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外伝2-1.幸せの庭園で――SIDE王妃

 もうすぐお誕生日ね。私の可愛い息子は、今日も走り回っている。王子として生まれたこの子ももう6歳、他国から婚約の打診が届き始めた。もちろん、すべてお断りする予定よ。


 この子が生まれた日は、親友ローザの結婚式だった。好天に恵まれ気持ちのいいガーデンパーティーの途中で、産気づいてしまった。本当にギリギリで危なかったわ。帰り際に破水したら、彼女の思い出の初夜を台無しにするところだもの。そんなことになったら、お詫びのしようがない。


 幸いにして、この子はすぐに産まれた。初産は大変だと聞いていたけど、痛みはともかく早く産まれてくれて助かったわ。走り回る長男アルフォンスの後ろを、とてとてと拙い足取りで追いかける幼児は、次男のコルネリウス。あと数ヶ月で3歳になる。


 立て続けに男児を産んだので、女の子が欲しいと贅沢な願いを抱いてしまった。将来のお嫁さん候補は、アルブレヒツベルガー大公家の長女フィーネだ。ローザが産んだ最初の子で、もうすぐ4歳になる。アルフォンスの奥さんにぴったり。


 ふふっと笑って、用意したテーブルの準備をもう一度確認する。アルブレヒツベルガー大公妃であるローザを招いて、お茶会をする予定だった。もうすぐかしら。今日はシュトルツ伯爵に嫁いだアンネも来てくれるんだったわ。気が置けない友人達とのお茶会は、いつも子ども同伴なの。


 ローザはフィーネとエーレンフリートを連れてくるし、アンネは身重だわ。そろそろ出産祝いを準備しなくては。役に立つものがいいわよね。考えながら、視線を巡らせると……二人の息子は花壇の土に手を汚していた。


「アル、コリー、こちらへいらっしゃい」


 友人が到着する前に綺麗にしなくちゃ。袖まで汚していないといいけれど。心配しながら呼んだ二人が振り返ると、袖どころか胸元も泥が飛んでいた。


「殿下方の着替えをご用意します」


「お願いするわ」


 気の利く侍女に頷いて、準備を頼む。さっきまでは早くローザ達が来ないかと思っていたけれど、今は少し遅れて欲しい。綺麗にしてから到着が望ましいわね。我が侭な自分に苦笑して身を起こしたところへ、アルが戻ってきた。


「ごめんなさい、お母様。汚してしまいました」


「いいわコリーに付き合ったんでしょう? 着替えを用意させたわ……着替えてっ! あら」


「コリー!」


 着替えてきなさいと伝えるつもりが、どすんとドレスにぶつかったコルネリウスに気付いて途切れた。悲鳴に近い声で弟の名を呼んだアルが、慌ててコリーを引き剥がす。が、遅かった。泥だらけの手で抱き着いた代償は、レモンイエローのドレスにくっきりと跡を残す。


「うわぁあああ! にぃたまのばかぁ」


 大泣きを始めるコリーは、大好きな母に抱き着いたら兄アルに邪魔されたと思ったらしい。大粒の涙をこぼし、それを手で拭う。当然顔も泥だらけになった。もう手を拭いて着替える程度では収まらない。


 怒る気はないけど、なんだかおかしくなってしまった。ふふっと笑い、泣き続けるコリーが飛びつくのを許す。それから困惑した顔で立ち尽くす長男アルを手招きして、両手で抱き締めた。


「皆で着替えましょう。さあ競争よ」


 間が悪いとはこのことかしら。そのタイミングで、大公家の馬車の到着を告げられた。

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