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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第3章 Nähern─強さの裏側に─

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7話 支えられるプライド



「ヤコブさ。最初、ペトロにモデルマウント取ってたよね。その時から、ペトロを意識してたの?」

「意識してたっつーか……。初めての戦闘で防御したって聞いて、こいつやべぇかもってちょっと思っただけだよ。俺なんて、初戦はテンパったのに」

「初めての戦闘なんて、みんなテンパってたじゃん。だけど、ヤコブちゃんと戦えてたよ」

「そーだけど。なんか悔しくて」


 ヤコブはソファーの上で胡座をかき、モヤモヤを眉間に浮かばせる。

 ヤコブたちは一緒にスタートラインを切った者同士で、切磋琢磨する関係だった。だが、後から入って来たペトロは使徒としての“才”のようなものを発揮して、せめて仕事面では負けられないと、ヤコブはライバル意識を芽生えさせていたのだ。


「ヤコブって、結構プライド高いよね」

「そんなこと……。ちょっと張り合いたくなっただけだって」


 シモンの指摘を完全に否定しなかったヤコブは、砂糖で少し甘くした苦味が強めのコーヒーを飲んだ。


「仕事を取られたのが悔しいのって、モデルの仕事が好きだからなの?」

「え? 好きっつーか……」

「やり甲斐を感じてるの? 使徒の役目が終わったらモデルの仕事を続けようとしてるから、今のうちにたくさんやって、使徒じゃないヤコブ個人を知ってもらおうとしてるの?」


 シモンから、恐らくまだ先であろう未来のことを急に訊かれたヤコブは、自分の仕事に対する考え方を少し整理した。


「仕事にやり甲斐はあるよ。だけど、続けようとは思ってない」

「じゃあ。ペトロと張り合うのは、やっぱりプライド?」

「……ま。そうなるのかな」


 ヤコブはさっきはプライドを完全に否定しなかったが、今度は、どこか認めたくなさそうに肯定した。


「それじゃあ、落ち着いたら何やるの? もしかして、音楽とか?」

「……え?」

「だって。あそこにギターあるよね。たまに座って見てたりするじゃん」


 クローゼットの横に、黒いカバーに入れられたギターが立て掛けられている。だが、演奏に必要なアンプもエフェクターもこの部屋にはない。


「……音楽はやらねぇよ。まともに弾けないし」


 ずっと眠ったままのギターに目を遣ったヤコブだったが、すぐに視線を逸らして静かに否定した。


「使徒の役目が終わったら、学校に復学するつもりだよ」

「あ、そっか。そう言えば、継続教育カレッジを休学中なんだっけ。ギター弾いてるところも、見たことないもんね」

「あぁ」

(俺が音楽なんかやったら、きっと怒られる)


 だから、弾くためにギターを触る気はなかった。

 ヤコブは、気持ちが塞ぎ掛けた視線をコーヒーカップに落とす。するとシモンが、ヤコブの頭をポンポンと撫でた。シモンからそんなことをされたのは始めてだったヤコブは、どうしたのかと横を向いた。


「なんだよ」


 シモンは、心配そうな顔で撫でていた。


「だって。なんか傷付いた顔してたから……。音楽のこと、触れちゃダメだった?」

「んなことねぇよ」

「本当に? バンデだから、ヤコブが今どんな心境なのかはなんとなくわかるよ?」


 純粋なブラウンの瞳が、憂いを覗かせて見つめる。その寄り添う気持ちだけでも落ち着くヤコブは、微笑んで頭を撫で返した。


「なんでもねぇって」

「我慢しなくていいよ。ハグする? 慰めてあげるよ?」

(ぐっ……)


 それでも心配なシモンは、腕を広げてヤコブを抱き締める準備を整えた。そのかわいい懸命さが理性に刺さったヤコブは、本能に負けそうになって必死に堪える。

 だが、腕が広げられたことで容易に触れるほっそりボディーの魅惑に、手がワナワナする。


(ぐうぅ……っ)


 ヤコブは、理性と本能の狭間で葛藤する。両手は、欲望のままに動きたいと震える。

 葛藤に苦しまれたヤコブは、シモンの脇の下に手を伸ばした。しかしハグはせず、甘々になった脇をくすぐった。


「こちょこちょこちょ……」

「ちょっと! やめてよヤコブ! ハグしようって言ったのに! ちょ……やめてよ! あははははっ!」


 シモンは脇を閉じ、身体を捩って笑う。ヤコブは一分くらいくすぐり続けた。腹筋が痛くなるほど笑い過ぎたシモンは、涙を浮かべ息を切らした。


「もう〜。いきなりくすぐるの反則だってば〜」

「シモンがかわいいこと言うからだろ。俺の理性を平気で攻撃しやがって」

「だって……。ユダとペトロが堂々とイチャイチャするから、羨ましくて。だからボクも、ヤコブとイチャイチャしたいなって」

(ぐふっ……!)


 上目遣いでおねだりされたヤコブは、また理性のど真ん中を貫かれた。


(今たぶん、俺が甘えるシーンだったよな? いつの間にか、甘える側が甘えられる側になってないか?)

「だからってしないぞ」

「この前は、抱き締めてくれたじゃん」

「あの時はあの時だ。付き合う時、イチャイチャはほどほどにするって約束しただろ」

「ボクの十六歳の誕生日までは、節度を保った交際をする……」

「だから、まだお預けだ」


 ヤコブは、しゅんとしたシモンの頭をポンポンした。


「でも。ありがとな」


 シモンの優しさを思い切り受け取りたい気持ちは山々だが、自分から約束事をした以上は守り切るとヤコブは誓っている。

 本当は、心で抱擁して溢れんばかりの感謝を伝えている。だから、早く言葉だけでない方法で、思いを返せる日が来るのを心待ちにしている。シモンも待ち遠しく思っている日を。




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