臨死体験
「マサシ……お前、マサシか?」
「うぅ、うーん……え、ここは、え、と、父さん!? 父さん!」
「おぉ、やはりマサシだったかぁ。うんうん。そうかぁ、会えるようにできてるんだなぁ」
「あえ、る? え、ここ、雲、え、まさか」
「そう、天国だ」
「え、ええ!? じゃ、じゃあ俺……」
「ああ、残念だがな……でもまあ、父さんはお前にまた会えて嬉しいぞ。立派になったなぁ」
「俺もだよ……でも、でもなんでだよ! なんであんな台風の日に外なんて行ったんだよ!」
「ちょっと……川の様子を見に行ってだな……」
「そんなことは知ってるよ! 母さんから聞いたさ! なんで、なんで川なんか……」
「すまないなぁ……父さんも悔しいよ」
「まあ、遺体が見つかっただけ良かったよ……いや、良くないか……ほんと、馬鹿……」
「すまない、すまないなぁ。しかしマサシ……お前、立派になったなぁ」
「ふふっ、まあ死んじゃったけどね。あれからえーと、俺中学生だったから七年くらい?」
「ああ、本当に立派になった」
「ふふっ、何回言うんだよ。それにどこを見て言って……えっ! 俺、全裸!?」
「今気づいたのか。それでなんだがマサシ。ちょっと聞き、ん、が」
――マサシ、おいマサシ!
「え、父さん、声が、あれ――」
「おい、マサシ! あ、気づいた! 気づいた! おぉぉ、マジあせったぁ……」
「え、ミツヤ。俺、ここ、あれ?」
「お前マジで気をつけろよなぁ。死んだかと思ったよ」
「死、え、あ、じゃああれは……臨死体験?」
「いやー、びびったびびった。ん……お、おい、何してんだ? 今日はもう帰ろうぜ」
「……ミツヤ、悪い。親父に会いに行くんだ」
「は、はぁ!? お、おーい!」
「マサシ。突然消えたと思ったらまた会えたな」
「やあ父さん。へへっまだ話足りなくてね。戻ってきちゃったよ」
「と、言うことはお前、まだ生きていたのか。しかし、また来たということは、なるほど。お前もやるなぁ」
「うん? まあ多分、大丈夫だと思うよ。友達もそばにいるし」
「友達も!? そうか、まあそういうのもありか」
「えっと、それでなんだけど父さん、俺に聞きたいことって?」
「いや、それはもういいんだ。よくわかった。お前はやはり俺の子。それも自慢の息子だ!」
「と、父さん……へへへっ、俺、その言葉が聞きたかったかもしれない」
「ふふふっ、まあこれも一応、言っておくか」
「え? なに?」
「あの日、父さんが死んだ本当の理由を。それはな……」
――マサシ、マサシィィィィ!
「あ、また、くそっ――」
「ぶはっ! ゴホッ、ゲホッ!」
「マサシィ! お前、また死にかけやがって! 何考えてんだ!」
「い、いや、今いいところだったんだよ……」
「いや、お前、そこまでして……」
「行くよ……親父が……待っている」
「親父……? お前の父さんは確か……ああ、そういうことか。ヘヴン……お前はお前で限界に挑戦というわけだな。わかったよ、行ってこい! でも、必ず帰ってくるんだぞ」
「アイルビーバック」
「マサシ、また来たのか」
「うん。集中したら来れたよ。コツを掴んだみたいだ。と、そんなことよりも、父さんが死んだ本当の理由だって? 聞かせてくれよ。まさか誰かに殺されたんじゃ」
「いや、お前も薄々感づいているだろうが、父さんはな、あの大雨の日、川を見に行ったんじゃないんだ」
「え、でも外には出たんだよね?」
「ああ、父さんが向かった場所はな、ああもしかしたら今、お前がいる場所と同じかもな」
「それって……」
「そう、風俗店だ」
「……ん? ん?」
「お前も知っているだろう。あの田舎町に一軒だけある風俗店のことは」
「いや、ん?」
「そう、雨の日は割引してくれるんだ」
「え、父さん?」
「しかも大雨だから、大割引になると嬢のブログでな!」
「ブログ見てんの……」
「父さん、昔から憧れがあってなぁ……腹上死」
「腹上死!?」
「まあ、あの日は上手く行かず、結局諦めたんだがまあ、その帰り道。橋を渡っているときに傘が風にあおられて川に、というわけだ。だが、お前が無念を晴らしてくれたということで、父さんはお前を誇りに思って、あれ? マサシ、マサシどこだ? マサシー!」
……はぁ、まさか父さんがそんな馬鹿な死に様だったとは。いや、腹上死がしたいってマジで……はぁ、呆れて戻ってきちゃっ……あれ、体が動かない。
やば、限界か。でもミツヤがきっと助けて、え、ミツヤ、お前までなんで、しかも、俺にピッタリくっついて……これじゃまるで……
「やっぱ、お、れ、も付き合う、ぜ……限界……快楽の向こうへ……俺たち……サウナー……だもんな……」