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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第2章 Bemerkt─希望と、選ぶもの─

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3話 第八回ヨハネ会議(略称)



 とある夜。ヤコブとシモンは、ヨハネの部屋に集まった。

 ヨハネの部屋は花や観葉植物が多い。事務所やリビング、各自の部屋にも植物はあるが、自他共に観葉植物係となっている彼の部屋には、他の部屋と比べて三倍の緑が置かれている。

 そんな癒しの部屋で、ヤコブが議長となってある会議が始められた。


「『第八回 ヨハネの片思いを早くどうにかしよう会議』を始める」

「そんな会議してたっけ?」

「やってただろ。前回は、情けないお前に気合を入れるために俺の愛ある拳を食らわせようとした時だ」

「車の運転中に、ガチの腹パンしようとしたアレか。会議だったとは思わなかったよ」


 会議と言っても堅苦しいものではないので、各自ビールとジュースをおともに置いてある。


「それでヨハネ。ユダに『今日もカッコイイですね』って、毎日一回言ってる?」

「シモン。まだ寝なくていいのか?」

「明日は学校休みだもん」

「話を逸らすな、ヨハネ。言ってるのか?」


「……」ヨハネは、無言で実行の有無を答えた。


「言ってないのかよ。まぁ、わかってたけど」


 不変の現状から一歩脱却するために、前回の会議でノルマを提案したが、ヤコブのその口振りは納得半分諦め半分だ。


「あんなセリフ、僕にはハードだ。わかってたんなら、そんなノルマ課すなよ」

「じゃあ。どんな好意を込めたセリフだったら、ユダに言えるの?」


 どうやらミッション内容の変更はないらしい。ヤコブに劣らず、シモンも結構スパルタ指導だ。

 尋ねられたヨハネは、自分に言えそうなそれっぽいセリフを考えた。


「……いつも優しいですね」

「それは日常会話だ」

「……そのネクタイ、とても似合ってます」

「ただの褒め言葉だ」

「……あなたは、とても頼りになる人です」

「それも褒め言葉だね」

「もっと情愛がこもったセリフが出てこないのかよ。ユダの顔を思い出しながら考えてみろ」

「情愛……」


 呆れ気味で溜め息混じりのヤコブにアドバイスされたヨハネは、ユダの顔を思い出しながら、頭を捻って捻って呻きながら台詞を考える。

 そして、出てきた台詞は。


「……いつも社長業務ご苦労さまです」


 なぜか、いち社員の台詞にレベルダウンした。


「それは、秘書とかが言いそうだね」

「お前、本当はユダのこと好きじゃないだろ」

「そんなことない。ちゃんと好きだ。だけど、顔を思い浮かべるだけで……」


 ヨハネは頬を赤く染め、両手で顔を覆った。

 一筋縄ではいかなそうだと思ってはいたが、ここまで手強いかと、思わずヤコブから溜め息が漏れる。


「初心な小学生かっ。本物の小学生はもっとませてるぞ。お前よりまともに恋愛してるぞ」


 耳が痛い話にヨハネは耳を塞ぎたくなるが、現状をどうにかしなければと一番感じているのは彼自身だ。

 それなのに、この数ヶ月なぜ一歩も進めないのだろう。そこまで恥ずかしがるのはなぜだろう。と、疑問を持つシモンは尋ねる。


「あのさ。ヨハネって、誰かに告白したり、付き合った経験ないの?」

「そんなことはない。告白も交際もしたことある」


 過去を脳裏に過ぎらせたヨハネの表情は、少し陰ったように見えた。その表情に、なぜ告白できないのかと訊いた際に「いざとなると言葉が堰き止められる」と言っていたのをヤコブは思い出した。

 ヨハネには、恥ずかしい以外に何か告白できない理由がある。そう察したヤコブは、これ以上は無理に過去に踏み入らないことにした。


「まぁ。二十年生きてきたんだから、一人くらい経験あるだろ。だけどもうそろそろ、マジのガチで考えないとだぞ」

「やっぱりそう思うか?」

「思う」


 ヤコブとシモンは同時に頷いた。


「最近のユダとペトロの距離感、前より縮まったよね。ペトロも雰囲気変わったし」

「第一印象はクール系かと思ったけど、結構かわいいところ出てきたよな、あいつ。あれは絶対ユダの影響だ」

「そうなんだよな。二人を見てると、僕が入る隙がない気がするんだよ」


 ヨハネは切なく悔しそうな視線を落とし、まっさらな自分の腕に触れた。


「あの二人には、お互いの名前が刻まれてるのかな……」

「だとしても、名前が現れるのは使徒としての絆を現すものだし。あの二人にお互いの名前が刻まれてたとしても、お前が恋人になれないわけじゃない」

「でも、ヤコブとシモンはバンデで恋人だろ。そういうことなんじゃないのか?」

「そうじゃないよ。結果的に付き合ってるだけだよ」

「偶然だよな」

「付き合ってる二人に言われても、全然説得力ないんだけど……。でも。ずっと応援してくれてるのに何も進まなくて、本当に申し訳ないと思ってる」

(こんな不甲斐ない自分に泣けてくる……)


 ヨハネはテーブルに顔を伏せて啜り泣く。

 ユダと最初に出会い、過ごした時間も一番多いヨハネは、自分にはユダの名前が刻まれるものだと思っていた。

 けれど、名前が浮き出る兆候は今も一切ない。つまり、バンデとなるのに過ごした時間の長さは関係ない。心まで深く繋がりたいと願っていても。




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