18話 ビビリだけど腐っても死徒
マタイが種から育てている植物は、この世界に太陽があれば日除けになれるほど立派な樹木に成長した。物質界では秋口だが、季節もないシェオル界で成長する樹木の葉は、常に青々と生い茂っている。
死徒たちは城のいつもの広間に集まり、次の刺客を選んでいた。
「ええっ!? おれが行くのぉ!?」
使徒と戦うようマタイに命じられたトマスは、気弱に悲鳴を上げた。
「順番的にはそうね」
「嫌だぁ! 戦うなんて無理だよぉ! 直ぐに殺られちゃうってばぁ〜! おれなんて埴猪口なんだから、一瞬で終わっちゃうよぉ! 他の誰かの方が良いってぇ!」
半泣きで行くのを嫌がるトマスは、仲間たちに目配せして身代わりを頼むが。
「ぼくはパス〜」
「アタシも。行ったばかりだもの」
「我も控える」
タデウスは安定してやる気がなく、負けて帰って来たばかりのマティアも一時的に興味が薄れていて、バルトロマイは敗戦による自省の念を理由に断った。
「其れじゃあ俺様だな!」
候補に残った、年中血気盛んで唯一戦う気満々なフィリポが立ち上がるが、マタイは彼を行かせることを良しとしない。
「お前は行かせられない。使徒の実力をまだ知らない、トマスに行かせる」
フィリポは不満を露にマタイにガン飛ばしたが、二度と使徒に喧嘩を売りに行けなくなるリスクを優先し、大きな舌打ちをしてドカッと座った。
「知らない儘で良いよぉ〜。フィリポも駄目なら、マタイが行けば良いじゃん〜。何で行かないの〜」
「お前には、一つ確かめて貰いたい事が有るんだ」
「確かめて貰いたいって。何を?」
「まだ一人、棺に入れていない使徒が居るだろう。其奴を甚振ってやれ」
「何でおれにそんな事頼むの〜? マタイがやれば良いじゃん〜」
「俺が行っても良いが。使徒との戦いが終わるぞ? 厚情で加減はしてやるが、思わず瀕死状態にさせたらどうする」
「そんなん俺様が許さねぇ! 奴等を殺すのは俺様だ!」
「我も同意見だ」
「アタシもかしら」
「ぼくは別に、何方でもー」
トマスの身代わりになることは拒んだが、タデウス以外の三人は苦渋を嘗めさせられた使徒との再戦を望んでいた。
「トマス。お前は常に弱気だが、何時かは使徒と戦わなければならないんだぞ。其の為にも、イメージトレーニングくらいしておけ」
「ええ〜。本当に行かなきゃ駄目〜?」
トマスは青い瞳を潤ませ上目遣いでマタイに甘えるが、そんな姑息な手段で気持ちが揺らぐような統括ではない。
「捨てられた仔犬みたいな目をしても駄目だ。お前の本性は、そんな可愛い生き物じゃ無いだろ」
「大丈夫よ、トマス。もしも負けて帰って来ても、最近のフィリポ大人しいから喧嘩にはならないわよ」
「そんな心配してないよぉ」
「行きなよトマスー。おれだって行きたくなかったのに、君だけ行かないのは狡いよー」
テーブルにうつ伏せて半分溶けながら、タデウスは不平等を主張した。ただ死徒の責任を押し付けたいだけだが。
だが、その怠けた発言でトマスは意識を変える。
「うー……。でも、そうだよね。おれも死徒なんだし、こんな所にずっと隠れてるの格好悪いよね。皆にばっかり、手柄を持って行かれるのも嫌だし。おれだって、使徒が苦しむ顔見たいし」
「では。行ってくれるか。トマス」
「うん。おれ、頑張ってみる」
気弱だが、腐っても死徒のトマスも、使徒を甚振りたい気持ちが出てきたようだ。
マタイはトマスに出陣を命じ、席を立って広間を後にした。青い炎が等間隔に灯る暗い廊下を、思案しながら歩く。
(探し物を見付けられたのだから、本当なら俺が行っても良い。しかし、どうも奴に違和感がある。探していた『蝶』に間違いはない。あの武器も、此れ迄何度も見てきた。だがあの時、俺を前にして戦う意欲を減退させた。恐らく奴は、蝶であって『蝶』でない)
「なら。奴は何者だ?」
(トマスの棺で、正体を暴ければいいが……)
ある日。ティーアガルテンのすぐ側の大学キャンパス内に悪魔が出現し、新作スニーカーの広告の打ち合わせの帰りのヤコブとヨハネ、そしてペトロが駆け付けていた。現在、ペトロが倒れた学生に潜入潜入中だ。
「闇世への帰標!」
「天の罰雷!」
「グ€ァ%§ッ!」屋根の上にいた悪魔は攻撃を食らい、転げ落ちた。
「今日は大したことないやつだな」
「油断するなよ、ヤコブ!」
同じ頃。距離的に考えて悪魔の相手はペトロたちに任せ、ユダはヨセフとともに事務所で業務に勤しんでいた。
ところが突如。ものすごく近くに死徒の気配を感知する。
「……!」
(死徒の気配! まさかこんな近くに……!)
外に飛び出し姿を探すと、斜め向かいの旧集合住宅の上に、顔の半分が大きな三つ編みで隠れた、見たことのあるコスチュームの黒い陰がいるのが見えた。
(いた!)
「ひやっ! 見付かった!」
僅かな陰に隠れていたつもりだったトマスは、ユダに発見されるとビビッて北西方向へと逃げ出した。
「ごめんヨセフくん。急だけど留守番お願い!」
「わかりました」
ヨセフに留守番を頼み、ユダは即座にトマスの後を追った。




