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03.手に入れたら絶対に逃がさない――SIDEレオ

 気づいたら過去に戻っていた。あの悲惨な光景が嘘なら、夢だったらと強く願ったせいか? 結婚式当日の朝に戻れたことに、ひたすら感謝する。やり直せる。傷つけてしまった妻を今度こそ幸せに出来ると思った。


 レオナルド・フォン・ウント・ツー・リヒテンシュタイン。この国で国王に次ぐリヒテンシュタイン公爵家の嫡男として生まれた俺は、何でも手に入れてきた。欲しいと望めば誰かが用意して差し出し、望まなくても様々な物や人が集まってくる。齢12にして人生は詰まらないものと悟った。


 お世辞を使って阿る連中を適当にあしらいながら、人をチェスの駒に見立てて動かす。そのくらいしか楽しみを見いだせなかった俺の目を覚まさせたのが、ローザリンデ・フォン・アウエンミュラーだった。


 出会ったのは15歳の頃か。フォンの称号は、貴族なら全員が使えるわけではない。限られた一部の家柄の者のみが使用を許された。そんな数少ない名家のひとつが、アウエンミュラー侯爵家だった。その家には複数の令息令嬢がいるが、長女以外はアウエンミュラーの血を引かぬ継子だ。


 この社交界で「継子」と表現されるのは、家の血を引かぬ浮気の子や庶子を示す。つまり、アウエンミュラー侯爵家にいくら子どもがいても、長女以外に価値はなかった。一族の血を引く侯爵夫人が身罷った今、アウエンミュラーの本家筋はただ1人だ。


 故に彼女の競争率は高かった。その価値を理解していないのか、逆に違う意味に捉えたのか。アウエンミュラー侯爵を名乗る元伯爵家次男は思い上がった行動に出た。実の娘であるローザリンデ・フォン・アウエンミュラーを、高位貴族に高く売りつけようと考えたのだ。


 ティーパーティーが行われる王宮の庭園で、ローザリンデ嬢と出会った。アウエンミュラーの血筋を証明する真っ赤な髪が、まるで薔薇のようで。鮮やかな命の色に目を奪われた。病的に青白い肌、不自然なほどに肌を覆うスカーフに眉を寄せる。


 貴族令嬢は白い肌を誇り、食事や血を抜くなどの行為を好むと聞くが……彼女もそうなのか? ふらりと倒れかけたローザリンデ嬢は軽く、驚いて抱き上げた。このまま空に溶けて消えてしまうかと心配になる。スカーフがズレて覗いた肌には、小さな傷が複数見受けられた。


 なるほど、傷を隠すスカーフか。彼女の意識がないのをいいことに、他の貴族令息の前でスカーフを落とした。歩きながらさり気なく行ったため、拾った令嬢が近づいて息をのむ。同様に俺も今気づいたフリで目を見開いた。


 虐待の疑いがあると噂になれば、アウエンミュラー侯爵家に王家の視察が入る。それが狙いだった。それから数ヵ月、俺は思惑通りに進んだ事態に頬を緩める。傷がある令嬢を誰が娶るか、他の貴族家が二の足を踏む状況で、我がリヒテンシュタイン公爵家が名乗りを上げた。


 アウエンミュラー侯爵が驚くほどの、高値を付けて――ローザリンデ嬢は俺の婚約者となったのだ。あの赤い美しい髪を誰にも触れさせたくなかった。目覚めて恥ずかしそうに肌を隠した彼女の慎ましさに心惹かれ、礼を言って微笑んだ美しさに見惚れる。すべてが好ましかった。


 ああ、この子が欲しい。あの日に俺は誓った。手に入れたら絶対に逃がさない、と。

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