38話 タイマン
ペトロたちは、戦力を分断したことで苦戦を強いられていた。
怪鳥を倒そうとしているペトロとシモンは、普通の攻撃では再生してしまうので、ハーツヴンデでの攻撃に切り替えた。
「朽ちぬ一念、玉屑の闇!」
「泡沫覆う惣闇、星芒射す!」
「‡ェ∈ッ!」怪鳥の胴体を抉ると、普通の攻撃の時とは違い再生はしない。
「効いた!」
「これならいけそうだね!」
(でも。なんだか胸騒ぎがする……)
目の前の敵に集中したいが、ペトロは胸騒ぎを感じていた。棺の中のユダに何か起きている。信じて待つと誓ったが、意識が逸れて気持ちが途切れそうになる。
「なあ! この状況、いつまで続きそうだ? 誰かがシャックスを倒さねぇと、どうにもならないやつじゃないのかよ!」
(ヤコブの言う通りだ。状況打破のために、誰かがやらないと……)
ヨハネとヤコブは、見えないながらも襲って来る悪魔の気配を察知して、懸命に広域攻撃を続けてくれているが、運動能力を奪われてるアンデレの状況を考えると、怪鳥を倒してもそのうち防壁が崩壊する恐れもある。
その場合は自分たちで防御すればいいのだが、視覚と聴覚を補い合う戦法を取っている現状では、窮地に立たされる。
打破する作戦を取らなければ、今度こそ使徒は負ける。
ペトロとシモンは、怪鳥へのハーツヴンデでの攻撃を繰り返し、最後の一撃を食らわせる。
「泡沫覆う惣闇、星芒射す!」
「朽ちぬ一念、玉屑の闇!」
「‡∈εェ@ッ!」二羽の怪鳥はどうにか消滅し、防壁はひとまず守られた。
すると、ペトロが次の手に出る。
「アンデレ! まだ大丈夫か?」
「生きてるから大丈夫!」
「いけそうみたいだな。お前はそのまま防御をしながら、ヨハネのフォローに回ってくれ!」
「どうする気だ、ペトロ?」
再びアプリを介して、ペトロは作戦を伝える。
「オレがシャックスを倒すから、みんなはここを頼む」
「一人で!?」
「無茶だよペトロ!」
「多少は無茶になるかも。でも。現状を考えると、オレが動いた方がいい。ヤコブはバンデのシモンがいれば連携もできるし、ヨハネとはアンデレが組んだ方が安定して攻撃できる」
「お前の言ってることはわかるけど……」
「オレがシャックスを引き付けられれば、喚び出される悪魔も少なくなる。そうすれば戦況も変わる。とにかく、現状打破が最優先だ!」
仲間たちの制止を無視して、ペトロはアンデレの防壁を飛び出した。
「ペトロ!」
ペトロは〈誓志〉を手に、襲い掛かって来る悪魔を蹴散らしながらシャックスに接近する。
「シャックス!」
切り掛かると、シャックスの羽根を掠めた。
「同士を見捨て、捨て身に出たか」
「何言ってるかわかんないけど、愚かなんかじゃないからな!」
もう一度切り掛かるが、なんと、シャックスの後ろに隠れ続けていたトマスが〈氷野疼獄〉を手に阻止した。
「主」
「矢張り、来なきゃ良かったよぉ。シャックスが頑張ってくれるから、おれの出番なんて絶対に無いと思ってたのに」
「邪魔するな! お前のことなんか後回しにしたいんだよ!」
「折角、勇気出したのに酷いなぁ。おれを仲間外れにしないでよぉ。今迄も散々、塵芥みたいに捨てられて来たのにさぁ……。だから、仲間に入れてくれよ。隠れてるだけじゃ、使徒をやっつけられねぇし」
途中から突然、トマスの声音と口調、そして青い双眸が標的を定めた目付きに変わった。
(どうやら。某の主は、漸く切り替えてくれたようだな)
「此れでも死徒の端くれだ。偶には、目ぇひん剥いた仲間の面を拝んでやっても良いよなぁ!」
トマスは、刃の円盤〈氷野疼獄〉を握り振るう。「くっ……!」ペトロは〈誓志〉で受け止めようとするが、公園の方に吹っ飛ばされ茂みに突っ込んだ。
「おれと、楽しい楽しいタイマンやろうよ!」
享楽的なキャラに変貌したトマスは、円盤の刃を両腕に装備し、ペトロに投げた。回転しながら向かって来る黒い刃を、ペトロは〈誓志〉で弾く。
「天の罰雷!」
連続して投擲される刃の円盤を、身を翻してかわしながら攻撃を放つが、トマスは俊敏に雷を避けていく。
「赫灼の浄泉!」
間を置かず放った光の泉も避けられる。が、攻撃をしつつ接近していたペトロは踏み出し、剣を振るう。
「はあっ!」
「甘いよ」
トマスが人差し指を立てて横に振ると、さっき弾き飛ばした円盤の刃がブーメランのように戻り、ペトロの背中を斬り付けた。
「ぐっ……!」
剣を振り下ろすも捉えられず、トマスは武器を手に飛び掛かって来る。ペトロは剣で刃を受け止める。
「お前の力はそんな物かぁ? もっと本気出してくれよぉ。でないと、楽しくならないだろぉ!?」
刃を交える左右から別の円盤の刃が飛んで来て、ペトロは後退して回避する。
「闇世への帰標!」
回避と同時に光線を放つも、円盤の刃が盾となりトマスに届かない。そのお返しとばかりに、ペトロの後方から別の刃が飛んで来て、二の腕と太腿をやられる。
「くぅっ!」
「やり返してくれよぉ。一緒に楽しもうぜぇ!」




