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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第3章 Nähern─強さの裏側に─

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37話 阿吽の呼吸



「はあっ!」


 二人は行く手を阻む融合悪魔たちをハーツヴンデで祓い、背後から襲い掛かって来る個体からもお互いに背中を守りながら突き進み、巨大悪魔(ゴーレム)の攻略にかかる。


「まずはこいつから!」

「はあっ!」


 二人は巨大悪魔(ゴーレム)の足を狙い、左右同時に刃を振るう。

「§µ#!」巨大悪魔(ゴーレム)は煩い虫を払おうと手をペトロに振り下ろす。「っ!」ユダはペトロに迫る黒い影を、〈悔責(バイヒテ)〉のひと振りで切り落とした。

 二人は体勢を整えて再度斬り掛かる。


朽ちぬ一念(シュナイデン・)玉屑の闇(エントシュルス)!」

来たれ黎明(アウスシュテアブン・)祝禱の截断(ゲベート)!」


「@∂∀ッ!」やられる巨大悪魔(ゴーレム)は、紫色の煙を吐き出した。二人は防御して煙から逃れる。

 二人は融合悪魔に邪魔をされながらも、他と比べものにならない大きさの体躯に何度も攻撃する。

 反撃で繰り出される巨大な五本の鋭利な爪を刃で受け流し、謎の紫色の煙も何度も回避しながら、ジワジワとダメージを与えていく。その反射神経や機動力は、これまでの戦闘を上回っている。

「σ∃ァ∅∌ッ!」攻撃を受け続ける巨大悪魔(ゴーレム)も、動きが鈍くなってきた。ユダとペトロはアイコンタクトし、それぞれドイツ大聖堂側とコンサートホール側から息を合わせて斬り掛かる。


「闇より来たりし悪しき存在を、無に導かん!」


 そして、核の宝石を同時に砕いた。


「グ¥@µォ∃¿ァ……ッ!」


 核の消滅とともに亡霊は浄化され、器となっていた悪魔も黒い霧と化した。

 巨大悪魔(ゴーレム)が倒されたビフロンスは、さすがに目を見開く。


「まさか。たった二人で……」

「よっしゃ、次っ!」


 ユダとペトロは、息つく暇もなく二体目を倒しに掛かる。

 融合悪魔を相手にしながら見ていたヨハネは、その戦いぶりに圧倒された。


「すごい。これが、バンデの戦い……」

(ユダはまだ記憶が戻ってなくて、トラウマも抱えたままだっていうのに。まるで、完全な唯一無二の二人になったようなコンビネーションだ)

「羨ましい……」

「ヨハネ! 羨む前に集中して!」

「わかってる!」


 融合悪魔を任されたヨハネとシモンも、次々と祓魔(エクソルツィエレン)していく。

 シモンはなんとか戦いに集中しているが、やけに胸騒ぎがし、棺の中のヤコブが気掛かりで堪らなかった。


(さっきから嫌な感じしか感じ取れない。ヤコブ、大丈夫だよね?)


 ───そのくらいの覚悟じゃないと、やつらとは戦えないって話だよ。


(ヤコブは覚悟を決めてた。でもその覚悟は、正しい方の覚悟なんだよね? ボクは信じてるよ。ヤコブが()()()()戻って来るのを信じてる!)


 ユダとペトロの活躍により、戦況は使徒側が有利となり始めた。ビフロンスは融合悪魔を追加で喚び出すが、その数は第一陣と比べるとかなり少ない。眷属の消耗を躊躇していた。


(自分もゴエティアの一人とは言え、グラシャ=ラボラスやガープ程、眷属を従えてはいません。巨大悪魔(ゴーレム)を創り出そうにも、更に喚び出す必要が有ります。()れ以上、眷属を失うのは少し痛いですね……)


 ビフロンスが増援を喚ぶのをためらったため、悪魔は確実に数を減らしていく。その選択により、三体いた巨大悪魔(ゴーレム)は残り一体となる。


朽ちぬ一念(シュナイデン・)玉屑の闇(エントシュルス)!」

来たれ黎明(アウスシュテアブン・)祝禱の截断(ゲベート)!」

「&¥ォφ∀!」


 ユダとペトロは、巨大悪魔(ゴーレム)の前後から息を合わせて跳躍する。


「闇より来たりし悪しき存在を、無に導かん!」

「#¿∃ォ∅ア……ッ!」


 そしてとうとう、最後の一体が祓魔(エクソルツィエレン)された。

 ユダとペトロの力で戦況は完全に逆転し、融合悪魔も残り僅かとなり、焦るビフロンス。


「くっ……!」

(主殿は、まだ終わらないのですか!?)


 大物三体を倒したユダとペトロは、軍勢の親玉ビフロンスに迫る。


「もうネタは尽きたのかな、ビフロンス。まだ、あと三体は倒せるよ?」

「いや。それはちょっと勘弁。やる気なら一人でよろしく」

「え。ペトロ、それはちょっと酷くない?」


 二人は、冗談を言える余裕すら残っている。

 ビフロンスは、バルトロマイが戻って来るまで時間稼ぎのために取り入ろうとする。


「……いやいや。誠に恐れ入りました。使徒の皆様が、此れ程の力を隠し持っていたとは露知らず……」

「褒めたって見逃さないぞ」

「不問にして頂きたいなんて、とんでも御座いません。(ただ)。仲間の御方に一度猶予を与えております故、私奴(わたくしめ)にも同じ処遇を……」

「ユダ! ペトロ!」


 後ろからヨハネの叫び声がして振り向くと、残党が二人に襲い掛かろうとしていた。が、シモンがそれらを光の矢で祓い、大事なかった。


「猶予を、ねぇ……」


 ユダはメガネを光らせ、強めの視線をビフロンスに刺した。


「くっ……!」


 ビフロンスは、惜しんでいた援軍を十数体喚んだ。しかし。


冀う縁の残心(エントゥウィクレン・)皓々拓く(ゼルプスト)!」

泡沫覆う惣闇(ホフノン・)星芒射す(リヒトシャイネン)!」

朽ちぬ一念(シュナイデン・)玉屑の闇(エントシュルス)!」

来たれ黎明(アウスシュテアブン・)祝禱の截断(ゲベート)!」


「ア∀µ§ォ%ッ!」四人に一瞬で全て祓われた。


「さすが悪魔。テッパンの卑怯なやり方だね!」

「ぐうっ!?」


 ビフロンスは、ユダが振るった〈悔責(バイヒテ)〉に胸部を斬られる。だが、致命傷ではない。


「シモンくん」


 シモンは光の矢を放ち、ビフロンスを地面に拘束した。

 人間ごときに負かされ、地面を這う屈辱を味わうビフロンスは、いやらしい笑みを浮かべることすら忘れ歯噛みする。


「さあ。お前の主が戻って来るまでこのままか。それとも度肝を抜かせるか。どっちがいいかな、シモンくん?」

「ヤコブのことは信じてるけど、人質にしよう」


 これでひとまず、対ビフロンス戦は決着となった。あとは、ヤコブが無事に戻って来るのを祈って待つだけだ。




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