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14.裏切られたとしたら私が悪い

 毒を盛られたのだから、一ヶ月以上は時間を稼げるはず。アンネと計画を練っていく。あれこれと一緒に夜を過ごさず済む作戦を考えたが、どうやっても一年は厳しかった。


「何かなかったかしら」


 過去の記憶でも、夫レオナルドと夜を明かしたのは数回だけ。運が良かったのか、悪かったのか。すぐに子どもが出来た。それ以降は一度も抱かれていない。妊娠中にあの女が現れたから、それが影響しているのかも。


「アンネ、レオナルドの浮気相手は覚えている?」


「忘れるものですか! 覚えておりますとも!!」


 ぐっと拳を握るアンネの顔は、恐ろしいほど怒りに満ちていた。自分のこと以上に感情を露わにするアンネを見ると、逆に私が落ち着いてしまうわ。私以上に、私のことで怒ってくれる人がいる。嬉しくて頬が緩んだ。


 前世でもアンネは私に優しかった。いろいろと苦労をさせたから、今度はきちんと報いてあげたい。男爵家の三女なら、女侯爵の補佐も務まるわ。侍女長なんて中途半端な地位じゃなく、女性でありながら立派な補佐官として立場を確立して欲しい。彼女なら私を裏切らないし、裏切られたとしても許せた。


「あの女は、まず奥様の補佐をする名目で屋敷に入りました。ご結婚から半年も経たないうちですね。当時は侍女達の間でも、おかしいと噂になりました」


 あと半年。記憶と差はない。やっぱり普通に考えておかしいわ。


「私の教育係じゃなかったわよね?」


「私が聞いたのは、奥様が公爵夫人としてお仕事をなさる補佐役でした。その頃、領地運営に問題があって、旦那様が領地へ戻られましたね。旦那様の仕事が奥様に振り分けられたので、補佐が必要になったと覚えています」


 眉を寄せて考えこむ。私が聞いた説明と違うわ。執事は「奥様が公爵夫人として振る舞うに相応しい教育係をお呼びした」と言った。前世の私は素直に信じて、執事に任せたの。今になれば、愚かなことだわ。執事も敵だったんだから。


「アンネ。記憶のすり合わせが必要よ。私はあの女が、教育係だと聞いていたの」


 驚いた顔をした後、アンネは黙って考えていた。それから困惑した様子でぽつりと呟く。


「私と奥様の記憶に違いがあるとしたら、どちらが正しいか判断する基準が必要ですね」


 前世の記憶を持つ第三者を見つける必要がある。そう言い置いた後、彼女は言いにくそうに続けた。


「実は、旦那様も記憶をお持ちです」


「……どうして、それを……アンネが?」


 あなたが知っているの? まさか夫と繋がっていて、すでに私は抜け出せない罠の中にいるのではないか。同じように閉じ込められて、また苦しみながら死ぬの? 震えながら自らを抱き締めた私に、床に伏せたアンネが謝罪を口にした。


「申し訳ございません、奥様。結婚式の夜に奥様が眠った後、旦那様とお話をしました。旦那様は前世の奥様の死因を、病死だと思っておられます」


 病死……? 殺されたのよ、公爵夫人が餓死したなんてみっともないから、死因を捻じ曲げたのでしょう!?


 かっと頭に血が上った。アンネも裏切るかも知れない。深い話はしない方がいいの? でも彼女がいなければ逃げられないわ。だけどアンネは夫と繋がっていて……ああ、もう。どうしたらいいのよ。


 混乱する私をアンネは真っ直ぐに見つめる。緑の瞳を逸らさず、嘘はないと示しながら口を開いた。


「私は奥様のために死ねます。あの花瓶を割った私は、罰として奴隷に落とされたでしょう。救ってくださった奥様に、感謝しています。奥様が逃げたいなら命に替えて逃しますし、旦那様に復讐なさるなら全力で協力いたします」


 じっと見つめ返す。緑の瞳は時折瞬くけれど、涙を溢さなかった。だから信用しようと思う。さっきも思ったじゃない。前世のあの献身があるから、アンネを信じようとした。ならば、最後まで信じ抜こう。それで裏切られるなら、私が悪いのよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  「この人になら裏切られてもしょうがない。かまわない」  そう言える人が、真に信じられる人が居るという事がローザリンデの心の支えなんでしょうね。  そこを裏返せばそれだけローザリンデの人…
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