33話 融合
「ヤコブ……」
「大丈夫か、シモン」
ペトロは、憂うシモンを心配する。
「うん。ボクは、ボクのやるべきことに集中するよ」
ヤコブは、自身の戦いに身を投じた。ならばシモンは、彼が戻って来ることを信じる戦いをするしかない。
シモンは気持ちを抑えて、ビフロンスに意識を向けた。
「皆様、準備は宜しいでしょうか。其れでは、此方も始めさせて頂きましょう───我が眷属達! 貴方々の出番です!」
そう言うと、地面から数え切れない数の黒い煙がモクモクと吹き出し、武装した悪魔の形を成した。その数は百体以上。その胸には宝石が埋まっている。
「胸に宝石が!」
「また亡霊を……」
「いえいえ。今回は趣向を凝らし、眷属達に亡霊を取り憑かせてみました」
「悪魔に亡霊を!?」
「我ながら、中々の傑作が出来上がったと自負しておりますが、使徒の皆様から御覧になって如何でしょうか」
「そうだね。前回に増して趣味が悪いよ」
自信満々に新商品を紹介する営業マンぽくアピールするビフロンス。その悪魔らしい趣味の悪さに、ユダたち四人は不快を露にする。
「其れは良かった! 御満足して頂けて、私奴も胸を撫で下ろせます」
「だけどこれ、どっちの方法で戦えばいいんでしょうか」
「それは、やってみないことにはわからないかな」
悪魔を倒すつもりで戦えばいいのか、それとも、前回同様に亡霊の浄化を優先するべきか。悩むところだ。
「前回が不完全燃焼だったので、存分にやらせて頂きます!」
融合悪魔が使徒に進行を開始し、四人はユダの判断で、ひとまずは前回と同じ核となっている宝石を狙う戦法で戦い始めた。
「祝福の光雨!」
各自、祝福の光雨で光の弾丸を降らして宝石を狙う。しかし、命中する個体はいるが、融合悪魔たちは剣や盾を使って防御した。
「防がれた!」
何度か同じ攻撃を繰り返すが、命中率は低い。ビフロンスに教え込まれているのか、融合悪魔たちは胸だけは必ず守った。
「くそっ。思い通りに命中しない!」
「皆様が宝石を狙って来るのは、想定済みです。さあ。取り憑いた亡霊を救われますか? 其れとも、丸ごと消し去りますか?」
使徒が困惑する様子が愉快なビフロンスは、ニタリと笑みを浮かべる。
「祝福の光雨!」
「&#ォ@アッ!」ヨハネが目の前の融合悪魔を倒した瞬間、顔がないはずなのに苦しむ表情が一瞬だけ薄っすら浮かび上がった。
「顔……!?」
「まさか、亡霊と融合してるから!?」
前回は亡霊が操られているだけで、呻き声を堪えればどうにかなったが、この融合悪魔たちは表情のおまけ付きという、非常に質の悪いものに作られていた。
もちろん意思はない。表情が読み取れるというだけで、四人を怯ませるだけのオプションだ。使徒は、そんなもので判断を鈍らせることはない。
「マジで趣味悪いな。祓ったら祓ったでエグいし、前回以上にやりづらい!」
「でも、どうしたらいいのかな。浄化を優先しても、この前と状況は変わらないんじゃ……」
「ユダ。どうしましょう」
ヨハネに現状のまま戦うのかと尋ねられるが、ユダも困惑し、戦いながら作戦変更を考える。
(シモンくんの言う通り、この戦法じゃ前回と何も変わらない。亡霊を浄化できるのが一番いいけど、それを優先していたら前回以上に消耗戦になる。それなら……)
新たな戦法を考えたユダは、ペトロたちに伝える。
「みんな。ハーツヴンデで戦おう」
「悪魔ごと祓うのか!?」
「その方が、使徒の力を使うよりも少しはマシな戦い方ができるかもしれない」
「……そうか。相互干渉の効果を狙うんですね」
ユダは頷く。
トラウマを具現化したハーツヴンデならば、相互干渉によって亡霊の苦しみを和らげ浄化することができるのではと考えたのだ。
「そんな戦い方は実践したことはないし、みんなには、浄化以上に精神的負荷が掛かるけど」
「でも、そうだな。この前と同じやり方じゃ無理だ」
「やってみようよ」
多少のリスクは構わず、ペトロたちはユダの戦法に切り替え、それぞれのハーツヴンデを具現化させる。
そして、襲い掛かって来る融合悪魔の軍勢を祓っていく。
「冀う縁の残心、皓々拓く!」
「泡沫覆う惣闇、星芒射す!」
「朽ちぬ一念、玉屑の闇!」
「来たれ黎明、祝禱の截断!」
ヨハネは稲妻が走る一閃を、シモンは降り注ぐ流星を、ペトロは光で闇を裂き、ユダは青白い輝きで融合悪魔を祓う。
「¥ェµ≮アッ!」融合悪魔たちは消え去る瞬間に、呻き声とともに苦痛の表情を浮かび上がらせ、ペトロたちも眉根を寄せる。
戦法を変えた使徒に、ビフロンスは目を細め喉で笑う。
「成る程。其の様な選択をされたのですね。其れも宜しいかと存じます。最後まで持ち堪えられると良いですねぇ」