三国志演義・赤壁大戦~三江の大殲滅~【玄徳の章・前編】
声劇台本:三国志演義・赤壁大戦~三江の大殲滅~【玄徳の章・前編】
作者:霧夜シオン
所要時間:約40分
必要演者数:最低8人
(7:1:0)
(8:0:0)
はじめに:この一連の三国志台本は、
故・横山光輝先生
故・吉川英治先生
北方健三先生
蒼天航路
の三国志や各種ゲーム等に加え、
作者の想像
を加えた台本となっています。また、台本のバランス調整のた
め本来別の人物が喋っていたセリフを喋らせている、という事
も多々あります。
その点を許容できる方は是非演じてみていただければ幸いです
。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ
て打てない)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただい
ております。何卒ご了承ください<m(__)m>
なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。
また上演の際は決してお金の絡まない上演方法でお願いします
。
ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、
または他のキャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場
合がありますので、注意してください。
なお、古代中国において名前は 姓、諱、字の3つに分かれており、
例を挙げると諸葛亮孔明の場合、諸葛が姓、亮が諱、孔明が字となりま
す。古代中国において諱を他人が呼ぶのは避けられていた為、本来であ
れば諸葛孔明、もしくは単に字のみで孔明と記載しなければならないの
ですが、この三国志演義台本においては姓と諱で(例:諸葛亮)と統一
させていただきます、悪しからず。
なお、性別逆転は基本的に不可とします。
●登場人物
諸葛亮・♂:字は孔明。
臥龍と謳われる賢人。
上は天文、下は地理を悟り、六韜三略を胸にたたみ、
若いのに田舎に隠居して晴耕雨読の日を送っていた所を
劉備の三顧の礼を受けてその軍師となる。
曹操に対抗するべく孫権と同盟を結ぶべく呉へ乗り込む。
後に中国史上屈指の名宰相として名を残す事になる。
劉備・♂:字は玄徳。
中山靖王・劉勝の末孫にして
漢の景帝の玄孫を自称する。
諸葛亮と言う傑物を家臣に得るが、未だその勢力は弱い。
関羽・♂:字は雲長。
美髯公とあだ名される長い髯の持ち主で、知勇に優れた名将。
義に厚く、目上や同僚に傲岸不遜で下に慈悲深い。
桃園に義兄弟の契りを結んだ劉備・張飛と共に乱世を駆ける。
重さ八十二斤の青龍偃月刀を自在に操る。
張飛・♂:字は翼徳。
一丈八尺の蛇矛を軽々と振り回す酒を愛する豪傑。
劉備、関羽と共に桃園に義兄弟の契りを結び
、二人の義弟として乱世を正さんと駆ける。
酒による失敗も多いが、その武勇は劉備軍の中でもトップクラス。
趙雲・♂:字は子龍。
関羽、張飛と並ぶ智勇の持ち主。
袁紹、公孫瓚を経て劉備に仕える。
現在では劉備軍の武の要の一人として活躍、
長坂坡の退却戦では劉備の子を守護し、ただ一騎で
曹操軍数十万の中を駆け抜けるほどの豪胆な人物。
孫権・♂:字は仲謀。
兵法家、孫子の末裔とされる孫堅の次男。
亡き兄、孫策とは違い、内政に秀でている。
碧眼紫髯という南方人の身体的特徴を持ち、
この呉の国始まって以来の国難に立ち向かう。
二十代後半。
周瑜・♂:字は公謹。
呉の前主、小覇王孫策と同年代の若き英傑。
孫策の臨終の際に軍事を託される。
今回の戦いにあたって水軍大都督として全軍を指揮、劉備と
同盟を組んで曹操打倒にあたる。
非常な美青年で美周郎とあだ名される。
妻に当時絶世の美女、江東の二喬と謳われた小喬をもつ。
音楽にも堪能で当時の歌にも、「曲に誤りあり、周朗(周瑜)
顧みる」という歌詞があるほど。
魯粛・♂:字は子敬。
本格的に頭角を現したのは孫権の代から。
周瑜に推挙され孫権に仕える。演義では割と周瑜と諸葛亮の間
でオロオロしているイメージがあるが、正史では豪胆かつ
キレる頭脳を持つ。
張昭・♂:字は子布。
江東の二張と称される賢人の一人で、
孫策の頃から呉に仕える。
内政を主に担当しており、孫策の臨終の際に
「内事決せずんば是を張昭に問え、
外事騒乱の際は是を周瑜に問え。」
と遺言され後事を託されるほどの人物。
虞翻・♂:字は仲翔。
初めは王朗の配下だったが、後に孫策、そして孫権に仕える。
この赤壁の戦いでは曹操への使者となったり、樊城の戦いでは
調略の使者となったりとターニングポイントを担った人物。
かなり直情径行だが非常に優れた人物で、易(占い)に深く
通じ、みずから注釈を加えるなどしている。
この話では残念ながら諸葛亮に論破される役回り。
歩隲・♂:字は子山。
この話では諸葛亮にやり込められるだけでいい印象はないが、
博学多才で知られ、性格も冷静沈着で人当たりの良い一面が
あった。
人物眼にも優れ、孫権に多くの有能な人物を推挙したその
