【第一章 続き/ギャンブルの引き際】
【第一章 続き/ギャンブルの引き際】
サイコロも、カードも、ルーレットも、すべて順調だった。
分身たちは淡々と勝ちを重ね、賭場の空気すら変え始める。
ザワザワと、客の間に不穏な視線が走る。
「あの連中、勝ちすぎじゃねえか?」
「……さっきから同じ奴ばかり勝ってるな」
それを、登は裏口の木箱から冷静に見ていた。
砂時計の砂は、まだ半分以上残っている。
勝負は、まだ続けられる。
だが――
登は、そっと立ち上がった。
「まだはもう。もうはまだ。」
呟いたその言葉は、賭博の鉄則。
欲をかけば、必ず足元をすくわれる。
「今、勝ってる。だから、ここで終わりだ。」
登は指をパチンと鳴らす。
それだけで、分身たちは一斉に賭場から離脱し、裏口へ戻ってきた。
勝ち逃げだ。
「全員、金を置け。分け前はあとで計算する」
分身たちは無言で金貨と銀貨の袋を積み上げる。
その動きは実に淡々としている。
登はそれを一つ一つ丁寧に袋にまとめ、最後にポツリと告げた。
「残り時間は……まだ2時間はあるが、ここで終いだ」
分身たちは一斉に頷き、ふっと霧のように消えた。
登はその場にひとり残り、袋を背負って夜のスフン町を歩き出す。
——帰る。あとは家でゆっくり数えればいい。
命がけの戦場は、金を持って生きて帰った者だけが勝者だ。
勝った金を、その場で数える奴はただの馬鹿。
「俺は商人だ。勝った金は、次の商売の種だ」
登は薄ら笑いを浮かべ、月夜の下を歩き続けた。
【帰宅・資金確認シーン】
小さな宿の一室。
鍵を三重にかけ、窓も板で塞ぐ。
登はテーブルに金貨の袋を並べた。
「さて、どれだけ増えたか……」
袋を開け、金貨と銀貨を仕分けする手は、実に冷静だ。
焦りも興奮もない。ただ、正確に数えるだけ。
「……元手、銀貨7枚。今日の成果、金貨2枚と銀貨48枚」
約15倍。文句なしの大勝利。
登はふっと鼻で笑った。
「……まだ5時間の半分も使ってねえってのが笑えるな」
袋を再び縛り、布団の下に隠す。
「よし、これで薬草どころか、装備も整えられる。冒険者ランクも上げて、パーティーも組める」
登は窓の外を見上げる。
——まだ始まったばかりだ。
この金は、始まりに過ぎない。
「次は、商売の資金に化けさせる。分身はギャンブルだけじゃねえ。……“商売の裏技”だ」
男の瞳が、月の光に怪しく光った。