おまけ 獣人妻
マルクスは人間だが、獣人の里で医師をしている。獣人と人間はお互いを敵とみなして殺し合う血生臭い関係だが、人間社会では追われる立場のマルクスは、ここに逃げてくるしかなかった。
白衣のマルクスは仕事の休憩時間中に、いつものように紫煙を燻らす。
手元には戻ってきた書類。
マルクスが公爵家の血筋だと証明できる書類だ。
愛煙家のマルクスは書類を持ったまま、空を見上げスパスパと何本もの煙草を吸った。
獣人は鼻が利くので、煙草の匂いを付けていると「臭っ」と嫌厭されることが多いが、この里にはそんなマルクスと番ってくれた、ノラという美人獣人妻がいる。
ノラは生まれつき嗅覚を失っているから、煙草まみれのマルクスが口説きに入ってもホイホイ付いてきた。獣人は番を持つと一途だから、マルクスの母親のように他の男に簡単に股を開くことはない。そこがとても良い。
「捨てないで!」
帰宅して書類を見せると、ノラが泣き出した。
「私はあなたの匂いだけわかる! 病みつきになる煙草の匂い! 私はあなたがいるから生きられるの! 絶対に故郷になんて帰さないから!」
叫びながらノラが取り出してきたのは――縄だ。
獣人は重いくらいに一途だ。
そこがとても良い。
ペン先の欠片(@creative_SKGK)さんの煙草テーマ1ページ小説企画に参加したものです。




