【プロローグ/本編冒頭】
【プロローグ/本編冒頭】
夜のスフン町は、賭場の灯りで燃えていた。
神聖帝国ホッカイの外れにある交易都市。ここは商人と盗賊とギャンブラーの吹き溜まり。金を持つ者は英雄、金を失えば犬以下。そんな町の片隅、ひとりの男が賭場の奥の席に腰を下ろしていた。
小山登。
元冒険者。いまは裏稼業の商人。
その目の前には五人の「男」が座っている。
髪の色も肌の色も種族もバラバラ。
だが、全員がまったく同じ動きをしている。
——俺だ。
登は静かに笑った。
この男たちは登の「分身」。
五時間だけ現世に存在できる、自分と全く同じ能力を持つ偽りの肉体。
外見はランダムだが、中身は完全に自分。思考も、記憶も、手際も、すべて一心同体。
「さて……賭けの時間だ」
登は懐から、わずかに残った銀貨数枚を取り出した。
本来なら薬草を買うはずだった金。だが、それを今、賭けに突っ込む。
最初の掛け金は小さくてもいい。大事なのは倍々の積み上げだ。
「五人いれば、五倍の勝機がある。外れたら? 笑わせるな。俺の頭脳が五つあれば、外す方が難しい」
登はテーブルを叩いた。
「五人、それぞれ別の卓に散れ。5時間、勝ち続けろ。」
分身たちは一斉に立ち上がり、無言で賭場の各所へ散っていく。
ルーレット、カード、ダイス、勝負の舞台は選び放題。
どこでも勝てる。なぜなら、こいつらは自分だからだ。
――掛け金を2倍にする。それが今日の最低ノルマだ。
登は冷たい目でサイコロ卓を見据えた。