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外伝2-3.それだけ愛しているのよ

 アンネの出産は、私やロッテ様の時より長かった。心配で王宮から帰れないため、伝令を出してもらう。アンネの夫アルノルト様を連れたヴィルも、すぐに王宮へ向かった。国王ラインハルト陛下も駆け付けるんだもの。王宮中が大騒ぎだった。


 私とロッテ様は、子ども達と共に客間で過ごした。隣の部屋からは、苦しそうな声が聞こえる。抱き着いたフィーネが泣きそうな顔をした。


「アンネおばさま、いたいの? くるしいの?」


「そうよ、あなたもそうして産まれたの。王妃様も同じ、痛いけど産まれて欲しいから頑張るの」


 部屋を遠ざけて、子ども達の耳に届かなくすることは簡単。でもせっかくの機会だから、フィーネに説明を始めた。同室の男性達は顔を青くしている。何度立ち会っても生きた心地がしないと言いながら、国王陛下はお酒を煽った。男の方は意気地が無いのね。


「あんなに長い時間痛いのですか?」


 アルフォンス王子殿下が、隣の部屋に続く扉を見ながら、両手をぎゅっと握り合った。祈る形になった手に、ロッテ様がそっと手を重ねる。


「痛いわ。一晩中痛いし、もっと長い人もいる。でもね、産まない方がいいと思う親なんていないの。どれだけ痛くても、あなた達に会いたいから頑張れたわ」


 ぎゅっとフィーネを抱き締める。駆け寄ったエーレンフリートも、一緒に腕に閉じ込めた。


「それだけ愛してるのよ。何があっても、お母様はあなた達の味方だからね」


「こりゃ、男性は女性に敵わないな」


 ラインハルト陛下の苦笑いに、ヴィルも同調した。


「泣いているのに気づくのも、母親の方が早い。我々に出来るのは、そんな妻子を外敵から守ることでしょう」


 話が途切れた時、赤子の泣き声が響いた。無言で腕を組んでぐるぐる歩き回っていたアルノルト様の顔が綻ぶ。扉に近づいて、開くのを躊躇った。


「早く行け」


 ヴィルの促しに、一礼したアルノルト様は勢いよく扉を開け、恐る恐る入室した。後ろ手に扉を閉めた彼を見送った私達は、ほっとした顔で頷き合う。軽食が用意されたけれど、子ども達以外誰も手を付けなかった。少しお腹が空いたわ。


 安心したら空腹を覚えた私は、ロッテ様とテーブルへ向かう。赤子の泣き声に興味津々の子ども達を連れて、飲み物に手を伸ばしたところで……また呻き声が聞こえた。


 あっ! そうだわ、双子の可能性があったのよ! 顔を見合わせた私とロッテ様が息を飲む。青ざめていく男性二人を放置して、扉に駆け寄った。


「がんばって、アンネ」


「あなたなら産めるわ」


 一人目を産んだ後、すぐにまた二人目を産む。私達も経験したことがない痛みを堪えるアンネの悲鳴が途切れ、赤子の泣き声が増えた。感動して、扉に縋るように座り込んでしまう。


 向こう側から開かれた扉、そしてアルノルト様の嬉しそうな声が聞こえる。妻アンネを労わる彼の声に重なったのは、産婆の誇らしげな宣言だった。


「女の子二人、立派な初産でしたよ」


 おめでとう、アンネ。あなたもこれで母親になったのね。

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