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13.寝ている暇なんてないわ

「貴族の、直系による復権の……申請」


 どこかの家で行われた、親族からの干渉を撥ね除けた直系令嬢の申請があったわ。あれは前世で聞いたの。未来の話だけど、復権するための手続きが存在する。貴族法のどこかに、記載されているはずよ。その一項を利用して、そのご令嬢は己の権利を取り戻したのだから。


 私にだって出来るはず。


「アンネ、貴族法の本が手に入らないかしら」


「貴族法、ですか。他の侍女に頼んでみます」


 アンネの足はまだ腫れているから。他の侍女に頼んだ方がいいわ。そう考えた私だけど、アンネは違ったみたい。私達は、護衛によって()()()()()いる。その事実を、私はまだきちんと認識できなかった。


 もうひとつ。前世で行われた重要な夜会のことも……失念していた。


 毒による腫れが引いても、外へ出ることは許されない。しかし本などの持ち込みは可能だった。外にいる侍女を使い、アンネはこまめに本やペンを手に入れる。それを使い、書類の書き方を学んだ。


 前世で必要としなかった知識だ。貴族令嬢が己で書類を作成することはなく、執事や夫の補佐官に任せれば済む。ただ、アウエンミュラーの領地を取り戻したら、私が領主になるのだから。書類の作り方や読み解き方を知らないでは済まないの。誰かに任せて、不正を働かれたら困る。


「奥様、こちらの法は使えませんか?」


「少し違うけど、近いわ。この近くにあるかも」


 騎士が入り口を見張っているため、入室時は必ず声が掛かりノックされる。それを利用して、私とアンネはベッドの上に本を広げた。足を痛めているアンネが恐縮するのを宥めて、ベッドに座らせることも成功している。誰かが来たら、アンネは隣の椅子に降りて、私は上掛けで本を隠せばいいの。


 何度か練習して、隠すのは自信があるわ。食事や着替え、掃除などに入る侍女が出ていくと、すぐに本を開いた。アンネも私と一緒に部屋に監禁状態だけど、手伝ってもらえるから助かるわ。それに彼女は無理して働きそうだから、動かなくていい環境は足の治療に最適だった。


 貴族法は難しい言葉を使って書かれ、文字も古い書体ばかり。ずっと改正されないから、新しい本が発行されていない。つまり古くて放置された中に、私が必要とする情報は埋もれていた。


 未来にこの法を見つける少女には悪いけど、先に利用させてもらうわ。男爵家できちんとした教育を受けたアンネがいて、本当に助かっている。私一人で読んでも進まないし、見落としが出そうだから。聞きなれない専門用語ばかりの文字は、目が滑ってしまう。内容を理解するのは、声に出して読み合うのが早かった。


 何度も読み返し、一行の文字に目が釘付けになる。あった! これよ!!


「アンネ、やったわ」


「後は書類を作って提出するだけですね」


 本にしっかり栞を挟み、手を握って喜び合う。申請書類には雛型があるから、その書式に沿って作成すればいいのよね。希望が見えてきたわ。


「アンネ、白い離婚って何年だったかしら」


「……1年です」


 レオナルドとの離婚も同時に動かなくては。私がアウエンミュラー侯爵の地位を取り戻しても、リヒテンシュタイン公爵夫人のままでは同じ。夫の所有物だった。彼と離婚するために、やはり庇護者が必要になる。


「先は長いですが、頑張りましょう」


 アンネの前向きな言葉に、吐き出しそうになった弱音を呑み込んだ。

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