生き様は、正史で陳寿や裴松之に讃えられている。
一族から歩練師が孫権の妻となっている。
薛綜・♂:字は敬文。
相手の悪口に対して即応してやり込める程の鋭い頭脳を持って
いた。
三国志の作者、陳寿は「深い学識を有して主君へ適切な諫言を
し、極めて有能な臣下である」と評している。
しかしこの話では諸葛亮論破被害者の会の一員。
陸績・♂:字は公紀。
堂々たる体躯、博学多才の読書家で知識が広く、中でも天文と
暦学に通じており、清廉な性格の人物。
孫権に対しても正しいと思うことは何でも諫言したことから、
孫権からは畏れ敬われたという。
これ程の人物ではあるが、三国志演義をベースとするこの話で
は、諸葛亮論破被害者の会の一人。
諸葛謹・♂:字は子瑜。
魯粛に推挙され、孫権に仕える。
演義ではあまり目立った活躍は描かれてないが、
三国志の作者である陳寿に、
「呉はその虎を得たり」と評されるほどの優秀な人物で、
孫権の信頼も非常に篤かったという。
諸葛亮の実の兄。
劉備軍部将・♂♀不問:劉備配下の部将。
ナレ・♂♀不問:雰囲気を大事に。
●配役例(他に良い組み合わせがあったら教えてください)
劉備・諸葛瑾:
関羽・張昭:
張飛・虞翻・歩隲:
趙雲・魯粛:
諸葛亮:
周瑜・薛綜:
孫権・陸績:
ナレ・劉備軍部将:
※演者数が少ない状態で上演する際は兼ね役でお願いします。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ナレ:曹操は劉備という大きな獲物を逃したが、むしろまとめて平らげん
とするかのように、呉との国境に全軍を展開。
その軍容で孫権主従を威圧する。
一方、曹操軍に散々に痛めつけられた劉備は、江夏を治めている
亡き劉表の長男・劉琦の元に身を寄せた。
再起を図るべく連日善後策を協議していたが、諸葛亮は焦りもせず
、むしろ何かを待っているかのようだった。
諸葛亮:何度も申し上げている通り、天下三分の計を行うには、
遠い呉をして近い曹操と戦わせなければなりませぬ。
そうして互いの力を相殺させ、その間に力を蓄えるのです。
劉備:しかし、そううまく事が運ぶであろうか…?
関羽:ふむう…確かにおっしゃることは理想ですが、
果たしてそれが現実となるでしょうか?
決して軍師を信じておらぬわけではないのですが…。
趙雲:呉が曹操と正面切って戦うかと言われれば、むしろ和睦する可能性
もあるやもしれませぬ。
諸葛亮:近いうちに必ず、呉から使者がやって来ます。
その時は私みずから呉へ赴いて弁舌を縦横に振るい、
曹操と戦わせるよう仕向けて参りましょう。
張飛:ぬうう…どうもそれがしにはよくわからねえな…。
劉備:今までの軍師の作戦の素晴らしさはじゅうぶん認めているが、
果たしてそう簡単に呉が曹操と決戦するであろうか…。
劉備軍部将:申し上げます!
ただいま呉の孫権の名代として、魯粛と申される方が
故・劉表の喪を弔うと称して訪ねて参っております!
関羽:な、なんと!?
呉の使者が!?
諸葛亮:ほう…、思ったよりも早く来ましたな。
劉備:本当に向こうからやってくるとは…!
趙雲:軍師殿の先を見る目には、本当に感服します…!
張飛:ぐ、軍師、教えていただけませんかね。
どうして呉から使者が来ることが、前もって分かるんですかい?
諸葛亮:いかに豊かな強国である呉と言えど、百万と称する曹操軍が
南進して来たとあっては、戦慄せざるを得ません。
また、呉の将兵は実戦の体験が少ない上に、他国の兵備の状態を
よく知らないでしょう。
張飛:じゃあ、我々へ使者をよこしたのは…?
諸葛亮:我が軍と曹操軍の実情を知るためと、
場合によっては我らに曹操軍の背後を突かせようとする考えかも
しれませぬな。
趙雲:亡き劉表殿を弔うためというのももしや…?
諸葛亮:ええ。
先代の小覇王・孫策が死んだ際、荊州からは弔問の使者を遣わし
てはおらぬはず。
にもかかわらずこうしてやって来たという事は、弔問などは建前
、孫権の密命を帯びてきたにすぎませぬ。
関羽:な、なるほど…まるで鏡にかけて見るかのようだ。
劉備:そういう事であったか。
さすがは軍師…よし、丁重にお迎えするのだ。
劉備軍部将:ははっ、直ちに。
諸葛亮:我が君、使者の魯粛はあれこれと曹操軍の軍備の内容などを
聞いて来るでしょう。
ですが、何を聞かれても知らぬ存ぜぬで通して、わたくしを
お呼びください。
後の事は良いように計らいますゆえ。
劉備:わかった。
【三拍】
これは呉の使者殿、ようこそ参られました。
遠路はるばるご苦労です。
魯粛:いや、これも君命にございますれば…
それがしは主・孫権の名代として参りました、
魯粛、字は子敬と申します。以後、お見知りおきを。
劉備:さぁ、こちらへどうぞ。
ナレ:魯粛は持参の礼物を贈り、位牌に礼を捧げた。
やがて使者をもてなす為の酒宴となったが、彼は酔いが回ると
劉備へ向かってずけずけと尋ね始めた。
魯粛:劉備殿は常に曹操に目の敵にされ、
戦いを繰り返しておられるゆえご存知でしょう。
曹操の配下は誰と誰が重く用いられておりますかな?
