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現実に怯えながら

 翌日、零次は普通に通学していた。アンフォーギヴン達から開放され、表面上は日常へと帰っていたのだ。

 少し気持ちの整理をした方が良い。レイヴンにそう言われ帰宅したが、零次の心は穏やかとは正反対。混乱し恐れていた。

 もしこの事が知られれば。そうなれば今までの関係は崩れ自分は敵と見なされるかもしれない。

 そしてもう一つ、恐ろしい事実を聞かされた。それが真実なのかは確証はもてない。だが後戻りは出来ない場所まで引きずられたようだ。


 学校では常に陰鬱な気持ちだった。優人達から逃げるように一人で通学し、学校でも誰とも話さぬようにしていた。

 歩いた道を振り向けば黒い羽が散らばる幻覚を見て、鏡に映った自分の顔がカラスに見える。

 今日はずっと何かに怯えているようで、教師からも心配されていた。


 そんな昼休み。零次は一人で校庭の隅にいた。ボーッと突っ立ったまま昼食もとらずに。

 すると遠くからこちらに近づいてくる足音が聞こえた。


「零次!」


 顔を上げた先に瑠莉と優人がいた。二人とも心配そうに駆け寄る。

 だが今の零次にとって一番会いたくない存在だ。怖い。二人に拒絶されるのが、自分の正体を知られるのが。


「どうしたのよ。今日何か変だよ。私達を避けてるようだし」


「本当、どうしたんだ?」


 二人は心配しているようだが零次は気が気じゃない。


「いや、構わないでくれ」


「構わないでって。もしかして真美や早苗に何か言われた? 優人、あの二人零次にキツイんだから何とか言ってよ。私が言っても聞かないし」


「あー、あいつらなりに零次を気遣ってんだよ。激を飛ばしてるってか」


「……もう」


 呆れたように頭を抱える。そんな二人のやり取りを聞きながら、零次は決心したように話し始める。


「いや、あの二人は関係無いよ。それよりさ…………二人は毘異崇党をどう思ってる? あいつらが来てから、地球に良い事ってあったかな」


 質問の意図が解らず二人はキョトンとした。何を言っているのか全く理解できない。


「え? 毘異崇党が来てから悪い事ばっかじゃない。街も壊されて、多くの人が被害にあってるのよ」


「あいつらはただの侵略者だろ。あ、でも毘異崇党の対応に追われて人間同士の戦争が無くなったのは良い事かもな」


「ちょっと、不謹慎じゃない?」


 零次は考えるように俯く。


「悪い悪い。てかどうしたんだよ零次。悩みでもあるのか? 俺達じゃ相談相手にならないか?」


「幼なじみじゃない。ね?」


 優しい。こうやって昔からいつも親身になってくれてる。二人の事は好きだ。だからこそ余計に苦しい。

 昨日の事が、知りたくなかったと。

 このままではどうにもならない。零次は重々しく告げた。


「…………俺は元アームズブレイヴァーだ。もう俺には戦う力は無い。もし報復に来られたらって思うと心配でさ」


 ()()()()()()()()。正直な気持ちだ。

 零次の言葉に二人は納得し、同時に優しく笑いかける。


「大丈夫だって、俺達の正体は隠されてんだし。それに万が一の時は俺が零次を守る」


「そうだよ。だから心配しないで」


 そっと瑠莉は零次の手を握る。彼を安心させるように、優しく。しかしそれは逆効果だった。


「ヒッ……」


 自分の手が、瑠莉に握られた右手が鳥のように見えた。少しでも握り返せば鋭い鉤爪が彼女の手を貫くだろう。

 勿論これは幻だ。実際彼の手は人間そのもの。二人には見えていない。

 しかし零次は恐怖のあまり手を振りほどいてしまう。


「零次……?」


 瑠莉も驚いていた。こんな事をするような人じゃない。もっとおとなしく穏やかな人物だったはずだと。

 零次は瑠莉の様子に気付き慌てる。


「ご、ごめん。ちょっと具合悪くてさ。早退するよ」


「ちょっと、本当に大丈夫なの?」


 すると手を伸ばす瑠莉を遮るように優人が前に出る。


「わかった。瑠莉は教室に戻ってて。零次は俺がついてくから。零次、保健室行くか?」


「大丈夫、一人で帰れる。先生には職員室に寄って伝える」


 そう言い残しふらついた足取りで立ち去る。まるで逃げるように。

 教師も彼の様子を心配し、零次は即座に早退した。帰り道も虚ろで危なっかしさがある。それでも足は自宅へと零次を運び、すぐにアパートの前に着いた。

 帰ってどうしようか。このままいなくなった方が良いのではないだろうか。それとも……

 物騒な事が頭を過るも、零次は深いため息をついて思考をリセットする。

 今は落ち着いて状況を整理すべきだ。自分が何者なのか、この世界に何が起きているのか。真偽を確かめ立ち向かわねばならない。


「そうだ、俺だって……」


 地球を守る戦士、武神諸隊アームズブレイヴァーのメンバーだったのだ。何時までもくよくよしてはいられない。そう自分に言い聞かせる。

 その時だ。


「ちょっと、そこのあんた」


 後ろから声をかけられ振り向く。そこには少女が一人、こちらを睨んでいた。

 年頃は同じくらい。背中まである長い髪、シャツに短いスカートと学生服だが、体型がわからなくなるくらい大きなセーターを着ている。大きく空いた胸元からは金色の指輪をネックレスにし、目付きも少しキツめの印象がある娘だ。


「俺?」


「そう。あんた矢田零次でしょ?」


「そうだけど……」


 見覚えの無い少女だ。確実に初対面なのに、妙に高圧的なのが気になる。


「どちらさん? いきなりあんただなんて言われる間柄じゃないと思うんだけど」


「別にいいでしょ。それより話しがあるの」


 彼女が何者なのか零次は考える。一つだけ思い当たる節があった。自分が抜けた後のアームズブレイヴァーのメンバーだ。女性であるのは瑠莉から聞いている。おそらく彼女なのだろうと一人納得する。

 だが、その予想は裏切られた。


「これ見ればわかるでしょ」


 足元に置いてあったバッグを開けて中身を見せる。そこにあったのは白い機械のバックル、ワイルドユニットだった。

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