43話 奮う敵愾心
ヨハネたちはまず、グラシャ=ラボラスの集中攻撃の阻止に出る。
「赫灼の浄泉!」
直下から噴出した光の泉を回避したことで攻撃が止んだ。
「闇世への帰標!」
「御使いの抱擁!」
立て続けにヤコブとシモンが攻撃するが、これもひらりひらりと回避される。
グラシャ=ラボラスからの咆哮波や襲い掛かる傀儡の悪魔たちを排除しながら、三人は連続攻撃を続ける。
「連なる天の罰雷!」
タイミングを見計らって一斉に攻撃し、グラシャ=ラボラスの視界を遮った。
「無駄だ。何を考えているのかはお見通しだ」
グラシャ=ラボラスは別方向から攻撃しようとしていたユダに振り向き、咆哮波を放つ。
「グオゥッ!」
それをヨハネが遠距離から防御し、ユダは攻撃を仕掛ける。
「闇世への帰標!」
ユダはグラシャ=ラボラスの死角に移動して攻撃するが、悪魔の盾に防がれる。グラシャ=ラボラスは短剣に変えた悪魔を幾つも放ち、ユダは上着を裂かれながらギリギリ回避する。
「見通してるから何だってんだよっ! 赫灼の浄泉!」
「泡沫覆う惣闇、星芒射す!」
「冀う縁の残心、皓々拓く!」
ヤコブたちは三方向から攻撃したが、グラシャ=ラボラスは一瞬で姿を消した。
「みんな、気を付けて!」
「ぐう……っ!」
「あうっ!」
「ぐあっ!」
だが、ユダの注意喚起は間に合わず、次の瞬間には三人は大量の刃の羽根を食らわされた。
「無駄だと言った筈だ」
「はあっ!」
ユダは〈悔責〉を手に切り掛かる。しかし、グラシャ=ラボラスは消えては現れ消えては現れを繰り返し、ユダを翻弄する。
が、ユダも翻弄されてばかりではない。一秒ごとに変わる気配の位置を必死に追い、大鎌の柄を振るってグラシャの軍服を掠めた。
「貴様……!」
またも瞬間移動したグラシャ=ラボラスは、鎌を両手に構えユダに投げる。
「ぐぅっ……!」
二つの鎌は回転しながら足と腕を切り付けたが、ユダは踏ん張り、再び立ち向かって行く。
攻撃を食らったヨハネたちも、痛みを堪えてユダの援護を再開した。
「まだ諦めないのか」
「はあ? お前、知らなかったのか」
「ボクたちは諦めが悪いんだよ」
「だから強敵とか関係なく、身体が動くんだ!」
四人は攻防を繰り返すが、容易くかわされ続ける。それでも一矢報いる瞬間を狙って、怯むことなく立ち向かう。
「冀う縁の残心、皓々拓く!」
「ぅおらあっ!」
ヨハネの〈苛念〉の攻撃と同時に、ヤコブが〈悔謝〉で近距離攻撃を仕掛ける。が、ヨハネの攻撃は盾に防がれ、ヤコブは悪魔の黒い巨大な獣の手に払われる。
「ぐうっ!」
「ヤコブ!」
シモンは防御しようとしたが間に合わず、吹っ飛ばされたヤコブは駅出入口の柱に背中から衝突した。
「赫灼の浄泉!」
ヨハネとシモンは同時攻撃を放ち続け、グラシャ=ラボラスを防御に集中させようと試みる。
光の泉に囚われるグラシャ=ラボラスのその背後から、ユダが〈悔責〉を振り下ろす。
「はあっ!」
盾に邪魔されるが破壊した。しかし、防御に集中しているはずのグラシャ=ラボラスが、後ろを向かずに剣を向けてきた。
ユダは突き刺そうとしてきた剣の一本は防ぐが、もう一本は脇腹に食らった。
「ぐっ……!」
「晦冥たる白兎赤烏、照らす剛勇!」
「連なる天の罰雷!」
「大いなる祝福の光雨!」
