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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第5章 Verschwinden─裏表─

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24話 ユダ、帰還



 助太刀が現れたおかげでペトロにも落ち着きが戻り、二人は気持ちを切り替えて攻撃を再開する。


冀う縁の残心(エントゥウィクレン)皓々拓く(ゼルプスト)! ペトロ、目の前だ!」

大いなる祝福の光雨リヒトリーゲン・ジーゲン・グロース!」


 ペトロは光の弾丸の雨を命中させた。平静さが戻り、襲い掛かって来る悪魔の僅かな気配の尖りを察知することができるようになってきた。

 戦勝記念塔で戦況を観察し続けているシャックスも、使徒の変化に気付き始めた。


(黒髪と少年の二人は、安定した戦闘を継続している。金髪と茶髪の方は乱れて来ていたが、其の二人が合流した事で安定を取り戻している)

矢張(やは)り。加減した(まま)では、()の戦況は平行線のようであるな」

(では。後方の一人を、先ず片付けるとしよう)


 シャックスは戦況をこちら側へ傾けるために、新たな眷属を喚び、アンデレのすぐ目の前に三十体ほどの小隊を出現させた。


「なんか出て来た!」


 悪魔たちは剣や斧に力を込め、アンデレとの力を相殺して防壁を崩しに掛かる。


「やめてくれよ! おれ今、自力で動けないんだから! って言っても無理なんだった!」

(自分とヨハネさんたちの方、二ヶ所の防御に集中しなきゃならないのに!)


 すると、アンデレの方にも悪魔が現れたことに気付いたヨハネが叫んだ。


「アンデレ! お前は動けないんだから、いざとなったら自分を守れ!」

「何言ってんすか! ヨハネさんたちの方がヤバイ状況なんだから、何がなんでも防御続けます!」

「お前が何言ったのかわからないけど、防御を維持し続けるつもりだな。だけどお前は戦えないんだから、自分を優先しろ! 僕たちの方はなんとかなる!」

「でも……!」

「異論は認めないぞ。僕のバンデだったら、僕の言葉を信じろ!」


 聴覚を失ってもヨハネはアンデレの思考を理解し、アンデレの身の安全を最優先を考えた。

 アンデレもヨハネを信じている。けれど、ヨハネを信じることも守ることも、アンデレにはどっちも譲れないことだ。


「信じます! だけど。おれは絶対に、ヨハネさんたちを見捨てませんから!」

「何言ったかわからないけど、頼りにしてる!」


 ヨハネもアンデレの無事を案じながらも、その強い意志を信じている。


(少しは、バンデらしくなってきたみたいだな)


 やり取りを聞いていたペトロは、性格の違う二人がバンデとして上手く機能するかちょっと心配だったが、大丈夫そうだと安心する。

 戦いは平行線を辿る。自陣の方が依然優勢を保っているはずだが、そのバランスがどうしてか崩れないことに、シャックスも怪訝になる。


(何やら、使徒の雰囲気が徐々に変化しているか?)

「まぁ、気にする(まで)も無い。次は其処(そこ)の四人を……」


 シャックスが、ペトロたちを狙った次の手に出ようとしたその時。トマスの鏡の棺がバリィンッ! と音を立てて崩壊した。


「!?」

(馬鹿な!)


 棺が崩壊すると、〈悔責(バイヒテ)〉を手にしたユダが無事な姿で現れた。


「ユダ!」

「ペトロ! ユダが戻って来たよ!」

「本当に!?」

(よかった!)


 視認することはできないが、シモンが教えてくれてペトロの心に安堵が湧き上がる。


(脱出できた……)

「……っ」


 脱出したユダは、精神的負荷で少し疲弊していた。しかし、ペトロたちの状況を確認すると、即座に加勢する。


来たれ黎明(アウスシュテアブン・)祝禱の截断(ゲベート)!」


 ペトロたちが交戦している一軍と、アンデレを襲っている小隊を目掛けて連続で斬撃を放ち、悪魔は一気に半分ほど祓われた。

 その威力に、シャックスは目を見張る。


「何だ、あの人間は!?」

(精神攻撃を受けているのではないのか!?)

「シャックス」


 棺を破壊されたトマスも、戻って来ていた。負傷したせいなのか、少し目を潤ませるその雰囲気は、もとのヘタレに戻っていた。


「主。まさか、負傷されたか」

「一度帰ろう。矢張(やっぱ)り、来なきゃ良かったよぉ」

相仕(あいつかまつ)りました」


 シャックスが回収されると、現れていた悪魔は全て消え去った。


「もう。何なの、あの人」


 気が進まなかった戦いに駆り出された上に、苦渋を嘗めることになったトマスは、恨めしそうな青い双眸でユダを一瞥し、影の中に消えた。

 敵が姿を消すと同時に、ペトロたちに掛かっていた術も解けた。


「動けるぞー!」


 元気を取り戻したアンデレは、両手を挙げ伸びをしながら開放感に喜んだ。ヨハネたちの知覚も戻った。どうやら後遺症もない。


「ユダ!」


 視覚が戻ったペトロは、ユダの姿を確認すると真っ先に駆け寄った。


「大丈夫か?」

「うん。大丈夫だよ……。っ!?」


 ユダは笑顔で言うが、杖代わりの大鎌を手放すと力が抜け、膝から崩れ落ちた。


「バカ! 大丈夫じゃないじゃんか!」

「大丈夫だよ。本当になんとも……」

「なんともないわけないだろ。お前以外みんな、それが嘘だってわかってるんだからな!」


 ペトロは、堪えていたやるせなさを吐き出すように言った。見回せば、シモンもヤコブもヨハネも、安堵と案じる表情を向けていた。


「そうだったね。みんな、先輩だったっけ」


 隠し事は意味がないと、ユダは観念するように力なく微笑んだ。

 ともあれ。惨苦のトマストマス・デア・ライデンとゴエティアのシャックスは撤退し、お互いの無事に一同は一安心する。


「とりあえず。帰ろ」




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