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12.だって彼は駆け降りてきたんです

 私が倒れた後の状況を、アンネはぽつりぽつりと語った。出来るだけ聞かせたくないと思っているのね。気遣いは嬉しいけれど、知らないと動けないわ。そう諭して話を聞き出した。


「倒れた奥様を咄嗟に支えて、でも私は堪えきれずに膝を突きました。このままでは奥様と頭から落ちると思ったので、前傾姿勢を取って後ろに踏み出した足に力を入れたのです。捻ったのはその時だと思います」


 アンネは「足を捻っただけ」と言うけれど、その程度じゃないわ。筋を傷つけたか、骨を痛めたかも知れない。お医者様の固定を見ると、ヒビの心配をしたのだと思う。後ろで堪えた時に手摺りの柱を蹴ったなら、かなりの衝撃を受け止めた筈よ。


「毒針の仕掛け人が執事だと思ったのは、どうして?」


 アンネは執事の行動に違和感を覚えた。その理由が気になる。レオナルドに直接進言するほど、確証があったのよね。周囲は誰も気づかなかったのに。


「赤い花粉も毒でした。侍女の私が知ってる知識なのに、執事が知らないなんておかしいと。最初はそこが気になりました。確信を持ったのは、階段をあの人が()()()()()()()からです」


 その時の私の記憶は、すでに毒で曖昧だった。アンネは誰がどこから駆けてきたのか、並べていく。


「ハウスメイドが二階にいるのは分かります。私達は食事を終えて二階へ向かいました。だから、同じ一階にいたはずの執事が、上から来るのは()()()()んです。実際、旦那様は下から駆け上がったのですから」


 まだ一階にいる執事が、上から降りてきた。つまり急いで二階に駆け上がる用事があったのだ。それも主人であるレオナルドを放置して、使用人用の階段を全力で駆け上がるほどの……緊急性がある用事。


「凄いわ、アンネ。あなたが味方で、本当に心強い」


 左足が痛いと訴えた私の声を聞いて、お医者様に伝えたのもアンネの手柄だわ。彼女は命の恩人ね。褒めると真っ赤な顔で照れる。そばかすが残っていて、ほっとする子だった。私より少し年下かしら。そう言えば、尋ねたことがなかったわ。


「アンネはいくつ?」


「21です」


「……え?」


 17、8だと思っていた。あ、でも彼女は私と同じ記憶持ちだから。前世の年齢かもしれないわ。


「戻る前の年齢も足して、よね?」


 念押ししてしまう。だって私より年上だなんて、いえ……しっかりしてる子だけど。


「現在の年齢で21です。奥様は18歳ですよね」


 確かに18歳よ。3歳年上なのですと笑うアンネの顔をじっくり見て、童顔なのねと呟いた。そばかすがあるから? それとも顔立ちそのものかしら。


 教育や躾がうるさい貴族令嬢は全体的に大人びた印象になるし、平民だと子どもっぽいと聞くけれど。アンネも男爵家の三女なのに、変ね。


「昔から子どもっぽいと言われるんです」


 ぷっと頬を膨らませたアンネの顔に、堪えきれず肩を揺らして笑う。うふふっ、そうなの。年上だったのね。


「そんなことより、奥様! 逃げる先を決めないと!!」


「わかってるわ。でも頼れる人がいないの」


 祖父母はすでに亡くなり、実母も同じ。父は侯爵家を乗っ取った。その説明は辛いけれど、これからも運命を共にするアンネに話しておく必要がある。お気の毒にと涙を浮かべたアンネに、私は笑おうとしてぎこちなく顔を歪め……堪えきれずに涙を落とした。


 親戚は父を排除して、自分がアウエンミュラー侯爵家の当主になる選択をするだろう。逆らえず嫁いだ私は、アウエンミュラーを継ぐに相応しくないと主張するはず。でも、直系は私だけ。


 ――そうよ、その手があったわ!

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