表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第4章 zum nächsten─見つけたもの─

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

173/254

36話 惑乱



 眷属を喚び出したアミーは、道路のど真ん中に立つ兵士の看板の上に座り、悠々と戦況を観察することに決めた。


「言葉の鞭と言うのは結構効くから、どんな光景になるか楽しみだな」


 ユダたちに、炎の人形(ひとがた)とアミーの眷属が迫る。


 ───使徒の面汚しめ───


「だから。同じ手が通用するかよ!」


 ───ガキのくせに目障りだ───


「炎の人形(ひとがた)が言ってるの?」


 ───調子に乗って忘れるな───


「悪魔もたくさん出て来たな」


 ───お前は信用できない───


「幻聴だってわかってるけど、みんな油断せずにね!」


 ───ウザい。失せろ───


「ひえっ! また、おれの方にも来るじゃん!」


 対ゴエティア二戦目のアンデレにも容赦なく悪魔の軍勢が迫り、弓兵が青い炎の矢尻を放って来た。


「来たーっ! 阻碍せん冥闇を(ドゥンケルハイト・)抗拒する(アプリーノン)!」


護済(ヘルフェン)〉で防御したが、悪魔たちは攻撃をし続け防壁を破壊しようとする。


 ───ウザいんだよお前。空気読めよ───


「これ、おれの悪口だよな。わぁ。心に刺さってくるー……」


 空気を読むのが苦手なアンデレも、アミーの不和助長の術にはさすがに苦々しい顔をする。

 ユダたちは、幻聴に引き摺られないよう倒すことに傾注し、悪魔の軍勢に攻撃を開始した。


天の罰雷(ドンナー・ヒンメル)!」

闇世への帰標(ベスターフン・ニヒツ)!」

祝福の光雨リヒトリーゲン・ジーゲン!」

赫灼の浄泉(クヴェレ・ブレンデン)!」


 炎の人形(ひとがた)を狙うが、周りの悪魔たちに命中してしまう。


「あの人形(ひとがた)を倒したいのに、悪魔が邪魔してくる!」

「取り巻きを排除しないと、ダメなパターンだな!」


 四人は、地道に悪魔を祓いながら人形(ひとがた)を倒すタイミングを狙う。そのあいだも幻聴は絶え間なく聞こえ、心を揺さぶってくる。


 ───お前が使徒を名乗るな───


「耳障りだな!」


 ───これは、お前が作った偽りの現実だ───


「いちいち引っ掛かってられるか!」


 ───邪魔だ。足手まといでしかない───


「惑わされないよ!」


 ───お前は、本当は何者だ───


「聞かれても答えられないな!」


 幻聴だとわかっていれば、不用意に惑わされることはない。前回掛けられたぶんある程度慣れたので、この程度は屁でもないユダたちはほとんど気に掛けず悪魔を祓っていく。

 だが。今掛けられている不和助長の術は、ほんの小手調べだ。


「こんな物じゃ無いよ。此処(ここ)からが本番だ」

「µµµ……∅∅∅……≯≯≯≯≯∀∀∀∀∀ッ!」


 アミーが杖を振ると、炎の人形(ひとがた)の生首がまた叫び出した。しかし、先程よりも強力になった音波はそれぞれの脳を震わせる。


「く……っ!?」

「さっきよりも強い!」

「頭が痛いっ!」


 脳に直接何かをされているような不快さと頭痛で、四人は頭を抱え苦しむ。


「みんな、大丈夫か!?」


 アンデレも顔をしかめてはいるが、ユダたちほど影響を受けていない様子だった。


(アンデレくんは、特有の防御のおかげで影響を受け難いのか?)

「アンデレくん! 私たちは大丈夫だから、その防御はそのまま維持しててくれ!」

「本当にいいんですか!?」

「私の言葉を信じて!」


 ユダも辛そうで今すぐ治癒を施したいが、アンデレはグッと堪えて大きく頷いた。


「さあ。此処から余裕が無くなるよ」


 そして、宴の本番が始まる。

 ペトロは、立ちくらみに似た視界のブレで頭を振った。


「超音波キツ……い」


 ひとまずブレは収まったが、視界から入って来た情報に困惑する。


「えっ……」


 自分の目の前にいた何十体の悪魔たちが全て、仲間の姿に変わっていた。


 それはペトロだけではない。ヤコブもシモンもユダも、同じ状況になっていた。


「なんだ、これ」

「幻覚……だよね?」

「逆に、幻覚じゃなきゃおかしいよ」

(今の超音波のせいでやられたか)


 脳を震わせる超音波の影響で、視覚まで異常を起こした。しかも、幻覚だとわかっているのに、なぜか本物と認識できてしまう。


 ───よく生きてられるよね───


 ペトロの耳は声をはっきりと捉え、本物のユダの姿と声だと認識する。


 ───誓いを忘れて、のうのうと生きやがって───

 ───その神経、人間として疑うよ───

 ───人のものを横取りしたくせに!───

 ───裏切り者!───


 他の姿と声も、ヤコブとシモンとヨハネとアンデレに間違いないと、脳が勝手に判断する。


「これ、幻聴と幻覚だよな……。そうだよな!?」


 ペトロは動揺を隠せない。同じ姿を並べる何十人の仲間から悪意の言葉が投げられ、幻覚だと思いたくてもそう思えなくなっている。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