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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第5章 Verschwinden─裏表─
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10話 視線



「ささ。ペトロちゃんはお着替えして」

「だから、“ちゃん”はやめてくださいって」

「かわいいんだから、ペトロちゃんでいいじゃない。甘そうで食べたくなっちゃう♡」

「うちの大事なペトロに、手を出さないでくださいね」


 笑顔で牽制するユダのメガネが、キラリと光った。


「ヤダ。怖い笑顔で言わないでよ、ユダくん〜。冗談よ〜。むしろ、アナタの方がタイプだから♡」


 盛り盛りつけまつ毛でウインクされても、笑顔を崩さず全く動じないユダ。

 ペトロはワゴン車の中で着替え、今度はピーコートにニットとコーデュロイパンツのスタイルで撮影を再開した。

 順調に進む撮影を見守るユダは、ペトロから預かっているネックレスをポケットから出した。


(このネックレス、やっぱり気になる。私の記憶喪失と、関係があるんだろうか……。だけど、記憶喪失になる前からペトロが持っていたんだから、私とこのネックレスに接点があるとは考え難い。でも、何なんだろう。この不思議な感覚は……)

「やっぱり何か……。 !?」


 その時、また視線を感じて振り向いた。しかし、通行人がいるだけで怪しい人物は見当たらない。


(気のせい、か……?)




 一同は次の撮影場所、シュプレー川沿いの遊歩道に移動して来た。赤レンガ造りの橋脚や公園の緑を眺められ、景観がいい場所だ。

 ペトロは本日三着目の衣装に着替え中だったが、悪魔出現の気配を感じた。


(仕事中なのに!)


 すると、外にいたユダがドアを開けて言った。


「ペトロ。私が行って来るから、きみは撮影してて」

「オレも行くよ」

「大事な撮影初日に、迷惑は掛けられないよ。だからこっちは任せて」

「わかった。頼む」


 ユダはスタッフに事情を話して一時的に現場を離れることを伝え、橋を渡って南下した。




 ヤコブとヨハネも駆け付け、ブライダル専門店前に倒れている女性にヨハネが潜入インフィルトラツィオンした。

 出現した悪魔には、ユダとヤコブが連携して攻撃を仕掛ける。


天の罰雷(ドンナー・ヒンメル)!」

闇世への帰標(ベスターフン・ニヒツ)!」

「∅ア≯@ッ!」


 悪魔は、建ち並ぶ集合住宅の外壁を滑るように移動する。だが速度はそれ程速くはないので、捉えるのは容易い。

 祓うまで時間は掛からないだろう。そんな小さな油断もあってか、ユダは集中力を欠いて周りを気にしていた。


「気を付けろ、ユダ!」


 ヤコブの声で振り向くと、外壁を逃げていた悪魔が気付けば地面を這い、ユダに向かって飛び込んで来た。


祝福の光雨リヒトリーゲン・ジーゲン!」

御使いの抱擁ウムアームン・エンゲル!」

「ギγ∀σμッ!」


 ヤコブのフォローの攻撃で悪魔は怯み、その一瞬を見逃さずにユダも光の爆発をお見舞いした。

 倒れた悪魔は、十字の楔(カイル・クロイツェス)で拘束された。


「どうした、ユダ。集中力欠けてるぞ」

「今日は、なんだか視線を感じるんだよ」

「お。とうとうお前にもファンが付いたんじゃね?」


 ヤコブは冗談半分で言ったが、感じる視線が気になって仕方がないユダは、冗談で返すどころか微笑もしない。


「まさか。それに、そんな感じの視線じゃないんだよ」

「恨みがこもってるとか?」

「そしたら死徒の可能性もあり得るけど、そういうのでもないんだよなぁ……」


 負の感情がこもっていたり、その逆の熱い視線でもない。ただ凝視をされているような、そんな感覚だった。


「戻りました! 祓魔(エクソルツィエレン)してください!」


 ヨハネが潜入インフィルトラツィオンから戻って来て、ユダとヤコブで悪魔が祓魔(エクソルツィエレン)され、戦闘は終わった。




 撮影現場に戻ると、ペトロは四着目の衣装に着替えて撮っていた。

 レンガの壁を背にしたり、川と緑を背景に散歩をしている風に撮ったり、柵に寄り掛かって読書をしている風になど、シチュエーションを変えながら撮影は進んだ。

 戦闘から戻って来てからも、ユダは誰かからの視線を感じた。おかげで仕事に集中できず、ペトロへの気配りも抜けてしまった。




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