劉備:さあ、よく分かりませぬな。
魯粛:では、曹操の総兵力は百万とは申すものの、
実際はどの程度の物なのでしょうな。
劉備:さて…存じませぬな。
魯粛:これは意外なお返事だ。
徐州、白馬、汝南、新野、長坂と長年戦い続けてこられた貴方が、
曹操について何も知らぬはずはございますまい。
劉備:いや、いつの戦いでも我らは、
曹操来たると聞けば逃げ走ってばかりいたゆえ、
詳しい事はまったくもって不明なのです。
我が軍師孔明ならば、少しは心得ておるであろうが…。
魯粛:おお、では是非ここへ諸葛先生をお呼び願いたい。
劉備:こちらからもお引き合せしようと考えていたところです。
誰か、軍師をこれへ。
【三拍】
諸葛亮:我が君、お呼びでございますか。
劉備:おお軍師、
こちらが呉の孫権殿の名代で弔問の使者として参られた、
魯粛殿だ。
諸葛亮:そうでございましたか。
諸葛亮、字は孔明にございます。
以後お見知り置きを。
魯粛:魯粛、字は子敬でござる。
先生の兄君の諸葛謹殿とは、年来親しくさせていただいております
。
諸葛亮:おお、兄の謹をご存知でしたか。
魯粛:この度の使いの際に言伝でもと思いましたが、
君命の手前、わざとさし控えて参りました。
諸葛亮:なるほど。
それはさておき、呉とはかねてから友好を結びたいと思っており
ました。
お互いに手を相携えて曹操の打倒を念願しておられますが、
魯粛殿のお考えはいかがですかな?
魯粛:さあ…なにぶん、事は重大ですからな。
諸葛亮:うぬぼれるわけではありませんが、
呉が我々と結ばなければ存亡の危機となりましょう。
もし万が一、我が君が意地を捨てて曹操の軍門に下れば、
呉に南下する圧力は倍となり、脅威が増すでしょうな。
魯粛:むむむ…まるでこちらが脅迫されているかのようですな。
諸葛亮:ほう、ではわたくしの考えが違っていると…?
魯粛:いえ、事実でしょう。
そちらの交渉次第では、我が君も決して動かないことは無いと
信じます。ただ、その使者の任は重大ですが…。
諸葛亮:では、脈があるというわけですな。
魯粛:ええ。
幸い、先生の兄君も我が君の信頼厚いお方ですからな。
ひとつ、先生ご自身が呉においでになられてはいかがでしょう?
諸葛亮:そうですな。
我が君、事はすでに急を要しています。
速やかに長江を下って孫権殿に会い、こちらと同盟を結ぶよう
説得して参ります。
魯粛:【つぶやく】
…痩せても枯れても、劉備は一方の勢力には違いない。
その軍師であり、宰相でもある諸葛亮殿が単身呉へ乗り込むという
事は、死を覚悟の上のことと見える…。
劉備:むう…し、しかし、大丈夫であろうか…?
諸葛亮:ご安心ください、我が君。
信念を持って行って参ります。
我が君におかれては、いつでも軍を動かせるよう調練を重ねて
おいて下さい。
劉備:わかった。
…頼むぞ、軍師。
ナレ:数日後、諸葛亮は魯粛と共に呉の柴桑へ着くと、
すぐに城へ案内された。
だが、どういうわけか通された会議場に呉の君主・孫権の姿は見え
ず、代わりに出迎えたのは呉の国内の降伏派の筆頭、張昭をはじめ
とする文官達だった。
張昭:これはこれは臥龍先生。ようこそ呉の国へ参られました。
それがしは内政を任されております、
張昭、字を子布と申す者です。
諸葛亮:【つぶやく】
ほう…江東の二張の一人か。まずは小手調べといこう。
我が主・劉備の使いとして参りました、諸葛亮、字は孔明でござ
る。
張昭:【つぶやく】
こやつめ…弁舌をふるって我が君に戦いを決意させようとして
来たな…そうはいかぬぞ。
時に、劉備殿が先生を得られた事は、魚が水を得たようだと喜ばれ
たそうですが、実際はどうですかな?
曹操軍の前では荊州も手に入れられず、逃げ回って江夏に身をひそ
める有様。どう贔屓目に見ても噂ほどではないと言わざるを得ない
のではありませぬかな?
魯粛:【つぶやく】
これはいかん…降伏派の重臣達がこぞって諸葛亮殿をやりこめよ
うとしておる…!急ぎ我が君に…!
