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スパイクの、その先に

作者:

 夏の日差しが肌を焼く。これ以上焼けて、どうするんだよ。と、自分の日焼けで茶色い肌を見つめた。そのうち丸焦げになりそうだ。ちゃんとUVカットの日焼け止めを、毎朝、毎練習前に塗っているはずなのだが。

 軽く準備運動をして、立っているだけで、おでこや、背中にじわりと汗をかく。熱中症になってもおかしくない暑さだな、と苛立ちに任せて、ちぇっ、と舌打ちをした。

 文句を言っても部活はなくならないので、ため息をついてから、ウォーミングアップがてらかるく跳んでいると、ふと笹山の足が目に入った。

「スパイク、また変えたわけ?」

「まぁね。前のより、走りやすいぜ」

「いいね、それは」

「まぁ、おまえみたいな天才サマには関係ないんじゃねーの?」

 ただでさえあつい頭が、さらにあつくなった。気がした。

 ほんの少しの苛立ちが、夏の暑さで増幅したような、そんな感覚。思わず、言い返す。

「なんだよ、新しいスパイクを欲しいって思うのに、天才も凡才も関係ないだろ。あのさ、おまえみたいなブルジョアにはわかんないかもしれないけど、おれらみたいな」

「それこそ関係ないだろうが。走ることに、ブルジョアとか、プロレタリアとか、そんなん、関係あんのかよ」

 笹山がムッとした顔をして、まくしたてるように言った。

 はじめて見たな、その顔。なんて呑気なことを考えつつ、舌が勝手に動くような、どこか自分じゃないような感覚のまま、眉を寄せて、言い返す。

「少なくとも、新しいスパイクを買うことに関しては、関係がある」

 冷静になろうと、マネージャーがつくってくれた、キンキンに冷えたスポドリを口に流し込んだ。今日のスポドリは、なんか、酸っぱい気がする。

「だから」笹山が口を開きかけたその時、「一年! ペースランニング!」という、監督の掛け声がひびき、議論は中断され、お互い、いつか言い負かしてやる、と思いつつ、一生掘り返すことはないだろうな、という自信もあった。

「うぃーす」

「はーい」

 各々適当に返事して、スタートラインの方に向かう。

 スポーツドリンクをベンチの方に転がした。

 夏の日差しがジリジリと肌を焼く。もう焼けねえよ、と文句を呟いてみた。今日も、また最高気温を更新している。

「最高気温の日くらい、室内練にしてくれればいいのに」

「そうなったら、夏の半分は室内練になるぜ」

「間違いない。ってか、汗がキモすぎる!」

「わかるー、マジ不愉快。女子の高笑いより不愉快」

「女子の高笑いは不愉快じゃないだろ」

「どこがだよ、うるせえのなんのって。不愉快だろ」

「どの女子に聞かれてるかわからんぞ、あまり墓穴を掘るような真似はするな」

「うわ、こえー!」

 先程までの言い争いなど、何もなかったかのように。ゲラゲラ笑いあって、監督の指示通り、ペースランニングを始めた。

 


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