確保する」
分身たちは無言で頷き、即座に散開。
それぞれ、最も薬草が密集するポイントを熟知している。
採取の手つきも、無駄がない。
サク、サク、サク……
まるで職人が刈り取るような速さ。
さらに、登自身も手を止めずに作業を進める。
——1人で5人分働ける。それが、俺の強さだ。
【試験終了/ギルド帰還】
正午の鐘が鳴る頃、登は真っ先に帰還していた。
薬草袋はパンパン。
しかも、品質はすべて上等。
ギルドの試験官が袋を開けた瞬間、目を剥いた。
「……これは……っ!?」
「必要量の5倍。品質も申し分ないはずだ」
登は淡々と答える。
試験官たちは慌てて薬草を仕分けるが、どれも高品質で傷ひとつない。
「ど、どうやって……?」
「手先が器用なんでね。努力の差ってやつだ。」
もちろん、誰にも“分身”のことは言わない。
他の冒険者たちが次々に戻るが、彼らは汗だくで、薬草もボロボロ。
その差は歴然だった。
【ランク昇格発表】
夕方、ギルドで試験結果が発表された。
「合格者、小山登。圧倒的な成績でCランクに昇格だ」
拍手が起きるが、登はただ一礼するだけ。
心の中は冷め切っていた。
(当然だ。こんな試験、俺にとっては茶番でしかない)
受付嬢が慌てて声をかける。
「す、すごいです登さん!まさか、ここまでとは……!」
「運が良かっただけだよ」
登は静かに微笑んだ。
だが、心の奥ではすでに次の計画を立てていた。
——次は、パーティーだ。
このランクになれば、他の冒険者たちも組みたがる。
装備は整った、地位も手に入れた。
次は**“使える駒”**を手に入れる番だ。
登はギルドを後にし、月明かりの町を歩きながら呟く。
「金、分身、地位。全部揃った……あとは、仲間だけだ」