諸葛亮:我が君が荊州を奪おうとなされば、それは手のひらを返すよりも
易しい事でした。しかし、亡き劉表殿と我が君は同族です。
その死を待っていたかのように故人の国を奪う事は致しませぬ。
張昭:ほう、これはおかしなことをおっしゃられるものじゃ。
天下万民の害を除く為には私情は捨てて大義に生きねばならぬ、
と先生は常におっしゃっていたと聞き及びます。
それが同族だからと小さな情にこだわり、何もせずに曹操から
逃げ回っていては、先生の唱える大義とやらは成し遂げられるので
しょうかな?
諸葛亮:ははは、張昭殿の眼にはそう映りますかな。
だが鳳凰の気持ちは、燕や雀のような小鳥には分らぬものです。
張昭:な、な、何と言われる!? 我らを小鳥だと申されるのか!
諸葛亮:例えば、病人を治すにはまず粥と弱き薬から始め、
回復を待って肉などで元気をつけ、強き薬を用いて病の根を
絶ちます。
国もまた同じ事。我が君が亡き劉表殿の元へ身を寄せた時、
兵力は千人程度で将の数も少なく、物資も不足し新野城は守るに
は不向きという有様。
これは重病人に等しい。そのような状態で曹操と争う事は死を
意味します。
一時退いて身を隠すは兵法の基本ですが…ご存じありませぬかな
?
張昭:う、うぐぬぬ…。
【つぶやく】
こ、こやつめ、わしを煽っておる…!
諸葛亮:それでも博望坡、白河、新野で合わせて二十万の曹操軍を
水と火で壊滅に追い込み、堂々と撤退しています。
長坂では敗退しましたが、これも我が君を慕って数万の民達が
付いて来た為、一日わずか十里しか進めなかった結果です。
それゆえ、恥無き敗戦とはわけが違います。
張昭:【つぶやく】
お、おのれ…なんという口巧者なッ…!
諸葛亮:かつて楚の項羽は、戦えば必ず勝ちました。
しかしただ一度の敗北で高祖・劉邦に滅ぼされているでしょう。
対して高祖は戦ってほとんど勝ったためしはありませんでしたが
、よく人の意見を用いてついに最後の勝利を掴み取り、
漢帝国を建国したのです。
局地的な勝敗で全てを論じるのは、軽率にもほどがありませぬか
な?
張昭:ぬぐぐ…。
【つぶやく】
だ、だが筋は通っている…反論できぬ…!
諸葛亮:他には何かございますかな?
虞翻:率直にお訊ねするのをお許しあれ。
それがしは虞翻、字を仲翔と申す。
曹操軍は百万と称しているが、先生はこれをどのようにお考えで
ござるか?
諸葛亮:実質は八十万程度でしょう。
それもかつての袁紹、劉表の兵を合わせただけの烏合の衆、
恐るるには足りませぬ。
虞翻:あはははは!
曹操に散々な目にあい、我ら呉に助けを求めて来ておきながら
、恐るるに足らぬとは言葉が過ぎますな!
諸葛亮:いえ、我が君に従う者はわずか数千。
それでは曹操軍にはかなわぬゆえ、時を待っているのです。
それにひきかえ、貴国は豊かにして兵は精鋭、長江の険しい守り
もある。
でありながら、主君に降伏を勧めるなど卑怯千万ではありませぬ
か。
虞翻:ぬっ、ぬうう…それは…。
諸葛亮:我が身の安泰を考えて国の恥を思わず…
その惰弱、卑劣さ、
我が君のわずかな兵でも曹操に対抗しようとする意気とは、
とても同列に論じられませぬな!
虞翻:ッッ……!
【つぶやく】
ぐぐぐ、返す言葉もない…!
諸葛亮:…他には…!?
歩隲:孔明!
あえて聞くが、汝はいにしえの蘇秦、張儀のようにこの国へ遊説を
しに来たのか!?
諸葛亮:貴公は歩隲殿か。
ではお答え致すが、蘇秦も張儀もただ弁舌のみの人物ではない。
蘇秦は六ヶ国の宰相の印を持ち、張儀は二度もあの秦の国の宰相
となった、いずれも国家を支えた大賢者ですぞ。
歩隲:ッた、確かにそうだが…!
諸葛亮:しかし貴公らは、曹操の誇大な宣伝を交えた威嚇に惑わされ、
意気地なく降伏を己が主君に勧める身。
蘇秦、張儀の類などと軽々しく口にするべきでなく、
また語る資格もないゆえ、まじめにお答えする価値もない!
歩隲:うう…ぐぐ…。
【つぶやく】
なんという弁舌だ。ことごとく論破していく…!
諸葛亮:もう少し真実を書物に探り、
学問を身につけられてはいかがですかな、歩隲殿?
薛綜:では曹操とは何者か!?
諸葛亮:漢の賊臣です、薛綜殿。
薛綜:それは誤りでござろう。
先人も言っている。
「天下は一人の天下にあらず、天下の人の天下なり」と。
いにしえから新たな王朝が古い王朝を打ち倒し、あるいは退け、
受け継いでこんにちに至っておる。
今や曹操は天下の大半を抑えている。
天下を取る者を賊と言うなら、先に述べた王朝の王達も全て賊では
ないか!
諸葛亮:【間髪入れずに】
だまらっしゃい!!!!!
貴公の言葉は、両親や君主のない人間の言う言葉だ!
人として生まれていながら、忠孝の道をわきまえぬのか!!
