12:バカな小物は良く喋る
「ナルシアはな、若さだけだ。価値が無くなれば捨てるだけよ」
「……あの手の女は厄介だぜ? 捨てるにしても気を付けろよ、ダンナ」
「あぁ?」
ラヴィスの軽い調子に、ダルネスは一瞬だけ顔をしかめたが、すぐに不敵な笑みを浮かべると、
「ふはっはっはっはっは! 心配いらんさ! 私に逆らう度胸など奴にはない。それに、奴が何を騒ごうと私の地位は揺るがんよ!」
「なるほどねぇ……、流石は策士ダルネス卿だ」
「ふ、ふはははは」
愉快な愉快なダルネス卿に、ラヴィズはにやりと笑った。
やはりこの男、「聞いていた通り」だ。
すべてにおいて浅はかなのである。
現に今も、自分がどこかの差し金かどうか、疑いもしていない。
──そんな状況に、ラヴィズはにやり。
次の話題を探るように間を置くと。
杯を傾けながら、核心に迫る言葉を放つ。
「ところでさ、リュネットの親御さんの話……あれ、結局どうなったんだっけ?」
……ぴくっ。
直後、ダルネスの動きが一瞬止まった。
瞬時に察する。
『こいつ、なにかした』。
ラヴィズの眉間が一瞬震えた。
急速に空気が絞まっていくような感覚の中、ダルネスは、その瞳に不機嫌と疑いを宿しラヴィズを睨む。
「……何の話だ?」
「ほら、ふたりとも死んだって聞いたぜ。調査してるんだろう? なにせ奥方の親御さんだ、不審死だって聞いたが?」
……ぷ。くははははは! くはははははは!
──瞬間。
古びたホールに、狂気じみた笑いが響いた。
突如豹変したダルネスに、ラヴィズが目を見開き固まる中。
不気味に天を仰ぎ笑い続けたダルネスは、思いっきり息を吸い込むと、目に涙を浮かべ、狂気じみた声で述べるのである。
「ああ! あれか! あれは傑作だった! 今思い出しても笑いがこみ上げてくる!」
「『傑作』って…………、……アンタ、まさか」
「さあ。知らんなあ。何のことだかぁ。ただ、邪魔者が消えゆくさまは愉快だったわ! くははははははッ!」
夜の帳が降りたダルネス領の外れ。
没落貴族が手放した屋敷の中。
かつての栄華を物語る広間に、ダルネスの咆哮に似た笑い声は、けたたましく響いたのであった。
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「……よう。ショーンさんよ」
「お疲れ様です、引き取ります」