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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第2章 Bemerkt─希望と、選ぶもの─

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24話 vsガープ



『使徒の力の使い方』の知識を奪われた四人は、腰を下ろしたまま悠々閑々と待つガープに見守られているという異常な状況の中で、戦う方法を模索する。


「使徒の力が使えなかったら、僕たちはどうしたらいいんだ……」

「頼んだら返してくれないかな」

「ちょっと厳ついだけで、一緒に飲んだら意気投合して最終的に肩組んで歌ってそうなおじさん風だけど、返してくれねぇだろうな」

「これじゃあ、攻撃どころか防御もできない……。なぁ、ユダ。何かいい考えないかな」


 ペトロが問い掛けると、状況打開のために思案している様子のユダからあることが提案される。


「ハーツヴンデなら出せるかも」

「でも、あれも使徒の力なんじゃ……」

「いや。ハーツヴンデは、自身のトラウマを具現化したものだ。確かに使徒の力は使ってるけど、具現化の源はトラウマだから、もしかしたら」

「そうか。可能性はありますね」

「じゃあ、試してみるか」


 その他には、敗走という手段しかない。可能性を信じて、四人はハーツヴンデを呼び出す。


心具象出ヴァッフェ・ダーシュテーレン!」


 突き出した手に光の集合体が現れると、それぞれのハーツヴンデを具現化することに成功した。


「出せた!」

「よかったー。何もできないで終わりとか、洒落になんねぇもんな」


「ほぉ……」ガープは顎髭を撫で感心する。


「そんな芸も有ったのか。一方的に嬲り殺しにするのも、つまらんと思っていた所だ」

「誰だよ。一緒に飲んだら意気投合して、最終的に肩組んで歌ってそうなおじさんて言ったの。全然そんな感じじゃないぞ」

「ただのイメージだって」

「ならば儂も、相応な物を用意せねばならんな」


 そう言ったガープはおもむろに葉巻きを取り出し、吸い始めた。


「葉巻き吸った……」


 戦闘準備万端だというのに、その行動に四人は呆然とする。あの主にこの使役魔。フィリポの時とは振る舞い方が全く違う。

 ガープが葉巻を吸うと、口からではなく葉巻から煙がもくもくと出始めた。その量は、可燃物を大量に燃やしているくらいだ。そして発生する煙は空には昇らず、ガープの周囲に漂った。


「我が眷属らよ。出陣の時だ!」


 その煙の中から、装備した百以上の悪魔が湧いて出るように出現した。


「掛かれ! 我らを排除せんとする人間共を、駆逐せよ!」


 ガープの合図に、眷属の悪魔たちは歩兵と弓兵からなる部隊を組み、四人を個別に襲い始めた。


「またこのパターンかよ!」

「既視感あるなぁ……」

「これが、噂の悪魔部隊なんだな」

「というわけで、各個応戦!」


 四人は、襲い掛かって来る悪魔部隊を各個撃破していく。

 ユダとヨハネは大鎌〈悔責(バイヒテ)〉と長槍〈苛念(ゲクイエルト)〉で歩兵を一列ずつ薙ぎ払い、ペトロとヤコブは剣〈誓志(アイド)〉と斧〈悔謝(ラウエ)〉で一体ずつ倒していく。後方からアーチを描いて飛んで来る弓兵の矢もハーツヴンデで防ぎながら、一対数十体を強いられる四人。


「こいつら全滅させたら、クエストクリアってことでレベルアップしねぇかな」

「そんな楽しいやつだったらよかったんだけどね!」


 一人で攻撃と防御の二役をこなしながら蹴散らし続け、憚っていた悪魔の壁が次第に薄くなる。あと一息で一対大勢が終わるかと思ったが、その後ろに別の部隊が新たに現れ進軍して来た。


「まだいるのか!」

「そういえば。グラシャ=ラボラスの時も、エンドレス悪魔だったよね!」

「そうだったな!」

「オレが閉じ込められてるあいだ、みんなはこんな戦いをしてたんだな!」


 対ゴエティア初戦のペトロは、まさかハーツヴンデしか使えない状況で相見えるとは思っていなかったが、根性で襲い来る悪魔を祓っていく。

 軍勢のリーダーのガープは眷属たちを呼び出すだけで、相変わらず胡座をかき、葉巻きを吸いながら戦況を静観している。


「儂の軍勢は三十以上有るぞ。消耗戦となれば、不利はお主等だ」

「三十以上!?」

「オレは、何も聞かなかったことにする」

「空耳にしておいた方が幸せだね」

「そういうのを、現実逃避って言うんですよ」


 ペトロとユダの冗談を、ヨハネは片手間にあしらう。


「お主等の体力も、無限ではあるまい。さあ。何時まで持ち堪えられるかのぉ」




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