薛綜:な、なんだと!?
諸葛亮:曹操は漢に仕えてその恩を受けながら、
衰えるのを見計らってたちまち乱世の姦雄たる本性を現し、
漢を滅ぼして天下を握ろうとしている。
これが人として歩む道か!?
薛綜:いッいや…しかし…その…。
諸葛亮:質問をお返ししよう。
貴公は主君の孫権殿の力が衰えた時、
曹操と同じく主君をないがしろになさるおつもりか!?
薛綜:そ、そんなことは、ない…!
諸葛亮:…他には!?
陸績:いかにも先生の言われるとおり、
曹操は漢の相国曹参以来、累々と仕えているに違いない。
しかし、劉備殿は中山靖王の末裔と自称しているが、
その生い立ちは蓆を織り、靴を売っていたと聞く。
これを比べていずれが玉と瓦かは明白ではないか?
諸葛亮:おぉ貴公は陸績殿か。
まず座りなおして我が言葉を聞かれよ。
かつて周の文王は天下の大部分を治めながらなお、
殷に対して臣下の礼をとった。
それゆえ孔子もその徳を称えられたのだ。
しかし見よ、曹操を。
漢に歴代仕えていながら何の功績もなく、
常に帝をおびやかしている有様を!
陸績:だ、だが…!
諸葛亮:そしてさらに見よ、我が主・劉備玄徳を!
漢が建国されて四百年、
その間に多くのご一族が辺境にその血脈を隠されること、
何の恥であろうか。
時至って農村より立ち上がり、
乱世を鎮めんと日々戦い続けておられる。
それを過去に靴を売り、蓆を織っていたからと蔑むのか。
そんな眼で世間を見、人生を見、
よくも一国の政治に関われたものだ!
民達にとって天変地異よりも恐ろしいのは、
盲目な政治家だという。
貴公などもその類ではないのか!?
陸績:ぐ……っ。
【つぶやく】
な、何も言い返せぬ…!
諸葛亮:【溜息】
先ほどから皆様方の口を通してこの国の学問の程度を察するに、
そのあまりの低さに驚かざるを得ませんな…。
この観察はご不満ですか?
張昭:う、うぬぬぅ…。
【つぶやく】
何と言う事じゃ…我が呉の俊英達が、形なしではないか…!
ナレ:新たに立って論戦を仕掛ける者もなく、
会議場は鳴りをひそめてしまった。
その静寂を破るように高い靴音を立てて入ってきた重臣、
黄蓋が降伏派の諸将を一喝、
諸葛亮に非礼を詫びて、魯粛と共に孫権の部屋へ案内した。
諸葛亮:【つぶやく】
剣や槍だけが武器ではない…この舌も武器になるのだ…。
呉の君臣すべてを説得できなければ、
曹操との開戦を決意させることは叶わぬ…。
さて、孫権とはどんな人物か…。
魯粛:さ、諸葛亮殿、こちらです。
ナレ:やがて孫権の待つ部屋が見えてくる。
その入り口近くに、諸葛亮のよく知る人物が控えていた。
彼の実の兄である諸葛謹、字は子瑜。
諸葛謹は弟の姿を見ると、懐かしさの余り思わず声を上げていた。
諸葛謹:おお…亮、亮ではないか!
諸葛亮:!兄上…ご無沙汰しております…!
諸葛謹:見違えるほど立派になった…この国へ来ていたのだな。
諸葛亮:はい。
我が主、劉皇叔の使いとして参りました。
諸葛謹:呉に来ていたのなら、わしの屋敷を訪ねてくれれば
よかったものを。
諸葛亮:この度は一国の使者としてまかり越しましたゆえ、
わたくし事は全て後にと控えておりました。
諸葛謹:うむ、確かに道理だ。
では後でゆるりと会おう。
我が君にもお待ちかねであらせられる。
魯粛:我が君、諸葛亮殿をお連れしました。
孫権:うむ。
そちが臥龍先生か、遠路ご苦労であった。
まず、こちらへ掛けられよ。
諸葛亮:【つぶやく】
なるほど…確かに時代を代表する英傑の一人と言える。
だが、感情の起伏は激しく、強情な性質のようだ。
この手の人間を説得する時は、わざと怒らせるくらいが
ちょうど良い…。
孫権:茶でも喫しながら、気楽に語ろうではないか。
諸葛亮:では…いただきます。
【二拍】
孫権:新野での戦いは先生にとって初陣であったそうだな。
曹操は自軍を百万と唱えているが、これは本当であろうか。
諸葛亮:あの戦いは撃退こそしましたが、敗れたと言っていいでしょう。
将の数は五指に足りず、兵も数千ほど。
しかも新野の地は守るに適さない土地でしたゆえ。
また、百万の兵数も言い過ぎではないでしょう。
孫権:さすがに数は誇張していると思っていたが…。
諸葛亮:袁紹を滅ぼした時すでに四、五十万、
それに荊州を降伏させた時に二、三十万…
これに直属の兵が二十万。
そう考えればこれは、実数と言って良いでしょう。
【つぶやく】
やはりどうすれば曹操に勝つ、とは聞かぬな…
ならばもう少し手荒くいかせてもらおう…。
孫権:では有能な将や先生のような人物は、
曹操軍にはどれほどいますか?