「しつこい!」
敏捷な回避行動をするグラシャ=ラボラスを前に、やはり使徒の攻撃は通用しない。
「嫌いになってもらって構わないぜ!」
「絶対に仲良くなれそうにないしね」
「そうだな。我ももううんざりだ……。我が眷属達よ。奴等を黙らせろ」
グラシャ=ラボラスは、新たな悪魔を喚び出した。その数はこれまでの何十倍という個体数で、悪魔たちは黒い塊となってヨハネ、ヤコブ、シモンに襲い掛かる。
「みんな!」
ユダは助けに向かおうとしたが、ユダの前にも何十体という悪魔が現れ行く道を遮られた。
「特に貴様は気に食わん!」
ユダは襲って来る悪魔を〈悔責〉で薙ぎ払っていく。加えて、グラシャ=ラボラスから浴びせられる羽根の刃や咆哮波、さらには巨大な獣の手を全て一人で防御する。
手数の多い攻撃にユダは逼迫する……。かと思われた。
それどころか、ユダはまるでゾーンに入ったかのように冷静に攻撃を見切っていた。
(これは……一人じゃだいぶ面倒だ)
襲って来る悪魔を薙ぎ払いつつ、グラシャ=ラボラスの攻撃も防御しなければならないこの状況では、力を消耗させられるだけだ。戦況を打開するには、力尽くでも道を切り開くしかない。
ユダは〈悔責〉に力を込めた。すると、半三日月の刃が青い光を帯びる。
「来たれ黎明、祝禱の截断!」
そして思い切り振りかぶると、取り囲んでいた悪魔を一体も残らず一気に消滅させた。「何っ!?」予想外の出来事に、グラシャ=ラボラスも金色の目を剥く。
「はあっ!」
「グオオッ!」
ユダはグラシャ=ラボラスとの間合いを詰めるが、咆哮波に押される。「っ!」
ユダが怯んだ一瞬の隙きにグラシャ=ラボラスは瞬間移動し、立て続けの攻撃を仕掛けようと翼を広げるが。
「はあっ!」
瞬間移動に追い付いたユダは〈悔責〉を振るう。グラシャ=ラボラスは瞬時に飛んで回避した。そのつもりだったが、大鎌が脚を掠め浅い傷を負わされた。
「!? き……貴様ぁっ!」
苛立ったグラシャ=ラボラスは腕に多くの悪魔を纏わせ、人一人を握れるほどの大きさになった獣の手を払う。それをまともに食らったユダは吹っ飛ばされ、道路を挟んだビルに激突する。
「ぐは……っ!」
「何なんだ、貴様は!」
グラシャ=ラボラスが先読みを破られ動揺を見せたその瞬間、悪魔たちを相手しながらユダの戦況を窺っていたヨハネたちは足止めを試みる。
「御使いの抱擁!」
「赫灼の浄泉!」
「くっ!」
三人は光の爆発と噴泉を立て続けに放ち、グラシャ=ラボラスの位置をある程度固定する。反撃を食らおうとも手は抜かなかった。
「ユダ!」
ヨハネは叫んだ。ビルに激突したユダは意識が朦朧としかけるが、その声で意識を保つ。ぼんやりとする視界に、ペトロが囚われる棺が目に入った。
「……っ」
(きみが孤独な戦いを強いられているのに何もできないのは、本当はものすごくもどかしい。助けに入れるものなら、その棺を切り裂いてきみに光を届けたい。でも、決して離れ離れじゃない。気持ちは届いていると信じてる。きみなら大丈夫だと、私は信じてる。その強い意志で乗り越えられると!)
決して闘志を失わせないユダは瞳に強い光を宿らせ、〈悔責〉を手にグラシャ=ラボラスに突っ込んで行く。
「はあーーーっ!」
(だから私は、諦めない!)




