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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第2章 Bemerkt─希望と、選ぶもの─

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36話 信じるという希望



「ヤコブくん、無茶は危険だ!」

「けど! 名前が薄くなってんだよ!」


 その言葉だけで、ユダたちはヤコブとシモンのあいだに何が起きているのかを理解し、僅かに動揺した。


「きみの焦りやもどかしさはわかる。だけど、信じるしかないんだ!」


 ペトロの時に同じ感情を味わったユダは、ヤコブの気持ちが痛いほどわかる。出会って間もなく名前が薄かったせいもあり、名前が消えることを恐れた。

 名前が消えるということは、バンデでなくなるだけではない。堕ちて戦う気力を失ってしまうので、使徒でもいられなくなる。それは別れと同等の意味であるために、何がなんでも阻止したいことなのだ。


「けどよ!」


 しかし、どんなに繋ぎ止めたくても、今はシモンにその選択を託すしかできない。使徒でい続けたいと心の底から強く願っていることを、信じるしかない。


「私たちはガープを倒そう。できることは、それしかない」


 ユダは、今は堪える時だと教えた。信じて待つのが、自分たちの役目だと。

 苛立ち始めていたヤコブも無理やりそれを理解し、気持ちを少し落ち着けた。


「……わかった。こいつを倒してタデウスを焦らせて、シモンを解放させる!」


 ユダたちの援護で、ヤコブはガープ攻略を試み始めた。


晦冥たる白兎赤烏(ムーティヒ・)照らす剛勇(ブリヒトニヒト)!」


 斬撃は大剣で弾き飛ばされるが、放つと同時にガープに突っ込んで行ったヤコブの〈悔謝(ラウエ)〉と大剣が再度交える。


「気概はまだ有るようだな」

「相棒が頑張ってんのに、寝てられっかよ!」

「食らえっ!」

「はあっ!」


 ヤコブとガープが交えるその両サイドから、ヨハネとユダとペトロが攻撃を仕掛ける。

 ガープは片手でヤコブを相手しながら、稲光の一閃を放ったヨハネには魔術で、ユダとペトロには武器を喚び出して応戦する。ヨハネは行く手を阻まれ、ユダとペトロは足止めを食らう。


「囚われた仲間は、もうそろそろ堕ちる頃ではないかのう」

「そんな訳ないだろ。俺の相棒をナメんなよ!」

「だが。お主から、焦りと不安を感じ取れるぞ」


 言われたヤコブは、眉間に皺を寄せる。


「図星か。お主も、仲間の危機を感じ取っているようだな。ならば、諦め時ではないのか!?」

「くっ!」


悔謝(ラウエ)〉を弾かれ体勢を崩すが、ヤコブは一歩も引かない。


「他人が勝手に決めんじゃねぇよ!」


 三度大剣と斧が交わり、鉄同士の重厚な音が響く。


「俺は諦めねぇ。諦められねぇ。俺が諦めるってことは、シモンを見放すってことになる。それだけはぜってーしねぇ!」

「あの中は残酷な空間だと聞いているが、使徒とは言え、堪え得る物では無いと思うが?」

「そうだな。使徒の俺たちだって人間だし、身体も心も脆い。でも、ちゃんと帰って来たやつがいるってことは、一つも希望がない訳じゃないってことだ!」

「死徒は希望を抱かぬ。故に、あの中に希望は無い。抱くだけ絶望感を味わうだけだ!」

「ぐ……っ!」


 ヤコブは土槍(シュペーア)を食らった上に、また弾き飛ばされる。

 ガープのパワーは伊達ではない。あの身体付きに加え、複数の能力を保有する相手に、しがみ付くくらいしかできないことは十分理解している。

 しかしヤコブは、膝を突きそうになるところを歯を食いしばって踏ん張り、気合いを〈悔謝(ラウエ)〉に込め勇猛果敢に立ち向かう。


「はああっ!」


 また重厚な音が響いた。気合いが注入されたぶん、音は重みが増す。


「希望はある!」

「有る筈が無い」

「希望は、シモンの中にある!」

「はっはっは! 正に人間らしい事を言う!」

「あいつのこと全然知らないくせに、馬鹿にするんじゃねぇよ!」

「馬鹿にはしておらん。希望など人間が抱く夢想だと、事実を言っている」


 ユダたち三人はヤコブの援護を続けるが、武の王と魔術の王の能力に阻まれ、ガープの隙きを作ることができない。


「じゃあ、一つ教えといてやるよ。人間は、この世にないものを何でも作っちまうんだ。だから、お前が否定する希望だって自分で作り出すんだよ!」

「成る程。面白い事を言うではないか。仲間を信じておるのだな」

「信じてるに決まってんだろ!」

「其の仲間は、そんなに大事なのだな」

「そうだ。シモンは俺の大事なやつだ!」


 ヤコブは、棺の中で戦うシモンに思いが届くように言った。


「お主の言う通り、神のように創造する人間ならば、希望も作り出す事も出来そうだ。しかし残念だが、仲間が出て来る時は、もう仲間では無くなっているのは確実だろう」

「そんなはずがない! シモンは強いやつだ。トラウマと向き合うって覚悟を決めたあいつを、俺は信じる。あいつは、過去の自分に負けるような弱いやつじゃない!」


 ヤコブは、今出せる最大限の力を……困難を打ち砕く剛毅たる気持ちを〈悔謝(ラウエ)〉に込める。

 すると、注がれる力で斧が光を帯びた。


晦冥たる白兎赤烏(ムーティヒ・)照らす剛勇(ブリヒトニヒト)!」


 そして、ガープの大剣と交えたまま力を放出した。


「其の程度の攻撃を繰り返すだけでは……」


 余裕のガープだったが、ヤコブの攻撃は大剣に亀裂を走らせた。「!?」ガープは大剣が折れる前に後退し、破損した大剣を手放した。その時。


冀う縁の残心(エントゥウィクレン)皓々拓く(ゼルプスト)!」

朽ちぬ一念(シュナイデン・)玉屑の闇(エントシュルス)!」

来たれ黎明(アウスシュテアブン・)祝禱の截断(ゲベート)!」


 ヨハネとペトロとユダが同時に攻撃を放った。




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