諸葛亮:武勇に優れた将、知略に秀でたる臣…
私などのような者は桝で量って、車に乗せるほどおりますな。
孫権:…では、呉は戦った方が良いか、
それとも戦わぬ方が良いだろうか?
諸葛亮:はっはははは…。
孫権:!…実は魯粛が先生の才を高く買っている。
できることなら我が呉の進むべき道をお教え願いたい。
諸葛亮:申し上げたき事はございますが、
しかし、御心にかなうかどうか…。
かえって迷いの元になるかもしれませぬな。
孫権:構わぬ、申されよ。
諸葛亮:では…。
偉大なる父兄の志を継ぐのであれば、
我が君と共に曹操を倒すべく立ち上がるべきです。
しかし、勝ち目がないと思われるなら、ただちに降伏すべきでし
ょう。
孫権:ッ、降伏…!
諸葛亮:配下の諸大将の勧めに従い、
曹操の軍門に膝を折って憐れみを乞うのであれば、
いかに彼と言えども無慈悲な事は致しますまい。
孫権:!では……なぜ、劉備殿は曹操に降伏しないのか?
諸葛亮:我が君劉皇叔は漢王朝の一族、
その徳は世を覆い、民達も慕っております。
事がならぬ時は天命であるが、曹操ごとき逆臣に降伏するもので
はありませぬ。
そのような進言をしたらたちどころに首をはねられます。
孫権:ッ孔明ッッ!!
今までの言葉を聞いておれば、
人の立場などどうでもよいと言っているのと同じではないか!
稀代の賢人と言うから意見を求めたというのに、
その程度の事なら誰でも言えるわ!
ッ!!!
諸葛亮:【つぶやく】
これでよい。必ず魯粛が止めに入るだろう…。
ふふふふふ……ははははは……。
ナレ:孫権は怒りをあらわにすると、
荒々しく席を立って奥へ隠れてしまった。
諸葛亮はそれを見送ると含み笑いを漏らし、
魯粛はうろたえて諸葛亮のそばへ駆け寄ると、
非難の色を見せて詰った。
魯粛:先生、今の申されることは、
あまりにも人を蔑んだものではありませぬか…!?
諸葛亮:いやはや、孫権殿も度量が狭いですな。
先ほどの質問は、曹操の兵力や呉はどうすればよいかというもの
だけで、戦えば勝てるかというものではありませんでした。
もし、曹操に勝てる方法を教えよと問われたら、
それにお答えしたでしょうな。
魯粛:な…曹操軍に勝てる方法があるのですか?
諸葛亮:ええ、私から見れば曹操軍百万など、烏合の衆も同然。
ですが、問われもせぬ事を喋る気はありません。
魯粛:お、お待ちあれ!
いま一度我が君に申し上げてみるゆえ、これにてお待ちを!
ナレ:魯粛は慌てて孫権の後を追いすがり、必死に説得した。
孫権も己の度量の小ささを顧みたのか、
やがて魯粛のみを従えて戻ってきた。
孫権:先生、先ほどは失礼いたした。
どうか、曹操を討つ計略をお聞きしたい。
諸葛亮:いえ、私こそ一国の主の威厳をおかす無礼は罪、死に値します。
孫権:よく考えてみれば、
曹操が積年の敵として見ているのは予と劉備殿であった。
諸葛亮:お気づきになられましたか。
【つぶやく】
ふふふ、ここまでくれば手のひらの上に乗ったも同然…。
孫権:しかし、我が呉は久しく実戦の体験がない。
曹操軍の精鋭と互角に戦えるであろうか?
諸葛亮:兵の数は問題でありません。
ようは国の主である、貴方様に戦う気があるかどうかにかかって
おります。
孫権:我が心は決まった!
予も呉の孫権だ、
なんで曹操の下風に立つものか!
諸葛亮:ならば勝利をつかむ機会を逃してはなりませぬ。
曹操軍は百万といえど、遠征に次ぐ遠征で兵は疲れております。
さらに荊州の水軍を得たとはいえ、それを主に操るのは北国の兵
、水に慣れぬ者がほとんどです。
孫権:確かにそうだ!
我が呉には他国にない、無敵の水軍がある!
諸葛亮:いま曹操軍の出鼻を挫けば、彼にしぶしぶ従っている荊州の軍が
必ず内紛を起こすでしょう。
これによって曹操が北へ敗走する事、目に見えるようでございま
す。我が主、劉備と力を合わせてその背後を追撃し、
呉の国の周囲を固めるのです。
孫権:うむ!
予はもう迷わん!
先生はひとまず客舎へ戻って休みたまえ。
諸葛亮:ははっ、ではこれにて…。
【つぶやく】
さて、降伏派の重臣達がどう出るか…。
孫権:魯粛、即刻諸将に開戦を伝えよ!
兵馬を整え、曹操軍を粉砕するのだ!!
魯粛:ははっ!
【二拍】
諸公、我が君は開戦を決断された!
すぐに出陣の準備を整えられよ!
張昭:な、なんじゃと!?
馬鹿な…何かの間違いではないのか?
