39話 アンデレ、ファインプレー
アミーの不和助長の術により、幻覚と幻聴に陥るペトロたち。眷属の悪魔たちを仲間と思い込んで防戦一方を強いられ、精神攻撃と物理攻撃を受け続ける。
「オレは、誓いを忘れたわけじゃない。裏切ってなんかない!」
「やめろ! 俺はまだ、使徒でいたいんだ! ここにいさせてくれ!」
「ボクは足手まといなの? みんなの邪魔だったの? 違うよね。違うって言ってよ!」
浴びせられる誹謗で心は揺らぎ、身体は傷だらけ。まだまともに戦ってもいないのに、激戦を思わせる姿となっていく。
「ハハハ! 良い眺めだ。ジワジワ弱って行く姿を見るのは良いな!」
看板の上から悠揚と見下ろすアミーは、仕留め時を待つばかりだった。
ジワジワと追い詰められる四人の一方で、特有の防御のおかげで術の影響をほぼ受けていないアンデレは、ペトロたちのピンチに焦燥する。
「ペトロ! みんな! しっかりしろよ!」
(おれ、本当にこのまま自分の防御だけやってればいいのか? みんながピンチなのに、自分だけ無事でいたってしょうがないのに)
「そうだよ。おれは治癒と防御しかできないんだから、一人になったら戦えないんだ。この数の悪魔から、フルボッコにされるんだ。そんなの超絶痛いし、即病院送りじゃんか! あ。でも自分で治癒できるのかな」
(いや。今それはどっちでもよくて! このままじゃ、まともに動けるおれが動かなきゃ負ける! それは絶対に阻止する!)
感情と表情をコロコロ変えて考えたアンデレは、自分がすべき最善の策を取ろうと考える。
「防御を解除したら悪魔が押し寄せて来るから、まずそれから逃げる!」
ユダから展開したままでと言われていたアンデレは、防御を解除した。「ひいっ!」途端に悪魔たちが襲い掛かって来て、迷わず逃げに徹する。
「そんで! どっか適当なところに移動する!」
堂々と逃げたアンデレは見通しがいいビルの屋上に移動し、〈護済〉を掲げる。
「心魂は不可侵、黒雲は沈降に非ず。大いなる祝福を受けよ!」
(みんな! 目を覚ませ!)
全員に行き渡るように効果増大の精神治癒の術を唱えると、玉が目映い光を放った。
「何だあれは!?」
〈護済〉が放つ大きな白光が眩しく、目を開けていられないアミー。その光を浴びた悪魔たちも、心なしか動きが鈍った。
そして、ユダたちに掛かっていた不和助長の術も解除に成功し、正常を取り戻した。
「大丈夫か、みんな!」
「アンデレくんか!」
「くそ。また掛かったのかよ!」
「助かったよ、アンデレ。ついでに、怪我も治してくれないか!」
「わかった! 宵闇遡及し日輪へ。己を信じ、大いなる祝福を受けよ!」
アンデレは、〈護済〉を地上のユダたちに向け唱えた。半透明の発光する球体に包まれた四人の怪我が、完治する。
「よっしゃ! 完全復活ー!」
「ありがと、アンデレ!」
「んじゃ。ウザいこいつらを一掃するか!」
気力も体力も戦闘前の状態に戻った四人は、アミーの眷属たちを祓い始め、形勢は一気に逆転モードに入った。
「くっ! 吾輩の眷属に何をする!」
アミーは、青い炎からさらに眷属を喚び出す。だが。
「泡沫覆う惣闇、星芒射す!」
立ちはだかっていた悪魔を早くもほぼ片付けたシモンが、手にしていた〈恐怯〉で無数の光の矢を放ち半分ほどを一気に祓った。
「来たれ黎明、祝禱の截断!」
そして、自分の周囲の悪魔を片付けたユダが、祓い損ねた残りを全て祓いきる。
「なっ……! 人形はどうしたんだ!」
「私がとっくに、全部片付けておいたよ。さあ。追加の眷属を喚ばなくていいの?」
「其れなら。君の後ろに居るよ」
振り返ると、数十体の悪魔が青い炎の中から現れた。しかし、惑乱の元凶の生首の人形はいない。
「なんだ。ノーマルじゃないか」
それなら問題ないと、ユダは〈悔責〉を手に一個小隊に向かっていく。
ヤコブとペトロ方にもさらに悪魔が現れ、次々と祓っていく。
「赫灼の浄泉!」
「闇世への帰標!」
一度は逃げ切り安心して地上に降りて来たアンデレの方にも、再び悪魔が迫っていた。
「また来たぁ! おれは戦えないから向こう行けってー!」
「朽ちぬ一念、玉屑の闇!」
アンデレが防御でやり過ごしていたところへ、ペトロが助けに来た。
「大丈夫か、アンデレ!」
「ペトロ! 来てくれて助かったよー!」
心から感謝して半泣きのアンデレ。ペトロは戦えないアンデレの盾となり、悪魔を祓っていく。
「使徒になったばっかなのに、キツいし大変だろ」
「キツいし大変だし怖いよ! だけどペトロたちは、こんな戦いを何度も繰り返してるんだもんな。だから、おれも弱音は吐かない!」
「全然吐いていいぞ」
「吐いたら、弱いやつって思われそうじゃん」
「思わないよ。オレたちは、弱いやつの集まりだ。でも、同情して傷を舐め合ってるんじゃなくて、戦う力と希望を与え合ってる。あ、でも。弱音ばっかり吐くと特にヤコブが喝を入れるし、今逃げたら全員からバッシングだからな」
「バッシングは嫌だから頑張る!」
空気を読めなくて嫌味を言われ続けてきたアンデレだが、やはりバッシングは避けたいようだ。
「んじゃ。できるだけ早めに片付けるから、お前はまたヨハネを助けてやってくれ!」
「わかった!」
アンデレはヨハネが囚われる棺の方へ向かい、ペトロは悪魔掃討に再び合流した。アミーが性懲りもなく、また追加で眷属を喚び出していた。
「ペトロ。アンデレくんは大丈夫そう?」
「あいつは大丈夫だよ。空気が読めないのを嫌がられてることに気付いても、スタンス変えないくらい強いから」
「それなら大丈夫だね」
「ユダは?」
「え?」
「ちょっと顔色悪く見えるから」
「大丈夫だよ。さっきの幻聴に、ちょっとやられただけ」
気に掛けるペトロに、ユダはニコッと普段通りの笑みを返して言った。
(ユダは何を聞いたんだろう……)