いかん、あの諸葛亮めにそそのかされたに違いない!
すぐに我が君をお諫めせねば…!
諸葛亮:【つぶやく】
…おそらく孫権はまだ迷うだろう。
一時の感情の決意は多数の説得に揺らぎやすい。
やはりこの国の柱を、あの男を動かさねば…。
ナレ:一時は開戦を決断した孫権だったが、
諸葛亮の予見通り、張昭ら降伏派の必死の諫言にあって
再び迷いの淵に沈む。
諸葛亮は客舎へ戻ると、ひたすら待っていた。
周瑜、字は公謹。
呉の大黒柱とも言うべき人物、水軍を一手に担う存在、
彼との接触を。
明くる日、魯粛が息せき切ってやって来た。
魯粛:諸葛亮殿、それがしと共に来ていただけませぬか?
諸葛亮:慌てていかがなされたのです、魯粛殿?
魯粛:詳しくはこれから向かう、ハ陽湖への道中説明します。
諸葛亮:! わかりました。では参りましょう。
【つぶやく】
いよいよ直接対面か…ここが初めの正念場になろう…。
【二拍】
魯粛:着きました。こちらでお待ち下され。
周瑜殿にお引き合わせします。
諸葛亮:【つぶやく】
さて、実際に見る周瑜とはどのような人物か…。
噂が真実ならば…。
【三泊】
周瑜:お待たせした。
貴公が諸葛亮殿か。
私が呉の水軍都督を務めている周瑜、字を公謹と申す。
以後、お見知り置き願いたい。
諸葛亮:劉備玄徳の軍師を務めております、
諸葛亮、字を孔明にございます。
天下に鳴り響く周都督の名は、かねてからうかがっておりました
。
周瑜:さあさあ、まずはくつろいでいただいた上で、語り合うと致そう。
ナレ:周瑜と諸葛亮、
二人は互いをどう見たのか。
互いの腹をどう察したのか。
傍らにいる魯粛を含めて余人には知る限りではなく、
まるで十年の知己のようなやり取りが交わされた。
酒宴となり、酒がほど良く回った頃。
魯粛:それで…、都督のお考えは決まりましたか?
周瑜:うむ。
…国を安全に保つためには、ここはやはり降伏しかあるまい。
魯粛:えッ!?
これは思いがけぬお言葉。
孫堅様、孫策様が命を懸けて築いたこの呉の国を
、むざむざ曹操の手に献じるというのですか!?
周瑜:しかし、民を戦火から守り、呉の国を滅亡から救うには仕方ないの
ではないか?
諸葛亮:【つぶやく】
こちらを試しているのか、あるいは本心か…。ならば…。
魯粛:それは臆病風に吹かれた者の言い分です。
呉の精鋭が長江を要害として守れば、
たとえ曹操と言えどたやすく踏み込めますまい!
諸葛亮:…ふふふ……はっははははは…!
周瑜:諸葛亮殿、何がそれほどおかしいのですか。
諸葛亮:いや、失礼。
魯粛殿があまりに時勢に疎いので、
ついおかしくなりまして…。
魯粛:なッ、それがしが時勢に疎いと申されるのですか!?
それは聞き捨てなりませぬ。
さ、わけをお聞かせ願いたい!
諸葛亮:周瑜殿が降伏しようと言われたのは時勢にかなった道理です。
まあ、よく考えてごらんなさい。
曹操の戦上手はいにしえの孫子にも勝ります。
むかし彼に対抗できた、あるいは彼よりも力を持っていた袁紹、
呂布なども滅ぼされ、我が主君・劉玄徳も今や江夏に落ちのびて
、明日をも知れませぬ。
魯粛:そんな事は分かっています!
諸葛亮殿、あなたは呉に降伏を勧めに来たとでもいうのですか!?
我が君はどうなるというのですか!?
諸葛亮:まぁまぁ、話は最後までお聞きあれ。
ここで戦わず、かといって降伏もせず、
曹操軍を引きあげさせる方法がございます。
周瑜:何!?
どういうことか、諸葛亮殿!
魯粛:そ、そんな策があるというのですか!?
お聞かせ願いたい!
諸葛亮:簡単なことです。
一艘の小船と二人の美女を贈り物とすれば、
曹操は喜んで北へ引きあげて行くでしょう。
周瑜:それは一体、誰と誰のことか?
諸葛亮:これは、隆中にいたころに聞いた話です。
曹操は河北を平定した後、銅雀台と言う楼台を築きました。
その豪華さ、華麗さは目を見張るばかりとか。
周瑜:銅雀台の事は存じておるゆえいい、
誰を差し出せば良いのかと聞いているのだ!
諸葛亮:この国に住まう、喬国老の二人の娘です。
姉を大喬、妹を小喬といい、絶世の美女姉妹とか。
曹操はどうしてもこの姉妹を手に入れたいとのことです。
周瑜:な、なに!!?
江東の二喬だと!?
そんなのは巷の噂にすぎないのではないのか!?
なにか、確証でもあると言われるか。
諸葛亮:はい。
曹操の子に曹植という人物がおります。
父親に似て詩をよく作る為、文学人の間で知られています。
この曹植に作らせた銅雀台の詩に、
我、帝王とならば必ずや江東の二喬を迎え、銅雀台の華とせん、
と暗に歌っています。
周瑜:その詩は覚えているのか。
よければお聞かせ願いたい。
諸葛亮:文章の流麗なるを愛し、いつとなくそらんじております。
では…。
ナレ:諸葛亮は瞳を軽く閉じ、
呼吸を整えると静かに見開き、澄んだ声で吟じだした。
詩が江東の二喬のくだりまで差し掛かった直後、
周瑜は盃を取り落とす。
その表情は憤怒に燃えていた。
周瑜:!!ぬ、ぬうううぅぅぅ…!!
諸葛亮:周瑜殿、いかがなされました?
【つぶやく】
手ごたえあり…か。
周瑜:…許せぬ。
諸葛亮:は…今、なんと?
周瑜:許せぬと申したのだ!
曹操め、彼奴の野望を必ずや叩き潰してくれる!!
諸葛亮:急にどうされたというのですか。
むかし、漢王朝の皇帝が愛娘を匈奴の異民族へ贈り、
和平を保っている間に軍を鍛えたという例もございます。
民間の女性二人を差し出すだけで戦火を免れるというのなら、
こんな良い方法もございますまい。
魯粛:諸葛亮殿は、まだご存じないのですか…?
諸葛亮:ご存じない…とは?
周瑜:姉の大喬は今は亡き孫策様の、
妹の小喬は…かくいうこの周瑜の妻なのだ!!
諸葛亮:!なんと…すでに喬家から嫁いでいたとは…!
これは大変なご無礼をしました。
どうか、お許し願いたい。
周瑜:いや、諸葛亮殿の罪ではない。
銅雀台の詩にまで歌っているという事は、公然とその野望を人にも
語っているということだ!
彼奴如きに我が妻や孫策様の後家を、どうして生贄に捧げられよう
か!
諸葛亮:しかし、それでは曹操軍は引き上げませぬぞ。
周瑜:ならば戦うまでだ!
断固、決戦あるのみだ!!
諸葛亮:【つぶやく】
…どちらにせよ、これで周瑜は引くに引けない。
亡き孫策への義理、妻を守る為…、
しかし、彼らにとっても悪い選択ではない。
魯粛:し、しかし先ほどは降伏とおっしゃっておられましたが…。
周瑜:あれほど二派に分かれて争い迷っているのだ。
軽々しく本心を打ち明けてはならぬと、皆を試していたのだ!
いやしくも亡き孫策様からの呉の未来を託され、
水軍都督として今日までの修錬研鑽も何のためか!
すべてはこう言う時の為ではないか!
断じて曹操などに降伏はせぬ!!
魯粛:おお、さすがは都督…!
諸葛亮:では、戦うおつもりで…?
周瑜:うむ、すでに決心はついていた。
諸葛亮殿もどうか、力を貸していただきたい。
共に曹操を討ち、その野望を挫こうではないか!
諸葛亮:もちろん協力は惜しみませぬ。
しかし、孫権殿をはじめ、他の重臣達がどう言うでしょうか?
周瑜:いいや、あす柴桑へ参ったら自分から我が君を説得する。
重臣たちなど問題にならん。
開戦の号令あるのみだ!!
魯粛:では都督、先に柴桑にてお待ちしておりますぞ。
諸葛亮殿、参りましょう。
諸葛亮:ええ。
では周都督、これにて…。
ナレ:次の日、周瑜は早朝に柴桑城へ登城。
張昭ら降伏派の重臣達を散々に論破し、
主君・孫権に開戦の大号令を発動させるに至る。
呉の諸将が出陣準備に追われている中、
諸葛亮は魯粛と共に周瑜と会っていた。
周瑜:さて、すでにご存じのとおり、
我が君は貴公の主君・劉備殿と軍事同盟を結び、
共に曹操を討つこととなった。
諸葛亮殿の対曹操の策をうかがいたい。
諸葛亮:【つぶやく】
我が事成れり…だが、念は入れておかねばならぬ…。
その前に、まずは孫権殿のご決心が鈍らぬよう、
明日の出陣までにもう一度お会いになって、
一抹の不安を打ち消しておくべきと存じます。
周瑜:なに、我が君に…?
諸葛亮:はい。
衆寡敵せずという言葉もありますゆえ、
曹操軍の兵数の多さを気に掛けておられるやもしれませぬ。
ここは周都督からあらためて、
曹操軍の内部構成を詳しく説明しておくべきかと。
周瑜:ふむ…確かに。
ではさっそく登城し、申しあげておこう。
ナレ:果たして諸葛亮の言葉通り、
孫権は曹操との兵力差に不安を抱いていた。
これを説得し、励まして帰る途中、
そのあまりの観察眼の鋭さを恐れた周瑜は、
密かに諸葛亮の暗殺を決意するのであった。
一方、客舎に戻った諸葛亮は空を仰ぐと、
白羽扇で静かに北を指した。
諸葛亮:これで呉を決戦の舞台に引きずり出すことができた。
赤壁の地で曹操の勢いを挫かねば、我が君に未来は無い…。
曹操よ。
その快進撃、ここで止めさせてもらおう。
END【中編に続く】